第5章-86 不機嫌なフク
僕はコウと休憩室に戻った。
コウは新しいお茶を淹れ僕に手渡した。
「すみません、ゼロユイさん。
セキさんは怪我のせいか、少し苛立っていたようです。」
僕は首を横に振った。
「ううん。セキさんに会いたいって言ったのは僕だし、質問にうまく答えられなかったから。」
僕は一呼吸おいて、コウの顔を見た。
「コウさん、どうして僕はセキさんに疑われているの?
僕、本当に何もしてないんだ。
フクだって、たまにイタズラするけど、誰にも迷惑かけてないよ。」
コウはお茶を静かに置いて、微笑んだ。
「それはですね。
セキさんも、ガイさんも、過去を忘れていないからです。」
「……過去?」
「ええ、そうです。
過去に貴方のように利口で、仲間想いな人がいましてね。
その人が治安を悪化させてしまったんです。」
僕は意味が分からず目を見開いた。
「治安を悪化?
頭が良くて、仲間想いなのに?」
「ええ、その人は自分の大切な人達を……大切に扱いすぎたんです。」
「よく分からないよ。
僕とどう関係があるの?
頭が良い人や、仲間想いな人は……嫌われるの?」
コウは穏やかに笑った。
「そんな事はありません。
セキさんだって昔から頭が良かったですし、そんな人は宝と同じです。」
「じゃあ、どうして?」
「それは……。」
コウは少し困ったように笑った。
「コウさん、お願い。
僕はもう疑われるのは嫌なんだ。
教えてよ。どうすれば疑われないの?」
「疑われない方法はありません。
ですが、貴方が今のままでいれば、誤解はきっと解けます。」
「うん……。」
僕はお茶の香りを一気に吸い込んだ。
とても甘い香りがした。
「やっぱりコウさんは優しいよ。ちょっと待っててね。」
僕はバッグをあけ、フクを両手で取り出した。
フクは少し不機嫌そうにコウを見ている。
「こちらは、フクさんですね?」
「うん。帰ったら家にいたんだ。
怪我もしてないし、元気で一緒に水浴びしたよ。」
「それは何よりです。
でも、フクさんはともかく、ゼロユイさんは水浴びはほどほどに。
風邪をひいてしまいますよ。」
僕はしゃぐように笑った。
「大丈夫だよ。
大きなマフラーをもらったから。
あれを巻いたら、すぐに温かくなるんだ。」
「それは素敵ですね。
誰からもらったのですか?
サクさんやガーディさんでしょうか?」
僕は首を横にふった。
「フィナさんっていう人。
綺麗な銀髪で、女神様みたいに優しい人なんだよ。」
コウの顔が一瞬だけ真顔になった。
だが、僕は気づかなかった。
「そんなに綺麗な方なら、僕も会ってみたいですね。
今度ご紹介願えますか?」
「そ……それは無理……かも。」
「何故ですか?」
「えっと、その……恋人がいるからだよ。
コウさんが嫉妬されちゃうかも……しれないから……。」
下手な嘘をついた僕を見て、コウは笑い声をあげた。




