第5章-82 病院の裏口
ポンチョを受け取った次の日。
僕は胸の前でバッグを抱え、コウのいる病院に向かっていた。
バッグの中にいるフクに声をかける。
「ついて来てくれてありがとう。
もう少しだからね。」
「ホウッ」
コウの病院に到着した。
手紙に書いてあった裏出口へと向かう。
「この扉かな。」
中に入ると受付があり、優しそうな女性が座っていた。
僕を見て驚いている。
「あら、子供?こっちは裏口だけど……間違えてない?」
「ううん。僕、コウさんに会いにきたんだ。
裏口から入って来てって。手紙もあるよ。」
「コウ先生が?
少し待ってて、確認をとるから。」
女性は書類を確認し始めた。
その時、ちょうど紙袋を持ったコウがこちらに歩いて来た。
「ゼロユイさん、時間ピッタリでしたね。
よく来てくださいました。」
コウは僕の手を繋ぐと、女性に笑顔で言った。
「この子は僕の大切なお客様のゼロユイさんです。
次からは顔パスしてあげてください。」
「は……はい。
他のスタッフにも伝えておきます。」
女性が頭を下げたのを見ると、コウは近くの部屋に僕を連れて入った。
部屋の中はこじんまりとしていて、小さな本棚や、テーブルとソファー、そして給湯室があった。
休憩スペースのようだ。
「座ってください。お茶はいかがですか?」
僕はソファーに座り、フクの入ったバッグを隣に置いた。
コウは給湯室で、お茶をカップに2つ注ぎ、1つを僕に手渡した。
とても爽やかな香りがした。
「ありがとう。コウさん、話って何?」
「ええ。あなたは以前、僕のようになりたい。
そう言ってくださいましたね。」
「うん。僕もコウさんみたいに、誰かを助けられるようになりたい。
だって格好いいし……。」
僕がそう言うと、コウはフワリと笑った。
「それは何よりです。
ゼロユイさん。よく聞いてください。
僕はあなたが本気で医者を目指すなら、最高の環境を用意したいと思っています。」
「え?それって、どういう意味?」
「分かりませんか?
貴方を僕の病院に迎え入れたいんです。」
僕は目を丸くした。
「待ってコウさん。
僕は誰かを助けられるようにはなりたいけど……医者になりたいとかは……。」
「そうなのですか?
医者の素質があると言った時、喜んでくれましたよね。
あれは僕の聞き間違えだったのでしょうか?」
「確かに言ったけど……でも、その……。」
言葉につまる。
コウは少し悲しそうな顔をした。
「僕が勝手にはしゃいでしまっただけのようですね。すみません。」
コウが頭を下げた。
僕は慌てた。
「僕こそごめんなさい。勘違いさせちゃって…。」
「いいえ、ゼロユイさんは悪くありません。
ですが、医療の知識はあるに越した事はありませんからね。」
コウは紙袋を手渡してきた。
「良かったら読んでみてください。
最新の医学書です。
それと、貴方に医者の素質があると言ったのは本当ですから。
もし医療に興味が出たら、僕はいつでも歓迎しますよ。」
「あ……ありがとう。」
コウから紙袋を受け取った。
ずっしりと重い。
コウは微笑むと、お茶をまた飲み始めた。
「本当は僕の家でお話ししたかったのですが、今は大切な方が入院していて……病院を離れられないんです。」
「それって、前に話してた裁判長さん?」
「ええ、裁判長のセキさんです。
フフッ、さすが記憶力が良いですね。」
「そんな事ないよ。
だって、コウさんの大切な人って気になるし……。」
コウはお茶をテーブルに置いた。
「セキさんが気になるのですか?宜しければ会ってみますか?」
「気にはなるけど……。
入院してるって事は、会ったらダメなんじゃないの?
それに裁判長さんって、国で1番偉い人だよね。
僕に会ってくれるかな。」
「大丈夫ですよ。セキさんは寛容です。
お茶を飲んだら会いに行きましょうか。」
コウはカップを再び手に取ると、静かにお茶を飲み干した。




