第5章-75 昔話の手術室
ーコウの病院/手術室ー
セキは手術室に運び込まれ、手術台に寝かされた。
息は浅く、目も開けられない状態になっていた。
だが、意識だけは飛ばないよう、再び歯を食いしばっていた。
セキの耳に静かな声が聞こえてきた。
「セキさん。僕の声が聞こえますか?」
セキはうっすらと目を開けた。
目の前には穏やかに笑うコウの姿があった。
「コウ……か。」
「ええ、そうですよ。
意識はありそうですね。」
「当然……だ。
簡単に手放すものか。」
「フフッ、セキさんらしいですね。
ですが、もう大丈夫です。
証拠を掴んだのでしょう?
本当に、夜通しでよく頑張りましたね。」
コウの声がセキの緊張を解いていく。
セキは体の力を抜いた。
「そうだ。」
「あとは体を治すだけですね。
僕に任せて頂いても宜しいですか?」
「……お前以外に誰がいる?」
コウは声を出して笑った。
「セキさんにそう言っていただけるなんて、光栄です。
でも、もっと甘えてくれても良いんですよ。」
セキの口元が軽く緩む。
「甘えるだと……お前にか?」
「フフッ、手術が終わったら添い寝でもしましょうか。
貴方はそうしないと眠れないとよく言って……。」
「いったい、いつの話をしている?」
「ただの思い出話ですよ。」
セキは息を静かにはいた。
「今はよせ……早く終わらせろ。」
「そうですね。それでは失礼します。」
コウは用意していた注射器を持った。
中には麻酔が入っている。
「目覚めたら、たくさん話しましょう。」
麻酔を打った。
セキの目がゆっくりと閉じていく。
セキの目が完全に閉じ、静かな寝息が聞こえ始めた。
コウは縫合の準備をしながら、セキに語りかける。
「セキさん。本当に、よく生きて帰って来てくださいました。」
コウはセキの傷口の周囲の髪を少し切った。
生々しい傷が現れる。
「こうして、髪を切るのもいつぶりでしょうか。
歳を取ると昔を懐かしむ……まさに今の僕の事ですね。」
コウは少しずつ、傷を針と糸で縫った。
パチンと糸を切る。
「頭蓋骨が割れてなくて良かったです。
それにしても……フフッ、寝顔は昔と変わらず可愛いですね。
いつまでも見ていたいですよ。」
コウは最後に、セキの頭に包帯を巻きつけた。
少しだけ寝苦しそうだ。
「今はゆっくり寝てくださいね。
おやすみなさい……僕のセキ。」
コウはセキの頬に軽くキスを落とした。




