第5章-73 大切な恋人へ
フクをTシャツで包み布団に載せた。
僕も布団に潜り込みながら、フクに話しかける。
「水浴び気持ちよかった?」
「ピィッ」
フクは短く一鳴きして、あくびをした。
「そうだね。
たくさんはしゃいだから、眠いよね。」
フクを抱きしめるように手前に引き寄せる。
フクはもう一度あくびをすると、Tシャツの端を咥えた。
「おやすみ。また明日ね。」
フクと僕は同時に目を閉じた。
ーー頬に冷たい風を感じて目を覚ます。
辺りは美しい湿地帯だった。
光る木の光が水面にキラキラと反射している。
「また……来ちゃった。」
フィナは今日はいなかった。
腕の中には、フクが体を縮こませて眠っている。
「フク、寒いの?」
フクを落とさないように、建物まで行きドアノブを回した。
扉はゆっくりと開いた。
室内の明かりはついていなかったが、窓から入る光る木の光が優しく室内を照らしていた。
以前と変わらず、柔らかいソファーや木のテーブルなどが空間を彩っていた。
「少し待っててね。」
柔らかなソファーにフクを載せ、お風呂場からタオルを1枚持ってきた。
タオルでフクの体を包んだ。
フクは眠ったまま、丸めていた体を少し延ばした。
「良かった。」
僕もソファーに座り、フクを優しく撫でた。
撫でている途中、フクの目がパチっと開く。
「ホウッ?」
キョロキョロとあたりを見渡し、首を傾げながら僕を見た。
「大丈夫だよ。
ここは不思議な場所らしいんだ。
すぐに元の場所に戻れるよ。」
フクはパチパチと目を瞬かせると、翼を広げて2階へと行ってしまった。
「待って、どこにいくの?」
急いで階段を上がる。
フクはフィナの扉の前で「ホウッ、ホウッ」と静かに鳴いていた。
「フク、ダメだよ。」
フクを抱き寄せた時、フィナが目をこすりながら部屋から出てきた。
「何か聞こえたような。
あっ、君はこの前の……また会いにきてくれたの?
しかも、可愛い鳥さんまで。」
フィナは手招きをして、僕達を部屋に入れた。
「ごめんなさい。寝ていたのに、フクが……鳥が起こしちゃって。」
「ううん。良いの。
私も会いたかったから。
ガーディもしばらく来られないみたいだし……。」
フィナが椅子に座ると、フクはフィナの膝の上にパタパタと移動した。
「フク!?」
「ピィッ」
僕は止めようとしたが、フィナはニコリと笑いフクを撫で始めた。
「フクちゃんって言うの?
すごく綺麗で、柔らかくて……温かいね。」
フクは気持ち良さそうに目を細め、うつらうつらとし始めた。
フィナはフクを撫でながら僕を見た。
「ゼロユイ、ガーディはね、
片足を失ってしまったみたいなの。
体もボロボロなんだって……。
職人さんが頑張ってくれてるけど、なかなか調整が終わらないんだって。」
フィナの目は涙で潤んでいる。
「今のままだと、抱きしめられないから会えないって手紙が届いたの。
きっと、傷つけてしまうって……。
私はガーディと手を繋げたら充分なのに。」
目から涙がポタポタと溢れた。
フクの体に涙がかかり、フィナが慌てて服の袖で拭きとった。
「ごめん。濡らしちゃったね。」
フィナが謝ると、フクは自分の体から羽を1本引き抜き、フィナに差し出した。
「……くれるの?」
「ホウッ!」
フクは目を細めた。
フィナは笑った。
「ありがとう。大切にするね。」
フィナとフクのやり取りを見て、胸が温まる。
「ねえ、フィナさんは手紙は書かないの?」
フィナは気まずそうに答えた。
「その……私、ずっとお嬢様の屋敷にいるから、学校行ってなくて、文字があまり書けないの。
手紙とか、新聞が読めるようになったのも最近で……練習してるけど、ちゃんと書けてるか不安で……。」
フィナの顔が赤く染まった。
顔を手で覆っているが、次第に耳まで赤く染まり始めた。
「フィナさん、ガーディさんに手紙書こうよ。
僕が見本を作るから、やってみない?」
フィナは顔を手から離した。
「本当に?
で、でも……私すごく字が下手なの。
ガーディは字が綺麗だから、失望されたら……。」
「字の上手さなんて関係ないよ。
きっと喜ぶよ。紙とペンはある?」
「うん……ありがとう。
私も、本当は書きたかったの。
すぐ用意するね。」
フィナは無地の便箋と、ペンを棚から取り出した。
「書きたい内容を教えて。」
「え、えっと……。」
僕はフィナの言葉を文字に起こし見本を作った。
フィナは必死にペンを動かし見本を移している。
仕上がっていく手紙を、フクはじっと見つめていた。




