第4章-71 過去の英雄
馬車は学校から少し離れた場所に止まった。
御者にお礼を言い、馬車から降りた。
風は冷たくなり、空は少し薄暗くなっている。
「……コウさんと、もう少し一緒にいたかったな。」
震える体を両手で抱きしめながら寮に向かった。
「そうだ、先に先生に謝らなくちゃ。ズル休みしちゃったし。」
寮に入り、1番近くの相談室へ急いだ。
部屋の前で深呼吸をして扉を開く。
「あの、失礼します。」
教員が新聞を読みながらお茶を飲んでいた。
「……先生。」
「ゼロユイ!?体調はもう大丈夫なのか?」
教員はすぐに僕を見て、立ち上がった。
僕の前にしゃがみ、顔を覗き込んできた。
「顔色は……悪く無さそうだな。
何度か君の部屋に行ったんだが、返事がなかったから心配してたんだ。
ん?何でバッグを背負っているんだ?
どこか行くのか?」
「先生、ごめんなさい。実は……。」
教員にズル休みをしてしまった事と、体調は朝のうちに良くなっていた事を話した。
教員は僕の話を真剣に聞き、笑った。
「そうか、正直に話してくれてありがとう。
先生、すっかり信じてしまったよ。
だが、ズル休みを何度もするのは良くない。
明日はちゃんと授業に来なさい。」
教員は小指を出してきた。
僕も小指を出し、そのまま指切りをした。
「よし、約束だ。明日、待ってるからな。」
「ありがとう。」
ふと、新聞が目に止まった。
「先生、それ何が書いてあるの?」
「ああ、今日の新聞だよ。君なら読めるかな。」
教員から新聞を受け取り、広げてみる。
新聞には“裁判長が自ら落石現場の調査に踏み込む”と、大きく書かれていた。
「裁判長って…セキって人だよね。どんな人なの?」
「よく知っているね。
とても偉くて、国を変えた人なんだ。」
「国を変えた?」
教員は椅子に座りお茶を飲みながら答えた。
「昔はね、この国はとても治安が悪かったんだ。病院も学校も無いも同然でね。
それを立て直したのが、今の裁判長なんだ。
私はまだ小さかったから覚えてないが、年配の人に聞けば、あの人は英雄だとみんなが言うよ。」
教員の話を聞き終え、お礼を言い相談室を出た。
「英雄。コウさんの大切な人……会ってみたいな。」
僕は冷たい風に追いやられるように、急いで部屋に戻った。




