断章
三時課を終えて各々の持ち場に就く刻、私は資料の束を抱えて写字室に向かう。ずっとあの角部屋に籠ったままでは流石に気が滅入ってしまう。写本に勤しむ姉妹たちの背を視界に入れるだけで心が落ち着くのがわかる。
「どうですか、筆の進みは」
不意に背後から声をかけられ、振り向くと院長様──三年前の出立までは副院長であった姉妹アガタ──が立っている。
「なんとか進めていますが……これで良いのかと立ち止まってばかりいます」
「そう、あなたも大変ですね」
元院長様──以後は姉妹ヤドヴィガ様とお呼びしよう──の奔放な依頼に振り回されてきたのは私だけではない。長らく仕えてきたこの方こそ、その最たる人だ。
「あの方は何て?」
「ひと月に一度、進み具合を文で報告してほしい……と」
「おやおや、ではまだしばらく離してくれませんね」
笑いながら、ご自愛を、と言い残して去っていく院長様を、私は恨めしく見送る。
午後の畑仕事で姉妹バルバラに話すと、彼女は鈴のように笑って言う。
「院長様も、理解者ができて嬉しいんじゃないかしら」
そして、言いにくそうに付け加える。
「ねえ、姉妹カタジーナ。今からでも……私に手伝えることがあったら、何でもいいから言ってね」
「ありがとう……それじゃあ」ふと思いつき、声を落とす。「手の空いた時でいいから、図書室でここの修道院の歴史を調べてくれる?」
「ここの歴史?」
「率直に言えば、姉妹ヤドヴィガ様のこと。誰も詳しく教えてくれないけれど、この依頼の理由も、それで判るかも知れないと思って」
姉妹バルバラは微笑んで大きく頷く。
「わかった。調べてみるわ」
そして夜、就寝前の祈りを捧げると再びランプを文机に移す。
姉妹ウルシュラとの旅を再開するために。




