二度あることはそこそこの頻度でまたある
日に日にじんわりと気温が上がっていき、どこを見渡しても半袖制服ばかりとなった七月。
本日は一ヶ月に一度のプチイベント、第三回一年二組席替えが開催される日。
今度こそはと男子たちがいつも以上に盛り上がりを見せている。
松坂先生が手を叩いて、生徒たちは一斉に紙を開いて席の移動を開始する。
俺の後ろの席の南雲さんに動く気配はない。
また窓際一番後ろの席、七番を引いたようだ。
「やったぁ〜! 私、美月ちゃんの隣です!」
喜びを爆発させて、その場で軽くぴょんぴょん飛び跳ねた東海林さんは、よろしくと一言発した南雲さんをギュッと抱きしめる。
教室なので抱きしめられてもいつも通りのクールな表情を崩さない南雲さんだけど、話し始めてからほぼ毎日一緒にいたからか、なんとなくだけどわかる。
南雲さん、今すごく嬉しいんだろうなって。
南西コンビの微笑ましいやり取りを見てほんわかしている男子たち。
女子に「立ち止まるな」「早く動け」と急かされて再度移動を開始し、生徒全員が移動を終え……ここでようやく異変に気づく。
「おい北山ァ! テメェなんでまたそこなんだよ!」
「今回はいくら積みやがった⁉︎」
今回も六を引いて南雲さんの前の席を引き当て移動せず、またまた東海林さんの近くということで、いつも以上に男子たちが怒り狂っている。
俺だけではなく先生にまで「北山と手を組んでるでしょ!」「いくらもらったんですか!」「連続はありえないでしょ連続は!」と怒りをぶつけている。
でもまぁ、俺があちら側だったら不正を疑うレベルだから、こればかりは仕方ない。広い心を持って素直に受け止めよう。
「毎度毎度大変ね、北山くん」
「まぁ、なんというか、もう慣れましたよ」
クールな表情で話しかけてくれる南雲さんに、あははと軽く笑みを浮かべながら言葉を返す。
と、俺の隣に席を移動してきた陽キャグループの一人である土田くんが立ち上がり、俺を守るように両手を大きく広げて男子たちに言葉を投げつける。
「みんなやめろぉ! 確かに北山や先生の不正を疑いたい気持ちはよくわかる! だけど、そんなことしてなんになるというんだ! 争いは争いしか生まない──」
「うるせぇぞ土田ァ!」
「テメェ東海林さんの前だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「テメェもこっちの男子の溜まり場にこいやァ!」
「席変われボケがぁぁ!」
ありがとう土田くん。当分ヘイトは君に向きそうだ。
「やれやれ、余裕のない奴らにはほんと困っちゃいますよね、北山の旦那」
「え? だ、旦那?」
「まぁ七月は夏休みあるからちょいと短いけど、少しの間隣よろしく!」
「あ、うん。よろしく」
右手を差し出して握手を求めてきたので、少しばかり恥ずかしいけど、俺も手を差し出して固い握手を交わした。
と、土田くんはそのまま空いた手で俺に顔を近づけてと合図してくるので、俺は特に抵抗することなく顔を近づけた。
「方角っ娘と仲良くなる秘訣があるんだったら、こっそり教えてくれると助かるぜ」
耳元に手を当ててこっそり伝えてくる。
それ、あるのなら俺も知りたい。
正直俺も、どうして方角っ娘と仲良くなれてるのか不思議で仕方ない。
ニカッと笑みを浮かべながら俺の背中を少し強めに叩いてくる土田くんに軽く笑みを浮かべると、俺の前の席に移動してきた土田くんたちと仲の良い空さんが話しかけてきた。
「北山、今つっちーになんか変なこと言われたでしょ?」
「おい明日香、失礼なこと言うんじゃねぇよ」
「つっちーの言うことは、基本聞き流していいからね〜」
「それはこっちのセリフだ! 北山、明日香の言うことは基本無視しとけよ!」
「残念ながら北山はあんたと違って優しい子だから、そんなことしないって。ねぇ?」
「まぁその、無視は流石にしないかな」
「ほら。この優しさがあんたには足りないのよ。あんたみたいに強がって噛み付いてくるやつよりも、こうやって素直に言ってくれる男の方が、今時の女子は食いつくのよ」
「おいマジかよ! 俺、今日から素直な男の子になる!」
「うわ、きもっ」
「キモいは言い過ぎ……いや、俺はキモい男の子ですわ!」
「北山、こんな男にはなっちゃダメだよ」
「おい! 誰か正解を教えてくれぇぇぇ!」
頭を抱えて嘆く土田くんを見て、ケラケラと笑う空さん。
俺も二人のやりとりを見て笑みを浮かべた。
本当に仲が良いよな、ここの二人。
入学当初の俺だったら、劣等感を抱いて、落ち込んで。
学校が、自分が嫌になって……。
でも、今は違う。
俺にも友達ができた。
この二人みたいに、いっぱい話せる友達がいるんだ。
俺も南雲さんも、付き合ってるみたいな噂が流れていたんだし、周囲からはこんな風に見られてたんだろうな。
チラッと後ろを見てみる。
南雲さんは教室モードなので表情を特に変えることはないが、お隣の東海林さんと楽しそうに話をしている。
教室ではクールな女の子で……でも部室では、ノリノリで踊りながら部室に入ったり、恥ずかしげもなく卑猥な挨拶してきたり、ゲームしてる時やかましくギャーギャー騒いだり──教室にいる時の南雲さんからは想像できないことを次々とやっちゃう、面白くて、可愛くて、一緒にいてとても楽しくて。
南雲さんも、本当はみんなの前でも仮面を取っ払って自分を表現したいんだと思う。
でもそれは、まだ怖くて。
否定されたくなくて。
だから窮屈な仮面を被り続けて。
本当は、もっともっと笑う子なのに。
もっともっと、可愛らしい子なのに。
楽しそうに東海林さんとお話ししている南雲さんから視線を外し、前を向く。
ニンマリニヤニヤしている空さんと目と目が合った。
そういや俺、『南雲さんにぞっこん』って勘違いされてるんだった……。
いやまぁ好きだけど、好きだけどさ……。南雲さんも言っていたけど、俺たちはまだ出会って数ヶ月程度の仲、恋愛どうこうはまだ早いって……。と素直に吐きだしたところで、俺の照れ隠しと一蹴されるのがオチだろうな。
先の展開を予測した俺は、何も言わずに苦笑いを浮かべる。
もし南雲さんが今放課後モードであれば「んもぉ〜、北山くんってば私をチラチラと見て、そんなにお話しがしたいんでちゅかぁ〜? しかたありまちぇんねぇ〜。いっぱいたくさんお話ちちてあげまちゅよ〜!」とか言ってきて背中ツンツンこれでもかと突かれて、周囲の女子から『構ってもらえてよかったね北山くん!』みたいな目で見られ、男子たちからは破壊光線という名の視線を放たれ──
絶対にありえないと断言できていた、俺得な妄想……これが今では、現実となってもおかしくはないところまで来ている。
そんなことが現実になってしまったら──俺たちはきっとまた『付き合ってる』なんて噂を広められてしまうんだろうな。
そして、その噂のせいで互いを強く意識し合うようになってしまって……そのまま、本当に──
いやいや、さすがにありえないだろ。それは。
浮かべている苦笑いをさらに強め、俺はラブコメすぎる俺得妄想を一蹴した。




