似たもの同士は似たもの同士は惹かれあう②
「私との関係は、終わらせた方がいいですよね……?」
東海林さんの口から小さく吐き出された言葉。
彼女は顔を俯かせたまま、言葉を続ける。
「実は私、本日呼ばれたのは北山さんのことに関してだと思っていたんです……」
「俺の、こと?」
「はい……。私、北山さんと話している時、自分のことしか考えていなかったんです。自分の好きを、一方的に押し付けて……。それであなたに、無理をさせていたんじゃないかって……」
「無理……ですか?」
「北山さんはとてもお優しい方ですから、私とは違って私のこと考えて、自分の気持ち抑えてお話付き合ってくれてたんじゃないかなって……。私はそんなこと知らずに、好き放題話して、自分だけ気持ちよくなって……。そして、今回の噂の件で限界を迎えた北山さんが、美月さんたちにご相談して、そして今日の話し合いにって……」
「……」
「私、一方的に北山さんに押し付けてばかりで……変な噂が広がる原因も作ってしまって……ご迷惑ばかり、かけてしまっていて……! だから今、本当に申し訳ない気持ちで、いっぱいで……!」
声が震えている。
俯かせている顔から、涙が落ちる。
昔の俺を、見ているみたいだ。
相手の気持ちを知る前に、一方的に自分が悪いと決めつけて、落ち込んで、自分を傷つけて。
知っているからこそ、わかってる。
『そんなことないよ』
『無理してないよ』
そんな言葉だけじゃ、彼女の不安を拭い去ることができない。
大丈夫だ。彼女の涙を目にしても、冷静でいられている自分がいる。
大丈夫だ。パニックにならず、自分の伝えたい言葉がハッキリと頭に浮かんでいる。
大丈夫だ。今の俺なら、彼女に手を差し伸べられる。
「東海林さん。まずは、ありがとうございます。東海林さんの思っていること、隠さず素直に吐き出してくれて。俺も、今俺が思っていることを、東海林さんに伝えさせてください」
「はい……。お願いします……」
「正直に言うと……東海林さんとお話ししている内容は、その、やっぱりまだ恥ずかしい気持ちがあります。性的なお話しになってしまいますし、それを異性に話すってなると、なかなか素直に口に出すことはできなくて……」
「ですよね……。北山さんの気持ちを考えずに一方的に聞き出そうとして、申し訳ありませんでした……」
「いえ、あの、だからと言って、東海林さんとのお話しをやめたいかと言われたらそれは違うとハッキリ言います。なので、勘違いはしないでください」
東海林さんが顔を上げる。
俺は、彼女の潤む瞳を真っ直ぐ見つめながら、言葉を続けた。
「東海林さんは、俺を揶揄おうとか、恥ずかしがってる俺を見て笑ってやろうとか、そう思って話してたわけじゃない。ただ純粋に、自分の好きを語っていただけじゃないですか。だから俺は、恥ずかしい気持ちはありましたけど、嫌な気持ちにはならなかったんです。ずっと溜め込んでいたであろう自分の好きを、気にせずいっぱい、楽しそうに話す東海林さんを見て、その、もっともっと話してほしいなって思いました。楽しそうに話す東海林さんを見て、俺は嬉しい気持ちになってたというか。だからその、俺は恥ずかしいこと言わなきゃいけないってわかっていても、東海林さんがいるあの場所に通い続けたんです。これはあの、優しさとかではなくて、俺がやりたくてやっていることです。なので、勘違いしないでくださいね」
「……」
「だからその、お願いです。もし東海林さんがいいのであれば、これからも俺に、あなたの好きをいっぱいたくさん、遠慮せずに語ってくれませんか?」
「……本当に、いいんですか? そんなこと言われちゃったら、前以上に、いっぱいたくさん、遠慮せずに語り尽くしちゃいますよ……? 北山さんは、もっと恥ずかしい思いを、うんざりしちゃうかもしれませんよ……?」
「そうですね。これからもあの場所で話し続けていたら、誰かに聞かれているかもしれないって思って、すごく恥ずかしい思いをすると思います。なので、俺から提案があります」
「東海林さん。相談部に入りませんか?」
俺の突然の提案に、彼女は目を丸くした。
ぱちぱちと大きく瞬きをし、残っていた雫が、頬に垂れた。
「もちろんその、入部するとなれば、相談部として活動していただくことになるんですが……部室であれば、人の目気にせずに学校でも触手もののイラスト描くことができますし、触手話もあの場所以上に気楽にできると思います」
「あ、や、で、でも……その……」
不安を表情に隠すことなく出した東海林さんは、俺から視線を外して南雲さんたちを見る。
「安心してください。二人もいいよって言ってくれてます。部室でそういった話をするのも、気にしなくていいんですよ。南雲さんが部室内ではそこそこの頻度で下ネタ言ったりしてるので──」
「んぶふっ⁉︎」
飲み物を口にしていた南雲さんが、豪快にむせる。
隣にいた西宮さんが、慌てて南雲さんの背をさするさするさする。
「ちょっ、はるはる! あんたなんでいきなり暴露してんのよ⁉︎」
「え、あ、いやだって、昨日の話し合いで『東海林さんにも秘密を共有する』って話になったじゃないですか? 今タイミング的にもその、丁度いいかなと、思いまして……」
「タイミングはいいかもしれないけどさ! こういうのはづっきーのタイミングで言わせてあげなさいよ! 心の準備ってものがあるでしょうが! というか、あんたそんなサラッと色々言える人だっけ⁉︎ 私が知ってるはるはるはもっとこう……! あんた成長しすぎじゃない⁉︎」
「え? あ、そ、そうですかね……? フリートークとか、色々頑張った結果かもしれないです」
「んなこといいから、まずはづっきーに謝んなさい!」
「は、はい! その通りです! すみません南雲さん! 許可があったとはいえ、勝手に俺のタイミングで言ってしまい、本当にすみません!」
「き、北山くん、あなたねぇ……! 『自分の思ったことをこんなスラスラ言えるようになっちゃって……!』とか思いながら母親気分で見守ってたら……! そういえばあなた、かなたんの時も私が暴露する予定のなかったことペラペラペラペラ話してくれちゃってたわよね……!」
「あ、や、そ、そういえばそんなことも……?」
「今日という今日は許さんぞ貴様ぁぁぁ!」
声荒げながら東海林さん飛び越え俺へと迫ってくる南雲さん。
東海林さんがいるにも関わらず、部室にいる時と変わらぬ距離感とテンションで、俺の身体をこちょこちょこちょこちょ。
「や、ちょ、あ、な、なぐ、南雲、さ──」
「自分の罪を受け入れろぉぉぉぉ!」
南雲さんのテクニックの前にやられたい放題の俺は、笑い声を上げたり裏返った声で情けない声あげてしまったりと、東海林さん前にしてこれでもかと醜態を晒してしまう。
世の男子羨む行為を受け入れざるおえない状態になってから、約一分が経過──ようやく解放された俺はすっかり骨抜き状態となり、乱した呼吸を整えることなく、恥ずかしさと共にソファーに倒れ込んだ。
「北山くん、次私の怒りを買った時は、上半身裸にして色んなところこしょぐるから。覚えておきなさい」
人によってはご褒美だぞ、それは……。
「あ、あの、み、美月、さん……?」
「驚かせてごめんなさい。でも、あなたの秘密を知ってしまったのに、私たちの秘密は隠したままなんてフェアじゃないでしょ?」
「じゃ、じゃあ、その……さ、さっきのは……!」
「私は、普段教室ではクールぶってるけど、本当はあんなことガンガンするタイプだし、部室では平気な顔でおちんちんとかおっぱいとか言っちゃう人なのよ。見た目のイメージ強く押し付けられた結果、あんなクール南雲になっちゃったってわけ」
「そ、そうだったんですね……」
「ちなみに、かなたんは高校デビュー組です。中学の頃は友達おらずの一人ぼっちでした」
「ちょっ⁉︎ こ、高校デビュー言わないで! なんか恥ずかしいからぁ!」
「んで、そこで倒れ込んでる北山くんは、下乳派とか言ってたけど本当は谷間も大好きで毎日巨乳でハスハスしてる男です」
「ちょっ、南雲さん⁉︎ 俺の秘密だけなんか違うやつなんですけど⁉︎ 伝えた内容と全く違うんですけど⁉︎」
「なによ? なんか文句あるの? そもそもあなたは東海林さんと触手の話でズンバコズンバコ盛り上がってたんでしょ? 今更こんなことで恥ずかしがってんじゃないわよ。ピュアぶってんじゃないわよ」
「お、俺は別にピュアぶってなんかないですよ! 誤解を与えるようなことは言わないでほしいってことです!」
「じゃあ聞きますけど、北山くんは巨乳好きではないんですかぁ? この南雲美月ちゃんのたわわなおっぱいを見ても、なにも思わないんですかぁ〜?」
「な、南雲さん! そういう発言は控えた方がいいかと──」
「話を逸らしてんじゃないわよ! しっかりちゃんと答えなさい! 私のことを下ネタ女として暴露した罪は、あなたが思っている以上に重いものなんだからね!」
「その件は本当にすみませんでした! どうか許してください! お願いします!」
「許してほしかったら答えなさいよ! 誤解を与えるような発言はどうとか言ってたけど、本当のところは好きなんでしょ! 巨乳が! 谷間が! このたわわなおっぱいが! さぁ、逃げずに答えなさいっ!」
「あなたはもう少し恥じらいというものを持ってください南雲さぁぁん!」
乳をこれでもかと強調して迫ってくる南雲さん。
いつも通り南雲さんにされるがままの俺。
そんな俺になぜか冷たい視線を飛ばしてくる西宮さん。
部室じゃないところでも、部室にいるかのような、そんないつもの光景。
そのいつもの光景に混じり始める、小さな笑い声。
笑い声は次第に音を大きくし、周囲を巻き込み、部屋いっぱいに響き渡る。
「普段から私たち、部室でこんな感じだから。東海林さんも入部するなら、自分を隠さず曝け出してね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「それで、どうする? 入部する? しない? 別に今すぐに決めなくてもいいけど」
「魅力的なお話ではありますが……正直、迷っています。もちろん、入部するとなれば活動にも積極的に取り組むつもりではあるんですが……入部理由が触手関連ですと、その……皆さんに失礼な気がするといいますか……」
「そんなの気にしなくてもいいのに。あっ、そうそう。私、東海林さんに聞きたいことがあるのだけど、いい?」
「は、はい。なんでしょう?」
「北山くんから聞いたのだけど、あなたってスケッチブックにイラスト描いてるのよね? デジタルには興味ないのかしら?」
「興味はあるのですが……タブレットやペンなど、機材揃えるとなるとやはり高くて……。スマホで挑戦してみたことはあるんですが、画面が小さすぎて描きづらくて。ですので、しばらくはアナログのままでいいかなと」
「ほうほうなるほど。美月ちゃん、いいこと聞いちゃいました」
ニヤリと笑みを浮かべた南雲さん。
なんのことやらパチパチ大きく瞬きをする東海林さんの隣に腰下ろすと、右腕を東海林さんの肩に回し、顔をグッと近づける。
「なぁおい、東海林ちゃん……いや、ももねん」
「え? も、ももねん?」
「君、さっき言ったよね? デジタルに興味があるって」
「え、えぇ……言いました、けど……」
南雲さんのノリについていけず、オロオロしながら俺と西宮さんに視線を送ってくる。
大丈夫、害はないですよ。
二人してそんな意味のこもった優しげな笑みを浮かべ、東海林さんたちのやりとりを静かに見守る俺と西宮さん。
「ももねん、もし君が相談部に入部するって言ってくれるのなら……君が欲してるタブレットとペン、この南雲美月ちゃんが貸してあげるよ」
「……え?」
「実は俺っちさ〜、母さんから新しいの買ったからお古あげるって、タブレットとペン貰ったんだよねぇ〜。でもでも、俺っち動画見るくらいしか使ってなくてさぁ〜。だから、君が欲してるなら、貸してあげちゃうよぉ〜ん」
「あ、や、で、でも、そんな……!」
入部の理由があれだと皆さんに失礼な気がする……そう言っていた東海林さんは、南雲さんの提案を素直に受け取れない様子。
欲に負けることなく、なんとか堪える東海林さん。
健気に頑張る少女を目にした南雲さんは、うんうん大きく頷いたあと、不適な笑みを浮かべて指をパチンッ。
放課後南雲との付き合いがそこそこ長い俺は、彼女の指パッチンの意味を察せてしまう。スッとその場から動いて南雲さんのバックを手にし、彼女の元へと運んだ。
「よくやった、ボブ」
俺の許可なく勝手に改名を行った南雲さんは、褒美に俺の頭を撫でようとしたが、もちろん届くわけがなく。伸ばした左手をスッと下ろして、俺のお腹をポンポン叩いた。
南雲さんが受け取ったバックから取り出したのは、予想通りタブレットとタブレット用のペン。
憧れが目の前に現れ、目の輝きを増していく東海林さん。
「さぁももねん……君が俺っちの左手と握手をすれば、こいつらを今すぐにお貸し出し。今夜はフリータイムだからまだまだ時間はある。たっっぷりと、遊べちゃうぜぇ……!」
「う、うぅぅぅ……! で、でも、い、いけません……! こんなのは、絶対にいけません……! こんな欲にまみれた気持ちで、入部だなんて……!」
「口ではそう言ってるけど、身体は正直だねぇ……ももねん」
「え……?」
「気づいてないのかい? 君の手、俺っちの左手を掴もうと伸びてきてるよ……!」
「え⁉︎ あ、ち、ちがっ! これは……!」
「なにも違わないよ。素直になっちまえよ……! 自分の欲に溺れて気持ち良くなったって、誰も怒らない……むしろ歓迎してんだからさぁ……!」
「う、うぅぅ……うぅぅぅぅ……!」
俺たちは、一体なにを見せられているのだろうか……?
「……き、北山、さん……!」
「あ、は、はい。なんでしょうか?」
「こ、こんな……こんな、欲に逆らえずに溺れて気持ち良くなっちゃう、はしたない女でも……あなたは、私の話し相手に、なってくれますか……?」
「あ、え、えっと……は、はい、もちろんです」
少々苦笑いを浮かべて東海林さんの問いに返すと、彼女はギュッと力強く目を閉じ──
「ごめんなさい……! こんなはしたない女で……!」
そう言い残し、南雲さんの左手を力強く握りしめ、抱き合い、契約完了。
触手について語っている時に負けないキラキラを放ちながら、憧れのタブレットとペンを手にして「ひょぉぉぉ……! こ、これが……これがぁぁぁ……!」と幸せをこれでもかと溢れさせる。
東海林さんは南雲さんに近しいものを感じるな。意外とノリいいしテンションの上がり方といい、そういう話を恥じらいなくするしで。
「東海林さんが入部したことで、ますます相談部は賑やかになりそうですね」
タブレットの使い方を教える南雲さんとそれを熱心に聞く東海林さんを微笑ましい気持ちで見つめながら、隣にいる西宮さんに言葉をかける。
が、返事は返ってこない。
代わりと言わんばかりに、なにやら冷たい視線を感じる。
お隣を見てみると、予想通り西宮さんの冷たい眼差し。
俺、なんかしたっけか……?
「はるはる、先に伝えておくけど……私はあの二人のようにはならないから。あんたになにを言われようと、そういう話は一っっっ切しないから。この変態」
少々頬を赤らめて、俺にご報告。
前々から気になっていたのだが……どうして西宮さんは、俺のことを変態扱いしてくるのだろうか?
俺よりも変態な人たちが、あそこに二名いらっしゃるのに……。




