似たもの同士は似たもの同士は惹かれあう①
北山晴臣と東海林桃音は、昼休みに人気のないところへいきエッチなことをしている。
そんなぶっ飛んだ噂が広まりつつあることを知った相談部は、東海林さん交えて話し合いをすることに決定。
作戦決行日の土曜──東海林さんに指定した集合時間よりも一時間早く集まった俺たち相談部員は、カラオケ店の105号室内で昨日部室で話し合ったことの再確認やら気持ちを落ち着かせたりやら色々と準備を行い、東海林さんが来るのを各自ソワソワしながら待った。
そして、東海林さんにお伝えした集合時刻の13時まで、残り5分──
コンコンッ。
105号室内に軽い音が響き、俺たち三人は肩を震わせた。
南雲さんはすぐに立ち上がって扉に向かう。
俺は机を挟んで対面に座る西宮さんと目を合わせ、強く頷いて気合いを入れ直した。
「こ、こんにちわ」
白ニット白ワンピ姿で登場した東海林さんは、昨日突然LINEで会う約束を取り付けたためか、予想通り少々戸惑いを浮かべていた。
普段見ることのできない貴重な私服姿。
その可愛さにドキッと胸が高鳴ったが、その高鳴りはすぐさま緊張で上書きされる。
東海林さんは南雲さんに案内され、俺の隣に腰下ろす。
まだ不安が強いためか、何度も何度も隣の俺を見てソワソワソワソワ。
今こういうこと思うべきではないとは理解しているのだが……可愛いし、守ってあげたいと強く思ってしまう。
早めに本題に入り、少しでも東海林さんの不安を取り去ってあげたいのだが……緊張でなかなか口が開いてくれない。先ほど目を合わせて気合いを入れ直したはずの西宮さんは、すでに視線を逸らして戦線離脱している。
俺も真似したくなるから戻ってきてくれ、西宮さん……!
開幕早々情けない姿を見せつける部員たちをチラリと見た南雲さんは、少し顔を俯かせて目を閉じ、フッと息を吐き出す。
すぐさま目を開けて顔を上げた彼女には、俺たちのような情けなさは一切感じられなかった。
「東海林さん、今日は急な呼び出しだったのに来てくれてありがとう」
「あ、いえ、その……き、気にしないでください。それで、あの……お、お話というのは……?」
「単刀直入にお伝えします」
ハッキリと言葉を口にした南雲さんは、隣で目を逸らし続ける西宮さんの肩を優しく叩く。
ビクッと大きく身体を震わせた西宮さんは、ぎこちなく首を動かして南雲さんを見つめる。
覚悟を決めて。そんな意味がこもってそうな目で西宮さんをまっすぐ見つめる南雲さん。
西宮さんは小さく頷き、自身の頬を強めに叩いて、南雲さん同様東海林さんをまっすぐ見つめた。
「私たち、南雲美月と西宮奏多は、昨日のお昼休み、北山くんの後をつけ、あなたたちの会話をこっそり聞いておりました。申し訳ございません」
「ごめんなさい!」
ゆっくり深々と頭を下げる南雲さん。
勢いよく頭を下げる西宮さん。
互いに謝罪の意を示している二人は、時間が経てども頭を上げる様子はない。
東海林さんが何か発するまでは、頭を下げ続けるつもりなのだろう。
対する東海林さんは──
「……」
こうなることを全く予想していなかったのか、飲み込むのにまだ時間がかかっている様子。
大きくぱちぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、微動だにしない。
南雲さんたちが頭を下げ続け、東海林さんはぱちぱち瞬きを繰り返し──謝罪から約七秒ほどが経過。
ようやく南雲さんの言葉を咀嚼し終え飲み込んだ東海林さんは、顎先からみるみる顔を赤く染めていく。
「か、かかかか、会話を……わ、私たちの会話を、聞いていたってことは……つ、つまり……!」
顔真っ赤にした東海林さんが、南雲さんを見、西宮さんを見。
二人は頭を上げて、東海林さんの視線に小さく頷く。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」
東海林さんの絶叫が、105号室に響き渡る。
部室じゃなくて防音性の高いカラオケを選んで正解だった。
「え、あ、ま、待ってください! じょ、冗談じゃないんですか⁉︎ 私を驚かそうとか、そういった冗談では⁉︎」
「冗談じゃありません。あなたたちが触手ものの話で盛り上がっていたり、北山くんが谷間派ではなく下乳派であることやら……全て、聞いてました」
北山下乳の話は掘り返さなくてもいいでしょうに!
もうやめてくれぇぇ!
「触手話だけではなく、北山さんの下乳話まで聞いて……! ど、どうして美月さんたちは盗み聞きなんてはしたない真似をしたんですか!」
「その件もご説明いたします。実は今、北山くんと東海林さんのことで、とある噂が広まっていまして」
「う、噂、ですか? 一体どんな……?」
「私たちが耳にしている噂は二つあります。一つは『北山くんと東海林さんがお付き合いしている』というもの。そしてもう一つは、その……あ、あなたたちが、お昼に人気のない第三校舎にいって……エッチなこと、している、と……」
「……はい?」
東海林さん、一時停止。
そして数秒後、本日二度目の大絶叫。
「な、ななななな、なんですかその噂⁉︎ な、なんでそんな噂が⁉︎ き、北山さんと私がお付き合いしているというのは、百歩譲ってまだ理解できますが! なにがどうなったら私と北山さんが人気のないところでセックスをしているという話になるんですか⁉︎」
そんなハッキリと言わないでくれ東海林さん! 想像がより鮮明になっちゃうからぁぁ!
「あなたたち二人がお昼に第三校舎から出てくるのを見たって人がいるらしくて。出てきた時の表情がですね、その……あなたがスッキリした晴々しい表情で、北山くんがやり遂げたような表情をしていたらしく……そこから多分色々と噂に尾ひれがついて、現在のものになったと思われます」
「そ、そんなぁ……! わ、私たちはただ、触手話で盛り上がっていただけなのに……どうして、そんなことにぃ……!」
異性と触手話もアウトよりだと思うんだけどね……。
「私たちは、その噂の真相を確かめるべく北山くんの後をつけたの。それで、その……も、もし仮にだけど、噂通りのことを二人がしてたら『学校ではやめなさい! ヤるなら家かホテルでしなさい!』と注意する予定だったんだけど……。蓋を開けたら、ヤッてはなかったけど、あなたたちがとんでもない話で盛り上がってたから……これもこれで人にバレたら大変じゃないかと思って、今回話し合いの場を設けたというわけです」
少々頬を赤らめて、言葉を締める南雲さん。
顔真っ赤な東海林さんは、視線ごと俺に身体向け、頭を下げた。
「ごめんなさい、北山さん……。私のせいで、そのような噂が広まってしまって……」
「あ、いや、別に東海林さんのせいってわけじゃないんで! その、頭あげてください!」
「いえ、私にも一点心当たりがありまして……。北山さんにはお伝えしていなかったのですが、友達に北山さんとお昼お話ししているとバレた時、何話してるのか聞かれたんです。その時私、すぐに答えることができなくて……。結果的に『たわいもない話してる』って答えて、友達もそれ以上聞いてこなかったんですが……今思えば、あの時内心すごく焦っていたので、たぶん焦りが表に出てしまっていたんだと思います。それで、私の反応見て勘違いされて……」
「いやいやいや、考えすぎですよ! 仮にそれも原因の一つだったとしても、俺たちが第三校舎から出てきてるところを見られたのが一番大きな原因だと思うんで、そんな気にしないでください!」
身振り手振り交えて『気にしないで』を強くアピールするが、東海林さんの表情は晴れない。
多分今、こうなってしまったのは全て自分の責任だと思い込んでしまっているんだろう。そして、俺にすごく迷惑かけてしまっていると。
今のままじゃ、『そんなことない』『迷惑なんて思ってない』と伝えても、彼女はきっと受け取ってくれない。
「あの、東海林さんの意見を、聞かせてもらえませんか?」
「私の、意見……?」
「は、はい。今回の件は、俺だけの話じゃありません。俺と東海林さん、二人の話です。なので、俺一人で決めていくのは違うなと思ったので、今回東海林さんにここに来てもらって、話し合って、答えを出そうって思ったんです」
「……」
「東海林さんの気持ちを聞かせてください。あの噂を聞いて、今後俺との関係を、どうしていきたいか」
「……正直、お付き合いしているという話は、出ても仕方がないかなとは思います。仲の良い異性に対して、そういった噂はつきものだと思うので。でもやっぱり、その……き、北山さんと私が、学内でセックスをしているというのは、流石にその……!」
「すみません東海林さん……そんなハッキリと言わずに少し濁してもらえるとありがたいです……」
「あ、す、すみませんすみません! 以後気をつけます!」
「俺もその、東海林さんと同じ意見です。あくまで噂だとしても、さすがにいきすぎと言いますか……。なので、なんとかしたいと考えてます」
「で、でも、その……どうするんですか? 私たちが否定したとしても、無くならない気がするというか……」
「ですね……。相談部の意見としては、俺たちが噂を否定したとしても、今後も今のような関係を続けていたらむしろ火に油を注ぐようなものだと思うんです。なので、その、否定するならば、学校で会う頻度は極力減らして、しばらくは通話やLINEのトークで話すにした方がいいかなと思います。そうしないと、面白がって俺たちの後をつけてくるなんて人もいるかもしれませんし」
「で、ですよね……。やっぱりその、距離をとるというのが、一番の方法なんですかね……?」
「一番簡単な方法はそうかもしれません。他にも俺たちで考えた案があるんですけど……それは東海林さんの力無くしてはできないことでして」
「どういったことなんですか?」
「まず、噂を消すためには、その、納得させないといけません。今回は皆を納得させるために、事実に少しずつ嘘を足して、噂を塗り潰そうと考えてます。その方法なんですが……あの、俺の記憶違いでなければ、東海林さんはお友達にもイラスト描いてるってことは伝えてないんですよね?」
「は、はい」
「でしたら、俺たちがコソコソ会っていた理由は『イラストを描いていることを他の人に知られたくなかったから』でいけると思うんですよ。これに関してはその、事実でもあるので。そして、『触手もののイラストを見てもらって感想をもらう』って部分を少し変えて『全年齢対象イラストを見てもらって感想もらってた』とか『高身長男子を描く参考として北山晴臣にモデルを頼んでいた』にすれば、その、あの、お、俺たちがいやらしいことしてたとかいう非現実的なものよりは、信じてもらいやすいものだと思います。なんで、あの噂も、すぐには消えないと思いますが、信じる人も少なくなるのではないかなと」
「確かにそうですね。嘘を言っている部分は少ないですし、私も親に対するカモフラージュとして一般向けのイラストもちょこちょこ描いてますので、そっちを押し出していけば不審に思う人は少ないのではと思います」
まさか親御さんも、一般の裏に触手が潜んでいるとは思ってもないだろうな。
「で、でもその、この案でいくなら、東海林さんがイラストを描いているということを他の人にも言わないといけません。なので、無理強いは──」
「いえ、そのような噂が流れてしまったのは私にも原因がありますし、そもそも私が北山さんに見てほしいなんて言わなければ……。ですので、私はそちらの案でも大丈夫です。別に触手ものを見せるわけではないですし」
「ほ、本当にいいんですか?」
「はい、もちろんです」
微笑みを浮かべて俺たちの案を了承してくれる。
まだ成功すると決まったわけじゃないけど、これで噂は少し薄れてくれるはずだ。
あとは、あのことを伝えて──
「あの、北山さん」
「は、はい」
「……お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「は、はい。もちろんです。どうしました?」
東海林さんを見つめて、言葉を待つ。
噂の対処法を伝えたはずなのに、彼女の表情は曇っていた。
先ほど浮かべてくれた微笑みは、嘘だったのだろうか?
彼女はまだ、何かを抱えているはずだ。
「……北山さんは先ほどおっしゃっていましたよね? 今後、俺との関係をどうしていきたいか、と」
「は、はい。そのことなんですが──」
「私との関係は、終わらせた方がいいですよね……?」
「……え?」




