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噂に尾鰭背鰭がつくのは当たり前と考えるべき①


 互いの知り合いに、お昼話していることがバレてしまった俺と東海林さん。

 何を話しているかまでは聞かれてはいないものの、今後聞かれる可能性がある。その時に『触手の話をしてます!』なんて言えるわけがない。

 今後もしそのようなことを聞かれた時は、互いの共通の趣味であった『アニメの話』で切り抜けようと話し合いの末決まった。


 その後、誰かに東海林さんとのことを聞かれるのではと内心ドキドキしながら数日を過ごしていたのだが、南雲さんたちもあれ以降東海林さんの話題を全く出してこない。


 南雲さんたちに東海林さんと話していることがバレてから一週間弱が経過──俺のドキドキも杞憂《きゆう》に終わり、東海林さんとの触手話も当初よりは慣れてきて余裕が出てきた俺。ボロボロになっていた部活動の一環であるフリートークのキレもだいぶ回復してきた頃──


 ピピピピッ。ピピピピッ。


 放課後の部室にタイマーの音、そしていつもの「はい、しゅ〜りょ〜」の南雲さんの声……は聞こえず、タイマーの音だけが部室内に響き渡った。


「あ、ありがとうございました」


 タイマーの音が鳴り響く中、礼を口にしながら頭を下げる俺。

 南雲さんと西宮さんは無言のまま頭を下げ、そのまましばらく頭を上げない。


「あ、あの、どうしたんですか?」


 俺の問いに、二人は何も答えない。

 頭を下げたまま、バツが悪そうに俺から視線を背ける。


 二人に一体何があったのだろうか?

 今回のフリートーク、西宮さんは「あ、え、えっと……」とか「そ、そうだね! あ、あははは〜……」みたいな状態で、会話を続けようという意志を全くと言っていいほどに感じなかったし、俺と視線が合うと大慌てで逸らすしで。

 そしてあの南雲さんも、なんだかキレが悪いというか……いつもの余裕を感じないし、どこか上の空というか……とにかく、二人に何かあったことは明白である。


 でもどうしよう? こういうの、あんま無理に聞かない方がいいよな?

 気にはなるけど、向こうからなんかしら言ってくるまではそっとしておこう。


 今はこれ以上深く踏み込まない。そう決めた俺は、何も言わない二人に「言えないのであればこれ以上は聞きませんので、安心してください」と素直に言葉を吐き出して立ち上がり、カバンの中から飲み物を取り出して喉を潤す。


 まぁ俺も触手の件言ってないし、お互い様だよな。

 そんなこと思いながら飲み物をカバンに戻し、南雲さんたちに視線を戻すと……なぜか彼女たちは床に正座し、頭を床に擦り付けていた。


「すみませんでしたぁ……!」

「ごめん、はるはる……ほんとごめん……」

「え? ちょ、えぇ⁉︎ な、なにが⁉︎ 俺、謝られることなにもされてませんよ⁉︎ と、とにかく頭あげてください! 早くあげてくれないと、俺も土下座したくなる気持ちになるので! お願いします! お願いします!」


 俺も床に正座して手をつき土下座の準備を始めてから、二人はようやく顔を上げてくれる。


 さすがにこれを知らぬ存ぜぬでいるわけにいかないよな……。


「え、えっと、あの……一体、なにがあったんですか?」


 俺は正座をしたまま、同じく正座している女子二人を見つめる。

 西宮さんは先ほどから、俺と目が合うとすぐに逸らすを繰り返しているため、彼女から何か聞き出すことは期待できない。

 となると、やはりこの人にお願いするしか……。


 南雲さんは西宮さんとは違い、俺と目があっても逸らしはしない。

 数秒見つめあったのち、決意を固めたのか小さく息を吐き出して、再度俺を見つめる。


「北山くん、単刀直入にお伝えします」


 背筋を正し、小さく咳払い。


 一体何言われるんだろ……?

 俺も緊張感を持って、南雲さんの言葉を待つ。


「……本日、お昼休み……私、南雲美月と西宮奏多は……北山くんの後をつけておりました……。本当に、すみませんでした!」

「ごめんなさい!」


 もう一度深く頭を下げる二人。


 なんだ、後つけられてただけか……。

 もっと深刻なことかと思って焦っ──


 安堵したのも束の間。

 俺はすぐさま彼女の言葉を脳内で繰り返し、身体を硬直させる。

 そしてすぐさま、お昼の出来事を思い返した。



「北山さんのご意見を伺いたいのですが……こちら、次に描こうとしている触手もののラフなんですが、見上げるか見下ろすでしたら、北山さんはどちらがお好みですか?」

「お、俺は、そうですね……。身長高くて見下ろすことが多いので、見上げるアングルの方が、その、新鮮といいますか、見下ろすよりは強くドキッとくるかもです」

「なるほど。北山さんは谷間派ではなく下乳派なんですね」

「あ、いや、そういうわけでは……」

「北山さんの気持ちわかりますよ。いいですよね、下乳! 谷間と違い普段なかなか見る機会がありませんから、それがまた興奮材料となるんでしょうね」

「そ、そうかもですね。はい」

「下乳も良きなのですが、谷間からこうにゅるりと出てくる触手という構図がとてつもなく癖なのですが、北山さん的にはどうでしょう? グッときますか?」

「それもまぁその、はい。グッときます」

「きますか! 北山さんの北山くんもビビっとグングンきますか!」

「まぁその、あの……あ、あははは」


 

 みたいな話しかお昼はしてないぞ……!

 つ、つまり、南雲さんたちにも……!


「でも安心して、北山くん。私たち、絶対に言わないから。北山くんと東海林さんが触手ものの話で盛り上がっていたことも、北山くんが谷間派ではなく下乳派であることも、あとその……い、色々とエッチなお話ししていたことも、誰にも言わず、私たち二人の心の中に留めておくから!」


 安心できるかぁぁぁぁぁ!

 俺の恥ずかしい秘密が方角っ娘《こ》に知られるって、一体これはなんの罰なんだよぉぉぉ!


 両の手で顔を覆い、俺はそのまま上半身を倒して床に額を擦り付けた。


「は、はるはる! あの、その、か、勘違いしないでほしいんだけどね! わ、私たち、別にはるはるを困らせてやろうとか、面白がって後つけたわけじゃないから! 確認しなきゃいけない理由がちゃんとあったの!」

「……り、理由……?」


 ゆっくりと顔を上げ、両の手を外す。

 俺と目が合った西宮さんは、また慌てて視線を逸らした。


「その反応だと、やっぱり噂のことは知らないみたいね、北山くん」

「う、噂……?」

「えぇ。近頃、一年生の間でこんな噂が広まっているみたいなの。正直言いづらいことなんだけども……」


 目を閉じ右手を口元まで持っていき、こほんと一つ小さく咳払い。

 改めて決意を固めた南雲さんは、俺の目を真っ直ぐ見つめて、口を開いた。


「あなたと東海林さんが、お付き合いしてるって」


 やっぱりそんな噂が流れてしまっていたのか……。

 いつかはそんなの流れてしまうと思っていたけども……。


「それで、その……あ、あなたたちが、その……人気《ひとけ》のないところで、その……え、エッチなこと、してるって……」

「……え……?」

「だ、だからその! お付き合い程度であれば、まぁ年頃の男女だし、別に問題はなかったのだけれども! さ、流石にそういう話は、その、と、年頃の男女だけれども! 校内でそういうことは、あまりにもその、破廉恥すぎるというか! 私たちの今後の部活動生活にも支障をきたす可能性があったので! もしそれが本当なのであれば! 流石に注意して、今後は家なりホテルなりでやりなさいと! 注意する予定……だったのだけど……ま、まぁその、思ってたよりもマイルドなことだったから、正直私たちは安心したわ……」

「あ、安心はしたけども……やっぱりその、衝撃は強くてですね……。私もづっきーも、動揺を隠せなかったと言いますか……」


 頬を赤らめて顔を少し俯かせる二人。

 俺はもちろん、それ以上に真っ赤っか。

 再度両手で顔を覆い、前のめりに倒れ込んだ。


 まさかそんな色々ぶっ飛ばしたとんでもない噂が広まっているだなんて……!


 俺、今後どのような顔して学校生活過ごせばいいのでしょうか……?

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