周りは思っているよりも気にはしていない
北山晴臣「すみません。俺の不注意で、お昼にお話ししているのは東海林さんだと、南雲さんと西宮さんに言ってしまいました」
北山晴臣「本当にすみません。もちろんあの件は伝えておりません。なにを言われようと東海林さんの許可なしには言いません」
北山晴臣「この度は誠に申し訳ございませんでした」
東海林さんに謝罪のLINEを送った後、いつ返信が来るかとドキドキしながら待機していたが、結局部活動中には既読にならず。
俺は駅の改札を抜けていく南雲さんと西宮さんを見送ったのち、一度深呼吸をしてからスマホを取り出し画面をのぞいた。
ももね「お話ししている内容をお伝えしていないのであれば大丈夫ですよ! あまり気にしすぎないでくださいね」
ももね「私も、今日友達に「最近お昼北山くんと食べてるの?」と聞かれて、嘘をつけずそうだと言ってしまいました。もちろん内容は伝えてないので安心してください!」
ももね「今後もしかしたら、私のことで色々と話しかけられてしまうかもしれません……。その時は申し訳ないのですが、色々と誤魔化してくださると嬉しいです……」
ももね「お手数おかけして申し訳ないです……」
謝罪の言葉と共に、ごめんねと謝罪している可愛らしいスタンプも送られてくる。
よかった。やらかしたの俺だけじゃなかった。
いや、よくはないんだけども……。
でもこれで、俺と東海林さんがお昼一緒に食べているということを南雲さんたち以外の人にも知られてしまったことになる。
ラブコメだとこういう時『あの二人は付き合っている』という噂が流れ、関係がちょっとギクシャクし始めるのが定番なのだが……俺たちもそんなことになってしまうのだろうか?
もしそうなってしまったら、東海林さんに多大なるご迷惑をおかけすることになる。どうにかしてそれだけは避けたい。が、どうしよう……?
「おにぃ〜!」
再び帰路を歩こうとした俺の背後から、聞き覚えしかない声が聞こえてくる。
この後の展開を予想し終えた俺は、足の指でぎゅっと地を掴み、腹に力を入れ、衝撃に備えた。
「お疲れおにぃ〜!」
予想通りの人物が、予想と違い勢いなく背後から俺に抱きついてきた。
TPOにちゃんと配慮した勢い、後でちゃんと褒めてあげないと。
「風夏もお疲れ。部活帰り?」
「うん! 今日はソフトテニスしてきたよ!」
「そっか」
俺の胸部付近に添えられている妹の手をポンポン軽く叩き、お疲れ様を再度伝える。
「おい北山、急に走んなって。危ないだろ」
え? 俺走ってませんけど?
背後から聞こえた謎のセリフに疑問を持ちながら、俺は風夏ごと身体を反転させる。
俺の元へと駆けてくるのは、見覚えのない男女。
制服から風夏の友達だと察せる。
そういや風夏も北山だった。少し考えればわかるだろ俺。恥ずかしい。
「お久しぶりです、お兄さん! また一段をデカくなってますね!」
「え? あ、う、うん。まぁその、お陰様で?」
ニッコリ笑顔でご挨拶してくれたロングヘア女子。
会った記憶が全くない。おかげでよくわからん返しをしてしまった。
どうしよう、この後『覚えてますか?』とか言われたら……。
「ふうはもちろんお兄さんと帰るんでしょ?」
「もち!」
「おっけー。んじゃ、また明日ね〜!」
「まったね〜! 木村くんも、また〜!」
俺に抱きついたままヒラヒラ手を振る風夏。
お友達二人は風夏に手を小さく振り返した後、俺に小さくお辞儀をしてくれて、互いの腕が触れ合いそうな距離感を維持したまま背を向け歩き出した。
よかった。『覚えてる?』って言われなくて。
というか、木村くんってどっかで聞いたことある気がするな。どこだっけか?
「おにぃ覚えてる? さっきの子?」
お前が聞いてくるのかよ。
一難去ってまた一難とはまさにこのこと。
「あー……えっと、その……」
「ほら、あたしが小学生の頃にたまに家遊びにきてた子。カナちゃん」
「……え? カナちゃんって、あの……? めちゃくちゃその、お姉さんって感じになってる……! 全然気づかなかった……!」
「だよねだよね! 前もめちゃ可愛かったけど、今ちょー可愛いでしょ!」
カナちゃんって、もうちょっとぷっくりしてたというか……めちゃくちゃスラっとして、綺麗になってたな……! 女の子って、少し見ないうちにめちゃくちゃ成長してるんだな。
いや、それもあるかもだけど……きっとカナちゃんも、たくさん努力して今の姿になったんだろうな。
「んで、隣にいた木村くんは……って、おにぃ」
「ん? なに?」
「あそこでこっち見てる男子って、おにぃの友達?」
「ん?」
風夏の指先を視線で追いかけると、俺と同じ制服を着た男子三人組が、話しながらこちらを見つめている。
一人はクラスが一緒なので見覚えがある、が話したことはない。後の二人は見たこともない。
俺、なんか見られるようなことし……てるわ。バッチリと。
俺に抱きついたままの風夏は、俺から友達かどうかの答えを聞く前に見てくる男子に手を振り始める。
当然のように『え? 俺?』『俺たちに振ってる?』みたいな表情を浮かべ、あからさま困惑し始める男子たち。しかしながら風夏の満面の笑みには困惑など浮かべ続けることができず、すぐに頬を緩ませて手を振り返してくる。
これ、俺も手を振り返した方がいいのかな?
いや、そんなことよりもまずやるべきことが俺にはある。
「風夏ちゃん、そろそろ離れて。歩きづらいから」
「はーい」
素直に俺の言葉に従ってくれる風夏。が、離れたと思ったらすぐに腕を組んで身を寄せてくる。
それじゃ先ほどとほとんど変わらないぞ……。
「あの、風夏さん……近すぎませんか?」
「別によくない? 仲良し兄妹なんだし」
「いやでも、ほら、ここ駅前だから人の目多いし……」
「いいかいおにぃ? 人ってね、自分が思っている以上に他人に興味を示していない生き物なんだよ? おにぃは気にしすぎなの。あたしたちのこれ見たって『仲良いな〜』くらいにしか思われないし、そもそも数歩歩いたらもう忘れてるって。周囲の人から見た私たちなんて、駅前にいる学生その一とその二なんだからさ。有名人なんだったら、多少は気にしなきゃだろうけど」
「た、確かにそうかも。う、うん。風夏の言う通りかもしれない。俺たち、有名人じゃないもんな」
「そうそう! ってことで、気にせず帰りましょ〜!」
笑顔で身を寄せてくる風夏を受け入れ、二人して歩き出す。
チラリと視線を背後に送り、先ほどの男子たちを見てみると……目からはかいこうせん撃ち出しそうな勢いで俺を睨みつけている。
あの威力の高い視線を目にして、ふと思った。
俺、南雲さんや西宮さん、そして最近では東海林さんという、男子人気トップである方角っ娘たちと関わりを持っている人であるため、学校ではそこそこ有名人なのではないか……?
つまりこういうことは、多少気にしなければいけない気がしてきました。




