人生思った通りにいかないことの方が多い②
「ど、どうでしょうか……?」
人差し指をちょんちょん合わせながら顔を少し俯かせて、チラチラ視線を飛ばしてくる東海林さん。
まさかまさかのエロイラスト(しかもめちゃくちゃ上手い。俺から見たら神絵師レベル)を見せられ、だというのにその程度の恥じらいで済んでいる東海林さんに驚きを隠すことができず、空いた口を閉じられない北山晴臣くん。脳内に広げた宇宙空間に投げ飛ばされ、この後どうすればいいのか、何を言えばいいのか、何もかもがわからなくなった。
「あ、あ、あの、あの……と、ととと、東海林さん……!」
「は、はい! な、なんでしょうか……?」
「き、ききき、聞きたいことが、あるんですが……い、いい、いいい、いい、です、か……?」
「は、はい、もちろんです!」
「あ、あの、あの、これ……これは、その、あの……しょ、しょしょ、触手……?」
「はい、そうです。触手ものです」
目の前に広がる光景は、やはり見間違いではなかったか! 夢であってほしかった!
「実は、その……わ、私、お恥ずかしながら、性癖が触手でして……!」
性癖が、触手⁉︎
「一度は触手に犯されてみたいという夢を抱いてはいるのですが、そんなこと現実では起きっこないのはわかっていますので……こうして自分の癖にブッ刺さるイラストを描いて、欲を発散しているんです」
今サラッととんでもないこと言わなかったかこの子⁉︎
「そして、触手ものを描き続け描き続け……ふと、ある時こう思ったんです。『自分だけじゃなく、他の人をも興奮させられるような、そんな素晴らしくてエッチな触手ものが描けるようになりたい!』って……!」
手に入れようとしていたのは、上手さではなくエロさ⁉︎
「ですので、その……はっきりと申してください、北山さん! 私、覚悟はできていますので!」
「え⁉︎ な、な、何を⁉︎」
「どうでしょう、私のイラストは⁉︎ 性欲にお熱な年頃である高校生男子の北山さんから見て、私の描いた触手ものは興奮しますか⁉︎ しませんか⁉︎」
「え⁉︎ えぇ⁉︎」
「今晩こちらをオカズにと言われたら、どうでしょう! いけますか⁉︎ いけませんか⁉︎ 私のことはお気になさらず、思ったことを素直に言ってください! さぁ! さぁさぁさぁ!」
言えるかぁぁぁぁ! 人様に自分の性事情を、ましてや異性に言えるわけがないだろうがぁぁぁ! 恥ずかしすぎて死ぬ! 恥ずかしさに溺れ死ぬ!
しかしせっかく相談部にと頼ってくれたのに何もせずにお帰りいただくなんてことはしたくない! 東海林さんだって上手くなるために勇気出して見せてくれたし、『ん? それ俺に言ってもいいことなの?』レベルの大暴露もしてくれたわけだし! それなのに俺が何もせずになんて……いやでもしかし、いやでも、しかしぃぃ……!
東海林さん以上に顔真っ赤にして、性事情を言うか言わまいか迷いに迷っている俺──天に逃していた視線をふと東海林さんに戻すと、彼女は俺の下腹部辺りをキラキラした眼で見つめている。
なぜそこに注目しているのか即座に察した俺は、男梅も恐れ逃げ出すほどに赤の濃さを増し大慌てで東海林さんに背を向けた。
「す、すみませんすみません本当にすみません! あの、これ、これは、その、生理現象といいますか! なのでこれは本当にあの、ほ、本当にすみませんんんん!」
「いえいえ、お気になさらないでください。私の描いたイラストが北山さんを興奮させたのだと思うと、私としてはむしろ嬉しいですし! それに、北山さんの『言葉ではなく身体で語る』姿がとても男らしくて、私ドキッとしちゃいました!」
そんなところに男らしさを見出さないでくれ! もっと別のことで見出してくれぇぇ!
「ちなみに北山さんはどこを見て興奮したかなどはお聞きしてもよろしいでしょうか⁉︎ 私としては今回特に力を入れた部分は胸の部分でして! 触手に絡まれて大きく形を変えて弄られているところがポイントです! こうお胸が紡錘形のようになったおかげで通常よりも乳首が強調されそこを攻める触手という構図がまた興奮を掻き立てると思うのですがいかがでしょうか! あと触手といえばやはりヌルヌル! 今回はいつも以上に液多めで描いてみたのですがどうでしょうか⁉︎ 私はヌルヌルもかなり大好物なのですが男性もヌルヌルはやはりお好きなものなのでしょうか⁉︎ 北山さん個人の感想で構いませんので今回のヌルヌル量はいかがなものかもお聞きしたいところなのですが──」
「ちょっ、と、ととと東海林さん! 落ち着いて! 少し落ち着きましょう!」
聞き取るのがやっとの速さで捲し立てる東海林さんに、中腰になりながら振り返り、眼前にスケッチブックを突きつけてストップ要請。
「す、すみません北山さん……! 私、語るのが楽しくて、つい……!」
「あ、いや、その、こちらこそすみません、語るの止めてしまって……。あの、俺も少し落ち着く時間がほしいといいますか、あと場所も場所なんで、その……」
「そうですよね。ここにはお話ししにきたというよりはご飯を食べにきているんですもんね。このままじゃ、ご飯食べられませんもんね」
「え? あ、ま、まぁ、それもあるけど──」
「では、続きはご飯を食べながらにしましょう! お弁当持ってきますね!」
違う違う落ち着けと言ったのはそういうことではないぃぃぃ! そもそもこんな状態で飯など食えるかぁぁぁ!
もちろん俺の心の叫びなど彼女に届いているはずもなく、満面の笑みを浮かべてお弁当を取りに戻った東海林さんは、トトトッとすぐに俺の元へ帰還。俺を前にしてぺたんと座り込み、もう一度満面の笑みを咲かせた。
「さぁ北山さん! 続きを! 語り合いましょう!」
どうして俺まで触手について語ることになってるんだこれ……?
先ほど見てしまったエッチなイラストが、学校内でエッチな話をしていることが、そしてアイドルだの天使だの言われている可愛い子が手の届くところに座ってこちらを見ている事実が、俺の心臓を爆散しそうな勢いで鼓動させる。
これから触手について語る人とは思えぬほど純粋無垢な笑みを浮かべている東海林さん。
そんな笑顔浮かべられたら、頑張ってあげたくなっちゃうよ。だって俺、男の子だもん……。
結局俺は東海林さんの嬉しそうな顔に負け、性事情をちょこちょこ暴露することとなり……本日食べたお昼ご飯は、どいつもこいつも全く味がしなかった。




