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毎日のわがままは鬱陶しいが、たまにのわがままは可愛いものだ



 方角っ娘の愛に飢える悲しき獣たちの糞になることなく、なんとか平日を乗り切った俺は、土曜休みを大好きなゲームをして満喫していた。


 約二時間ほど満喫していたゲームを一時中断し、時刻を確認。現在午前十一時を回る前。

 この時間ならば、どこの書店も開店済みだ。俺はベッドから立ち上がって、収集している漫画やラノベの最新刊を買いに行くための準備を始める。


 出かけるといっても本を数冊買うだけなので、荷物は然程必要ない。財布、スマホ、自転車の鍵、買い物袋、この四点で準備は終了。

 好きなアニメの主題歌を口ずさみながら俺は部屋を出て、ふと妹の部屋の前で足を止めた。

 そういや前に風夏のやつ、おにぃに誘われたいとかなんとか言ってたよな? いやでも、本買いに行くだけだからなぁ……。まぁいいや、とりあえず声かけてみるか。


 トントンっ。軽く扉を叩くと「はぁ〜い」と気の抜けた声が届く。俺はゆっくり扉を開けた。

 短パンTシャツ姿の風夏は、ベッドに寝転んで足をパタパタさせながら、俺の部屋から持っていった漫画を読んで休みを満喫していた。


「おにぃじゃん。どったの? もしかして、もうお昼?」

「違う違う。お兄ちゃん、今から本屋行こうと思ってるんだけどさ、風夏も一緒にどうかなって思って」

「……え?」


 足のパタパタが中途半端な位置で動きを止める。あんぐりと開いている口は閉じる様子もなく、目は瞬きをする気配がない。風夏が氷漬けになった、もしくは時が止まったと言っても過言ではない状況……お兄ちゃん、何かやらかしてしまったかもしれない。


「ごめん、邪魔して……。お兄ちゃんは一人で本屋さんに──」

「いやいやいや待って待って待っていくいくいく絶対に行く!! そっこー着替えるからちょっと待ってて!!」


 ベッドから飛び降りて、お兄ちゃんがいるにも関わらずTシャツを脱ぎ捨ててクローゼットをフルオープン。「ちょっ、おバカ!」お兄ちゃんは叫び大慌てで部屋を飛び出した。


 あいつ、他の男子の前でも気にせず着替えとかしてないだろうな……? お兄ちゃん心配になってきたぞ……!


「お待たせ、おにぃ!」


 ニッコニコ笑顔で部屋から飛び出してきた風夏は、下は先ほどと変わらぬ短パン姿だが、上は薄手の白パーカー姿に。結構だぼだぼのパーカーだから、短パン隠れて履いてないように見えるんだけど……というか……。


「風夏さん、上の服、お兄ちゃんと丸被りなんですが……」

「わざと! お揃いコーデ! で、どこの本屋行くの⁉︎ ねぇ、どこどこどこ⁉︎」

「どこって、家から一番近いとこ」

「えぇ〜⁉︎ そこじゃ秒で買い物終わるじゃん!」

「あなた、家の隣に本屋さんあると思ってるの? 自転車でも十分くらいかかるでしょ」

「自転車は嫌! 歩きがいい! ってかさ、本屋ならあそこの行こうよ! ほら、風夏とよく買い物行くとこ! 大型のショッピングモール!」

「えぇ……。あそこ、電車かバス乗らないとじゃん……」

「いいじゃんいいじゃん! ねぇねぇ、そこにしよ! 絶対にそこがいいって! 近くの本屋なんて品揃えクソだから、おにぃが欲しい本絶対売ってないって!」

「おい、近くの本屋バカにするな」

「お願いお願いお願いぃぃぃ!」

「わかったわかった。んじゃ、そこ行こ」

「やったぁー! ねぇねぇ、せっかくだからそこでお昼も食べよ!」

「別にいいけど、昼から予定とかなんもないの?」

「ないっ! あっても潰すっ!」

「潰すな……。んじゃ、お兄ちゃんカバンとってくるから、母さんに行くとこ伝えといて」

「はぁ〜い!」


 ニッコニコ笑顔を崩さぬまま、ドドドッと勢いよく階段を駆け降りていく。


 なんかもう俺の買い物というか風夏の買い物になってる気がするのだが、まぁいいか。


 帰ってくる時には大荷物になってそうなので、一度部屋に戻って改めて準備を始める。

 しかし、あんな勢いよく行くと言うとは。ゲームする時は『やるぅ〜』なのに、一体なにが違うんだ? いや、でも待てよ? 俺も南雲さんに放課後『ゲームしよ』って誘われるのも嬉しいけど、休みの日に『買い物行こ』って言われたら風夏くらいの勢いで喜ぶかもしれない。まぁなんであれ、妹があれだけ喜んでくれてると兄としては嬉しいものだ。


 これからも買い物行く時は、ちょこちょこ声かけてあげようかな?


「おにぃ〜! お母さんからお小遣いもらったぁ〜!」


 ドタドタやかましく足音を立てながら、俺の部屋へ突入してくる風夏。「おにぃが持ってて!」と手渡されたお小遣いは、なんと一万円札が、二枚。


「風夏ちゃん、お母さんに星付きのお店でお昼食べるとか言ったの……?」

「ううん。おにぃと買い物行くって伝えただけ」


 なんでそれだけでこんな高額貰ってこれるんだよお前は……。


 これは風夏がすごいのか? 母が娘に甘すぎるのか? 一体どっちなんでしょうか?

 兎にも角にも、流石にこの額は嬉しさ通り越してちょっと怖いです。


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