全員が嘘をついている
一日目に、耳へ手をやった回数は、四十一だった。
数えたのは、癖だからだった。癖でなくても、数えたと思う。
四十一という数が出たときに、少し手が止まった。
トルヴェクの鳴っている坑の数と、同じだった。
関わりはない。関わりのない数が同じになることは、いくらでもある。北の谷の柱は十九本で、トルヴェクの道から見えた塞がった坑も十九だった。あれも、ただの偶然だった。
偶然だと分かっているのに、頭のほうが勝手に並べた。
並べたものを、わたしは脇へ寄せた。寄せておかないと、そのうち意味があるように見えてくる。
夜、宿の土間で、わたしはその数を言った。
「四十一回でした」
オルサは、椀を持ったまま止まった。
「数えたか」
「数えました」
「なぜ数えた」
「数えるしか、できることがなかったからです」
彼女は、そのことに何も言わなかった。三日目の晩に同じことを言ったときも、同じだった。
この人は、答えの要らないものに返事をしない。
三年半で会った者のうち、そういう人は何人かいた。グリムも、ヘズも、ヘルヴィもそうだった。返事をしないというのは、聞いていないのとは違った。
聞いて、返事が要らないと決めている。
決めているのを、こちらが分かるように黙る。
「四十一のうち、いくつが本当ですか」
「本当かどうかは、分からんと言ったろう」
「じゃあ、いくつが嘘ですか」
「四十一だ」
わたしは、その返事を受け取った。
返事が速かった。
数えていないと言った者が、多くはないと即答したときと、同じだった。この人は、数えていない顔をして数えている。
たぶん、数えないでいられないのだと思った。
わたしも、そうだった。
「全部ですか」
「全部だった」
彼女は、椀を置いた。
「初日は、たいてい全部だ」と彼女は言った。「初日に本当のことを言う者は、おらん。初日は、こちらがどこまで知っておるかを測るためにある」
「じゃあ、二日目からは」
「減る」
「減ると、どうなるんですか」
「減ったところが、本気で欲しいものだ」
「本気で欲しいものは、本当のことを言うんですか」
「言わん」と彼女は言った。「本当のことを言わんが、嘘もつかん」
「どうやるんですか」
「言わんのだ」
彼女は、椀のふちを指でなぞった。
「本気で欲しいものについては、みんな黙る。黙っておるところが、いちばん重い」
わたしは、その言い方を頭に入れた。
書いた紙の中から、誰が何を言わなかったかを探すのは難しかった。書いてあるのは、言ったことだけだった。
わたしは、板に挟んだ紙を出した。その日書いたものを、端から読み返した。
長かった。天幕に入ってから出るまでを全部書いたので、読み返すのに一刻かかった。
読みながら、耳に手をやった箇所へ印をつけた。
つけ終わって、並べた。
四十一のうち、二十六がロヴァニスの卓から出ていた。
残りの十五を、卓ごとに分けた。
アルディエルが四つ。トルヴェクが三つ。テルノスが三つ。ザルハーンが二つ。ヴェルガルドが一つ。残りの二つは、どの卓から出たかを書き落としていた。
書き落としたのは、そのとき水を飲んでいたからだった。
わたしは、その二つに印をつけた。分からないものを分かったことにして並べるのが、いちばんまずい。老人がそれらしい数を挟んだときと、同じことになる。
「多いですね」
「あそこは、いちばん喋る」と彼女は言った。「喋る者は、嘘も多くなる。喋らん者は、嘘も少ない。だからといって、正直とは限らん」
「喋らないのは、どこですか」
「北だ」
わたしは、ヴェルガルドの卓のことを思い出した。三人座っていて、そのうち一人しか喋らなかった。喋る者も、短かった。
「北は、何を言いに来たんですか」
「麦だ」
「麦ですか」
「麦しかない」と彼女は言った。「あそこは、食い物を全部よそから買っとる。条約が切れて、ロヴァニスが麦を止めたら、その日で終わる。だから、麦の話をしに来た」
わたしは、それを書いた。書きながら、思い出していた。
北五峡の谷。掘ってあるところの入り口に、去年の落ち葉が積もっていた。若い者は籍を作って南三峡へ出ていった。残っているのは、出られない者だけだった。
あそこは、条約が切れる前から終わっていた。
峡の名を、わたしは一度も口に出さなかった。
北五峡が持ち出されることは、この七日で一度もなかった。誰も、あそこの話をしなかった。
条約は、国と国のあいだのものだった。国の中でどこが飢えているかは、条約の外にある。
外にあるものは、記録にも載らない。
「オルサさん」
「なんだ」
「エオリンの席は、ずっと空いてました」
「空いておった」
「誰も、そのことを言いませんでした」
「言わんだろうな」
「なんでですか」
彼女は、少し間を置いた。
「言えば、埋めねばならんからだった」
「埋めるって、代表を連れてくるんですか」
「連れてくるか、誰かがあの土地を取るかだ」と彼女は言った。「取った国が、あの席に座る」
わたしは、そこで手が冷たくなった。
空いた席は、埋まらないままにされているのではなかった。
埋める者が決まるまで、空けてあるのだった。




