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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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罪

この土地にも、取りすぎてはならないという決まりがあった。

三度目だった。

一度目は、北の谷だった。グリムが、取りすぎてはならないと言った。理由を訊いたら、誰も知らないと言った。

二度目は、灰縁の村だった。あれは決まりの形をしていなかった。掘ったところは崩れる、崩れたところからはもう出ない、というだけの言い方だった。決まりではなく、起きていることを言っていた。

三度目が、ここだった。

北の谷で聞いた。灰縁の村では、掘ったところは崩れると言われていた。ここでは、はっきりした言い方で残っていた。

「石を掘って売るのは、罪だ」とアオレは言った。

「石って、導石ですか」

「そう呼ぶ者もおる」

「なんで罪なんですか」

「取りすぎるからだ」

「どのくらいから、取りすぎなんですか」

彼女は、少し考えた。

「分からんね」

「じゃあ、掘らない村は、どのくらい掘らないんですか」

「一つも掘らん」

「一つもですか」

「一つもだ」

わたしは、そこで少し止まった。

どのくらいから取りすぎかが分からないなら、一つも取らないというのが、いちばん確かなやり方だった。

確かだが、そのぶん、隣の村が掘るのを止められない。止めるには、どこまでならいいかを言わなければならない。言えないので、止められない。

わたしは、その答えを予想していた。

「誰か、知ってる人はいますか」

「おらん」

「昔から、そう言われてるんですね」

「言われとる」

「理由は、誰も知らないんですね」

「知らん」

わたしは、そこで座り込みたくなった。

三度、同じところへ来ていた。理由のない決まりが、三つの土地に別々にあった。三つとも正しい。三つとも、なぜ正しいのかを誰も知らない。

そして三つとも、守りきれていなかった。

守りきれていないのは、決まりが弱いからではなかった。

決まりは強かった。北の谷では、超えた者は次から配られなかった。ここでは、罪だと言われている。

強い決まりが、外からの力に弱かった。

北の谷は、外から来た者に冬の蓄えを掘り出された。掘り出させたのは、わたしだった。

「でも、掘ってますよね」

アオレは、こちらを見た。

「掘っとる」

「罪なのに」

「罪だと言っとる者と、掘っとる者が違う」と彼女は言った。「この土地には、決める者がおらん」

「決める者がいないんですか」

「おらん」

彼女は、村の向こうを指した。

「向こうの村は、掘る。こっちの村は、掘らん。掘る村は、掘らん村に何も言わん。掘らん村も、掘る村に言えん」

「言ったら、どうなるんですか」

「殴り合いになる」と彼女は言った。「もう何度かなっとる」

「どっちが勝つんですか」

「勝ち負けにならん」と彼女は言った。「殴って、疲れて、やめる。やめたあと、掘る村はまた掘る」

「じゃあ、何も変わらないんですね」

「変わらん」

彼女は、そのことを、怒っている様子もなく言った。

「変わらんことを、うちの土地の者は割合ちゃんとやる」

わたしは、島の盟約会のことを考えていた。あそこは、決める者がはっきりしていた。率いる者が決める。失敗すれば票が三つ引かれる。引かれるのは率いた者だけだ。

決め方が乱暴でも、決まってはいた。

ここは、決まらなかった。

「年に一度、集まるって聞きました」

「環座か」

「それで決めないんですか」

「決めん」と彼女は言った。「集まって、話して、それで終わりだ」

「決まったことは、守らないんですか」

「守る村は守る。守らん村は守らん」

「じゃあ、集まる意味は」

「聞くためだ」と彼女は言った。「誰が何を思っとるかを、聞く。それだけだ」

わたしは、その言い方を頭に入れた。

聞くために集まる。決めるためではない。

島の盟約会は、決めるために集まっていた。決まると、その年の行き先が決まった。決めるやり方が乱暴でも、決まりはした。

ここは、聞いて終わる。

聞いて終わるほうが、たぶん、人は死ににくかった。ただし、外から来る者には何もできなかった。

わたしは、そこでしばらく黙っていた。

「あと二年で、条約が切れます」

「聞いとる」

「切れたら、この森に軍が来ます」

アオレは、そのことに驚かなかった。

「来るだろうね」

「来たら、どうするんですか」

「霧が出る」

「霧で、防げるんですか」

「これまでは、防いだ」

わたしは、彼女を見た。

「霧は、いつまで出ますか」

その質問を、わたしは自分でも思っていなかった。口に出してから、それが何を訊いているのかに気がついた。

霧は、この土地の者が住んでいるから晴れない。晴れないのは、四人に一人が止められないまま出しつづけているからだった。

出しつづけているものは、地面の中から来ている。

地面の中のものは、減っている。

減りきったら、霧は出ない。

アオレは、答えなかった。

答えなかったのは、考えたことがなかったからだと思う。

霧は、この土地の者にとって、あるものだった。あるものは、なくなることを考えない。トルヴェクの街の者が鳴りを聞かなくなったのと、同じだった。

あって当たり前のものは、なくなるところを想像しない。

しばらくして、彼女はこう言った。

「あんた、それを訊きに来たのか」

「違います」

「じゃあ、なんで来た」

わたしは、言った。

「なぜ減るのかを、知っている人を探しに来ました」

アオレは、少し笑った。

「ここにはおらんね」


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