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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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常在

村へ着いたのは、その日の夕方だった。

家は、木でできていた。地面から高く上げてあって、下を水が通っている。屋根が深く、庇が長い。雨が多い土地だった。

地面から上げてあるのは、水が来るからだった。

灰縁の村の家は、土壁で、地面に直接建っていた。北の峡の家は、屋根が地面まで下りていた。北の谷は、掘ってあるところへ入った。島は、囲いだけだった。

土地が違えば、家の建て方が違う。当たり前のことなのに、そのときは、それが少し不思議だった。

同じ人間が、同じものから身を守るために、これだけ違うものを建てる。

人が、こちらを見た。

見て、笑った。

笑ったのが、わたしにはよく分からなかった。灰縁の村では見て、それきりだった。北の谷では、見て仕事へ戻った。島では、数えられた。

ここでは、笑って、それから何か言った。

笑われるのが、久しぶりだった。

三年で、笑いかけられた覚えがほとんどなかった。灰縁の村では笑わなかった。北の谷でも笑わなかった。島では笑われたことがあるが、あれは別の笑い方だった。

わたしは、どういう顔をすればいいのか分からなかった。

分からないまま、頭を下げた。

言葉は分からなかった。

分からないのを見て、その人は共通語に切り替えた。

「迷った子だね」

「はい」

「霧に当たったか」

「当たりました」

「何日いた」

「分かりません」

その人は、うなずいた。分からないのが普通だという顔だった。

「何日いても、平気なんですか」

「霧では死なん」と彼女は言った。「死ぬのは、動いた者だ。動いて、迷って、水のないところへ入って死ぬ」

「動かなければ」

「腹は減る」

「じゃあ」

「腹が減っても死なんくらいの間で、たいてい晴れる」

彼女は、そう言って、また笑った。

「あんたは、動かんかったね」

「はい」

「賢いね」

村の中を歩いて、わたしは何度か立ち止まった。

止まったのは、見たことのないものがあったからではなかった。

見たことのあるものが、違っていたからだった。

水を汲んでいる女がいた。桶を井戸に落として、引き上げる。引き上げるときに、縄を持っていなかった。

桶が、上がってきていた。

女は、片手を桶のほうへ向けていた。それだけだった。井戸端で世間話をしながら、片手を向けたまま、桶を上げていた。

誰も、見ていなかった。

わたしは、見ていた。

見ているのが、わたしだけだった。

灰縁の村で、盆が光った子は連れて行かれた。北の峡で、刻んだ者は腕を出して歩いた。出さない者は袖を下ろした。島では、腕に線があることが、そのまま人の位だった。

ここでは、桶が上がっていた。

上がっているのを、誰も見ていなかった。

その先で、子供が走っていた。走りながら、手に持った木の実を宙に放って、落ちてくる前にもう一つ放っていた。三つが、宙で回っていた。

落ちなかった。

わたしは、そこに立って、それを見ていた。

「珍しいか」

後ろから、声がした。

さっき話しかけてきた人だった。年寄りの女で、名をアオレといった。

「あの子は、有脈者ですか」

「そうだね」

「あの人もですか」

「そうだね」

「みんなですか」

「みんなではない」とアオレは言った。「四人に一人くらいだ」

わたしは、その数を聞いた。

大陸のほかの土地では、十人に一人もいない。灰縁の村では、盆が光った子は連れて行かれた。北の峡では、刻んだ者だけが使えた。島では、刻印が数えるためのものになっていた。

ここでは、四人に一人が、井戸端で世間話をしながら使っていた。

四人に一人というのは、この村の三十人ばかりのうち、七、八人ということだった。

そのくらいの数の者が、毎日、少しずつ使っている。

一つの村で、それだけ。村は、この森にいくつあるのか。

わたしは、そこまで数えて、数えるのをやめた。

やめたのは、桁が見えたからだった。

「隠さないんですか」

「なぜ隠す」

わたしは、答えられなかった。

「隠せんのだよ」とアオレは言った。「うちのは、止められない」

「止められない」

「あの子が木の実を回しとるのは、やっとるからだ。あれは止められる」と彼女は言った。「そうではないほうがある」

彼女は、自分の胸のあたりに手を当てた。

「息をするのと同じだ。やろうと思ってやっとるのではない。やめようと思っても、やまん」

「痛くないんですか」

「痛くない」

「疲れませんか」

「疲れん」

「じゃあ、どうやって、あることが分かるんですか」

アオレは、少し考えた。

「よそへ出た者が、言う」と彼女は言った。「森を出ると、何かが軽くなると言う。戻ってくると、また重くなると言う」

「重いんですか」

「重いというのがどういうことかは、住んどる者には分からん」

「それは、なんですか」

「なんだろうね」と彼女は言った。「霧が晴れんのも、たぶんそれだ。この土地の者が住んどるから、晴れん」

わたしは、その言葉を聞いた。

聞いて、頭の中の四十のないものを思い出した。

灰海には、季節がない。雨がない。風がない。木がない。草がない。虫がない。

ここには、全部あった。

多すぎるほどあった。

同じものの、両端だった。

片方には何もなくて、片方には多すぎる。

多すぎるほうから、少しずつ出ていっている。出ていったものがどこへ行くのかは、分からない。

分からないが、行き先の一つは知っていた。

石になって、山で磨かれて、大陸じゅうで使われる。

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