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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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嘘だけが分かる

三日目の晩に、わたしは女主人に訊いた。

客が引けて、土間に二人だけになったころだった。彼女は卓を拭いていた。わたしは、その向かいに座っていた。

三日待った。

一日目に訊けば、答えないと思った。二日目でも早い。三日いて、宿の勝手が分かって、こちらが何をしている者かを向こうが少し測ってから訊く。

そういう順番のつけ方を、わたしは島で覚えた。老人から四十年を受け取るあいだに、訊く順番でずいぶん違うことを知った。

「オルサさん、ですよね」

客がそう呼んでいたのを、二日で覚えていた。

「そう呼ばれとる」

「わたしは、アステです」

「聞いた」

「訊いてもいいですか」

「訊いた者は多かった」と彼女は言った。「答えた相手は少ない」

「何人ですか」

「数えとらん」

「じゃあ、多くはないんですね」

「多くはない」

わたしは、その返事の速さを覚えた。

数えていないと言った者が、多くはないと即答した。数えていないのに多寡が分かるというのは、少ないということだった。

わたしは、そこで少し考えた。

考えて、遠回りをやめた。

「オルサさんは、嘘が分かるんですね」

彼女の手が、止まった。

止まって、そのまま動かなかった。布を握ったまま、卓の上を見ていた。

「なぜ、そう思った」

「三日、数えました」

「何をだ」

「この宿で、お客さんが本当のことを言うたびに、オルサさんが少しだけ何かをする回数です」

わたしは、覚えていたことを言った。

「嘘を言った人には、そう言った、って言い方をします。本当のことを言った人には、少しだけ違います。そう言った、じゃなくて、そうか、で済ませることがあります」

彼女は、まだ動かなかった。

「それだけじゃありません」とわたしは言った。「嘘を聞いたあと、耳のところに手をやる回数が多いです。右のほうです。右耳は、聞こえてないですよね」

オルサは、布を置いた。

置いて、初めてわたしの顔をまっすぐ見た。

「数えたか」

「数えました」

「なぜ数えた」

「数えるのが、癖だからです」

「いつからだ」

「三年前からです」

「なぜ始めた」

わたしは、そこで少し考えた。

「数えるしか、できることがなかったからです」

彼女は、そのことに何も言わなかった。

彼女は、卓の向かいに座った。

座ってから、しばらく黙っていた。

「あんたは、何を持ってきた」

わたしは、そこから話した。

長くなった。灰縁の村のことから始めて、北の谷の柱を十九本読んだこと、島で四十年ぶんを受け取ったこと、トルヴェクで坑の数を聞いたこと、ロヴァニスで確認埋蔵量を割ったこと、それから灰海の縁の杭が四回とも村のほうへ動いたこと。

最後に、わたしが並べたものを言った。

四十のないものが、一つのものの上に載っていたこと。その一つが抜けたら、四十が全部落ちること。抜けたものは戻らないこと。二百五十年前に、九人が使いはじめたこと。

言い終わるのに、たぶん一刻近くかかった。

オルサは、一度も遮らなかった。

遮らないのは、この人の仕事だった。

証言官は、両方の言い分を最後まで聞く。途中で切れば、切ったところから先が記録に残らない。残らないものは、あとで揉める。

そういうことを、わたしはそのときまだ知らなかった。

知らないまま、最後まで喋らせてもらった。

言い終わってから、彼女はしばらく何も言わなかった。

それから、右の耳のところに手をやった。

「あんたは、嘘を言わなかった」

わたしは、彼女を見た。

「本当ですか」

「本当だ」と彼女は言った。「一つも、嘘がなかった」

わたしは、その言葉を受け取った。

受け取って、そのあとに来るものを待った。

来なかった。

「それだけですか」

「それだけだ」

「合ってるかどうかは」

「分からん」

彼女は、手を耳から下ろした。

「わしに分かるのは、あんたが嘘を言っておらんということだけだ」と彼女は言った。「あんたが本当のことを言っておるかどうかは、分からん」

「同じじゃないんですか」

「違う」

彼女は、卓の上で手を組んだ。

「嘘というのは、自分が違うと思っておることを言うことだ」と彼女は言った。「あんたは、自分が正しいと思っておることを言った。だから嘘ではない」

「でも」

「思い違いは、嘘ではない」

わたしは、そこで黙った。

黙ったのは、言い返せなかったからではなかった。

そのとおりだと思ったからだった。

三年かけて並べたものが、思い違いでない保証は、どこにもなかった。同じ形が四つ揃った。揃ったからといって、下に一つのものがあるとは限らない。

わたしがそう並べただけかもしれなかった。

並べる者が、並べたい形に並べてしまうことは、ある。老人は、それらしい数を挟んだ。わたしも、霧の中で二年ぶんを挟んだ。

三年かけて並べたものを、初めて確かめてもらえた。確かめてもらえたのは、わたしが本気だということだけだった。

「三十年、これをやっとる」とオルサは言った。「三十年、人が嘘をつく音を聞いてきた」

彼女は、右の耳に手をやった。

「一度も、本当のことを知らんかった」

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