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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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取られた

その晩、わたしは灰海の縁に座っていた。

杭の内側だった。越えなければ、しばらくは平気だと言われている。しばらくというのが、どのくらいかは誰も知らない。

三日だ、とメレは三年前に言った。あそこへ入って三日で、人は起き上がれなくなる。理由は誰も知らない。知らないままみんなそう言う、と。

三日というのは、中へ入った場合だった。縁に座っているだけならどうなのかを、誰も言わなかった。

言わないのは、誰も試していないからだった。

風がなかった。

音もしなかった。村の篩の音が、こちらへは届かない。届かないのではなく、吸われていた。

わたしは、三つの数を並べた。

北の谷の柱、十九本。取った量が、減っていた。刻んで我慢していたのに、減っていた。

島の戦功録、四十年。持ち帰った量が、半分になっていた。刻まずに奪っていたのに、減っていた。

トルヴェクの坑、二百三十六。止まったのが百九十五。止まった坑は、二百年のあいだ一度も鳴っていない。

そこへ、四つ目を並べた。

灰海の杭、四列。四回とも、村のほうへ動いた。戻ったことがない。

四つとも、やり方が違った。

北の谷は、木の実と魚と獣を取っていた。島は、麦を奪っていた。トルヴェクは、石を掘っていた。灰縁の村は、灰を掘っていた。

取っているものが、全部違った。

取り方も違った。

北の谷は、割って刻んで我慢した。島は、割らずに奪った。トルヴェクは、掘れなくなるまで掘った。この村は、掘って、崩れたところは捨てた。

慎重にやった土地も、乱暴にやった土地もあった。

どちらも、同じ形で減った。

違うものを取っていて、同じ形で減る。

わたしは、そこでずっと止まっていた。

止まっていたのは、取っているものを比べていたからだった。

木の実と、麦と、石と、灰。四つとも別のものだった。別のものが同じ減り方をするのは、おかしい。

おかしいと思っているあいだは、先へ行けなかった。

わたしは、灰海のほうを見た。

暗くて、何も見えなかった。見えないのに、そこに何もないことは分かった。

ここには、季節がない。

暑くも寒くもならない。雨も降らない。冬も来ない。風がない。木が生えない。草も生えない。虫もいない。人が入って三日で起き上がれなくなる。

わたしは、それを一つずつ数え上げた。

数え上げて、気がついた。

わたしは、いま「ないもの」を数えていた。

季節がない。雨がない。風がない。木がない。草がない。虫がない。

ないものが、四十以上あった。四十以上のばらばらなものが、一つの場所から同時になくなっている。

四十のものが同時になくなるということは、四十のものが一つのものの上に載っていたということだった。

わたしは、そのことを、これまで一度も考えなかった。

考えなかったのは、載っているものばかり数えていたからだった。木の実、麦、石、灰。数えられるものだけを数えて、その下にあるものを数えなかった。

下にあるものは、数えられない。目に見えないし、袋にも入らない。

数えられないものは、数える者がいない。

一つのものが抜けたから、四十が全部落ちた。

わたしは、立ち上がった。

立ち上がって、灰の上に手をついた。

冷たくも温かくもなかった。何も感じなかった。手のひらの下にあるのは、粉だけだった。

残ったものだよ。持っていかれたあとに、残ったもの。

メレの母親が、その母親から聞いた言葉だった。

持っていかれたのは、一つのものだった。

その一つのものが抜けたあとに、粉だけが残った。だから炭が出ない。骨も出ない。燃えたのではないからだった。抜けたのだった。

わたしは、村のほうを振り返った。

村では、灰が減っていた。掘ったところからは、もう出ない。

北の谷では、木の実が減っていた。

島が奪う麦が、減っていた。麦は毎年蒔かれている。蒔いているのに、取れる量が落ちていた。

トルヴェクでは、鳴りが痩せていた。止まった坑は、掘り方を変えても鳴らない。

四つとも、同じ一つのものの上に載っていた。

その一つのものが、減っていた。

減ったものは、戻らない。

杭は戻らない。坑は鳴らない。伐った木は生えない。似たものが、あとから生えるだけだった。

わたしは、灰の上に座り込んだ。

座り込んで、腕の内側に手を当てた。

線が三つ。

そのうち一つは、隠すやつだった。使えば、あの盆に手を入れても光らない。

光るというのは、水が反応するということだった。何に反応するのかを、わたしはずっと考えなかった。

有脈者の体の中には、道がある。メレは、そう言った。できた日に、ああここに道があったのかと分かる。分かったときには、もう通っている、と。

通っているものが、ある。

体の中を通っているものと、地面の中にあるものが、同じものなら。

わたしは、自分の指を見た。

暗くて見えなかった。見えないが、白いのは分かっていた。

灰化というのは、そういうことだった。

体の中の道を使えば、その者は硬くなる。使わなくても、少しずつ硬くなる。メレは一度も使わないで、手のひらまで石になった。

体の中のものが減れば、体が硬くなる。

地面の中のものが減れば、地面が灰になる。

わたしは、灰海の上に手をついたまま、動けなかった。

ここは、体の中のものを全部取られた地面だった。

取ったのは、誰かだった。

一度に取ったのか、少しずつ取ったのかは分からなかった。

分からないが、一度に取ったのだと思った。少しずつなら、縁がこんなにはっきりしない。少しずつ減るところは、境目が滲む。

ここには、境目があった。杭が打てるほどはっきりした境目が。

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