内へ寄る
翌朝、わたしは杭のところへ戻った。
明るいうちに、もう一度歩いた。夜のうちに数えたものを、確かめるためだった。
確かめるというのは、二度数えるということだった。
ロヴァニスの港で、荷を二人が別々に数えていた。北の谷では、刻みに行くとき二人で行った。二人いないときは、同じ者が二度数える。二度目が一度目と合えば、たぶん合っている。
合わなければ、三度目を数える。
わたしは、三度数えた。
四つの列の間隔は、揃っていなかった。
いちばん古い列から二列目までが、いちばん広かった。二列目から三列目は、それより狭い。三列目からいまの列までは、もっと狭かった。
一見すると、寄る速さが落ちているように見えた。
わたしは、それをそのまま受け取らなかった。
トルヴェクで、同じ形のものを見た。二百年で百九十五の坑が止まって、この五十年では十四しか止まっていない。止まる速さが落ちているように見えた。
落ちているのではなかった。残りが少なくなっていただけかもしれなかった。
同じ形を二度目に見たときは、一度目より早く疑えた。
一度目に疑うのは、難しい。二度目からは、前に同じ形で騙されかけたことを覚えている。
覚えているというのは、そういう役に立ち方をするのだった。
杭は、違う。
灰海は、減っているのではない。増えている。増えるものが、増える速さを落とすというのは、逆だった。
わたしは、村へ戻って訊いた。
「杭は、何年ごとに打ち直すんですか」
訊いたのは、櫓を回している男だった。三年前からいた人だと思う。顔に覚えがあった。
「決まっとらん」と彼は言った。
「決まってないんですか」
「近くなったら、打ち直す」
「近くなったって、どのくらいですか」
「歩いて、危ないと思ったらだ」
「危ないというのは、どうやって分かるんですか」
「歩いて、頭が重くなったら戻る」
「重くなるんですか」
「重くなる」と男は言った。「重くなってから戻れば、たいてい間に合う。間に合わんかった者もおる」
わたしは、トルヴェクの鳴りのことを考えていた。
岩は、いきなり落ちない。落ちる前に、必ず鳴りが変わる。変わってから落ちるまでに、人が出るだけの間はある。
必ずということにしてある、とドラは言い直した。
わたしは、そこで分かった。
間隔が揃っていないのは、寄る速さが変わったからではなかった。打ち直す間隔が、そのつど違うからだった。
「前に打ち直したのは、いつですか」
「去年だ」
「その前は」
「四年前かな」
「その前は」
男は、少し考えた。
「わしがここへ来る前だ」
わたしは、それ以上訊かなかった。
年数が、はっきり分からない。分からないものを、無理に数にはできない。
そのかわり、はっきりしていることが一つあった。
杭は、四回動いた。
四回とも、村のほうへ動いた。灰海のほうへ動いたことは、一度もない。
戻っていない。
戻ったことがあるなら、誰かが覚えているはずだった。
灰海が退いたら、それは村にとっていい報せだった。いい報せは、話になる。話になったものは、そのうち言い伝えになる。
言い伝えに、そういうものが一つもなかった。
メレの母親が伝えたのは、取られた、という一行だけだった。返ってきた、という言葉は、どこにもなかった。
トルヴェクの坑と、同じだった。止まった坑は、二百年のあいだ一度も鳴り出していない。
灰海の縁は、一度も戻っていない。
わたしは、その日のうちに、もう一つのことを確かめた。
村の家が減っていた。三年前は四十戸ほどで、いまは三十を少し超える。
「家が減ってますよね」
「減った」
「人が減ったんですか」
「減った」
「出ていったんですか」
「死んだ者もおるし、出ていった者もおる」と男は言った。「出ていったのは、灰が売れんようになったからだ」
わたしは、顔を上げた。
「売れないんですか」
「値が落ちた」
「なんでですか」
「知らん」と彼は言った。「教会が買う量を減らした。前は月に一度来とったのが、二月に一度になった」
わたしは、その数を頭に入れた。
灰縁の村の買い付けは、六十日に一度と決まっていた。三年前は、そうだった。いまは、その倍になった。
買い付けの司祭は、灰の値を三度渋って、三度目に少しだけ上げていた。値を渋るのと、来る回数を減らすのは、別のことだった。
回数を減らすというのは、要らなくなったということだった。
わたしは、その言葉を頭の中に置いた。
灰を買うのは教会だった。混ぜた壁は割れにくい。聖都の穹堂の壁にも入っている。
買う量が減ったというのは、建てる量が減ったということだった。
建てる量が減るのは、銭が減ったからだった。
わたしは、その先を並べようとして、止めた。
並べる前に、確かめることがあった。
「掘る場所は、どうなってますか」
「遠くなった」
「三年前も、遠くなったと言ってました」
「もっと遠くなった」
「縁の近くは、掘れないんですか」
「掘った」と彼は言った。「掘ったところは崩れる。崩れたところからは、もう出ん」
わたしは、その言葉を三度、頭の中で繰り返した。
掘ったところからは、もう出ない。
止まった坑は、鳴らない。
伐った木は、戻らない。似たものが、あとから生えるだけだ。
同じことを、三つの土地の三人が言っていた。
言ったのは、グリムと、ドラと、この村の男だった。
三人とも、互いを知らない。会ったこともない。土地も、言葉も、取っているものも違う。
同じことを言った。
同じ目に遭った者は、同じことを考える。教え合ったわけではない、とヘズは言った。




