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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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内へ寄る

翌朝、わたしは杭のところへ戻った。

明るいうちに、もう一度歩いた。夜のうちに数えたものを、確かめるためだった。

確かめるというのは、二度数えるということだった。

ロヴァニスの港で、荷を二人が別々に数えていた。北の谷では、刻みに行くとき二人で行った。二人いないときは、同じ者が二度数える。二度目が一度目と合えば、たぶん合っている。

合わなければ、三度目を数える。

わたしは、三度数えた。

四つの列の間隔は、揃っていなかった。

いちばん古い列から二列目までが、いちばん広かった。二列目から三列目は、それより狭い。三列目からいまの列までは、もっと狭かった。

一見すると、寄る速さが落ちているように見えた。

わたしは、それをそのまま受け取らなかった。

トルヴェクで、同じ形のものを見た。二百年で百九十五の坑が止まって、この五十年では十四しか止まっていない。止まる速さが落ちているように見えた。

落ちているのではなかった。残りが少なくなっていただけかもしれなかった。

同じ形を二度目に見たときは、一度目より早く疑えた。

一度目に疑うのは、難しい。二度目からは、前に同じ形で騙されかけたことを覚えている。

覚えているというのは、そういう役に立ち方をするのだった。

杭は、違う。

灰海は、減っているのではない。増えている。増えるものが、増える速さを落とすというのは、逆だった。

わたしは、村へ戻って訊いた。

「杭は、何年ごとに打ち直すんですか」

訊いたのは、櫓を回している男だった。三年前からいた人だと思う。顔に覚えがあった。

「決まっとらん」と彼は言った。

「決まってないんですか」

「近くなったら、打ち直す」

「近くなったって、どのくらいですか」

「歩いて、危ないと思ったらだ」

「危ないというのは、どうやって分かるんですか」

「歩いて、頭が重くなったら戻る」

「重くなるんですか」

「重くなる」と男は言った。「重くなってから戻れば、たいてい間に合う。間に合わんかった者もおる」

わたしは、トルヴェクの鳴りのことを考えていた。

岩は、いきなり落ちない。落ちる前に、必ず鳴りが変わる。変わってから落ちるまでに、人が出るだけの間はある。

必ずということにしてある、とドラは言い直した。

わたしは、そこで分かった。

間隔が揃っていないのは、寄る速さが変わったからではなかった。打ち直す間隔が、そのつど違うからだった。

「前に打ち直したのは、いつですか」

「去年だ」

「その前は」

「四年前かな」

「その前は」

男は、少し考えた。

「わしがここへ来る前だ」

わたしは、それ以上訊かなかった。

年数が、はっきり分からない。分からないものを、無理に数にはできない。

そのかわり、はっきりしていることが一つあった。

杭は、四回動いた。

四回とも、村のほうへ動いた。灰海のほうへ動いたことは、一度もない。

戻っていない。

戻ったことがあるなら、誰かが覚えているはずだった。

灰海が退いたら、それは村にとっていい報せだった。いい報せは、話になる。話になったものは、そのうち言い伝えになる。

言い伝えに、そういうものが一つもなかった。

メレの母親が伝えたのは、取られた、という一行だけだった。返ってきた、という言葉は、どこにもなかった。

トルヴェクの坑と、同じだった。止まった坑は、二百年のあいだ一度も鳴り出していない。

灰海の縁は、一度も戻っていない。

わたしは、その日のうちに、もう一つのことを確かめた。

村の家が減っていた。三年前は四十戸ほどで、いまは三十を少し超える。

「家が減ってますよね」

「減った」

「人が減ったんですか」

「減った」

「出ていったんですか」

「死んだ者もおるし、出ていった者もおる」と男は言った。「出ていったのは、灰が売れんようになったからだ」

わたしは、顔を上げた。

「売れないんですか」

「値が落ちた」

「なんでですか」

「知らん」と彼は言った。「教会が買う量を減らした。前は月に一度来とったのが、二月に一度になった」

わたしは、その数を頭に入れた。

灰縁の村の買い付けは、六十日に一度と決まっていた。三年前は、そうだった。いまは、その倍になった。

買い付けの司祭は、灰の値を三度渋って、三度目に少しだけ上げていた。値を渋るのと、来る回数を減らすのは、別のことだった。

回数を減らすというのは、要らなくなったということだった。

わたしは、その言葉を頭の中に置いた。

灰を買うのは教会だった。混ぜた壁は割れにくい。聖都の穹堂の壁にも入っている。

買う量が減ったというのは、建てる量が減ったということだった。

建てる量が減るのは、銭が減ったからだった。

わたしは、その先を並べようとして、止めた。

並べる前に、確かめることがあった。

「掘る場所は、どうなってますか」

「遠くなった」

「三年前も、遠くなったと言ってました」

「もっと遠くなった」

「縁の近くは、掘れないんですか」

「掘った」と彼は言った。「掘ったところは崩れる。崩れたところからは、もう出ん」

わたしは、その言葉を三度、頭の中で繰り返した。

掘ったところからは、もう出ない。

止まった坑は、鳴らない。

伐った木は、戻らない。似たものが、あとから生えるだけだ。

同じことを、三つの土地の三人が言っていた。

言ったのは、グリムと、ドラと、この村の男だった。

三人とも、互いを知らない。会ったこともない。土地も、言葉も、取っているものも違う。

同じことを言った。

同じ目に遭った者は、同じことを考える。教え合ったわけではない、とヘズは言った。

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