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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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76/96

セン

歩数は、覚えた。

四つの列の間隔も、一つずつ数えた。

歩幅は、自分のものを使った。

正しい長さを知らなくても、同じ歩幅で測れば比べることはできる。比べられれば、形が出る。北の谷の柱も、島の四十年も、そうやって持っていた。

同じ足で測ったものだけが、比べられる。

だから、途中で走らなかった。走ると歩幅が変わる。いちばん古い列から二列目まで。二列目から三列目まで。三列目から、いまの列まで。

数えて、村へ戻った。

日が落ちていた。この土地に季節はないので、日の落ちる時刻はいつも同じだった。三年前と同じ時刻に、同じ暗さになった。

季節がないというのは、そういうことだった。

北の峡では、冬に日が短くなって、家じゅうが眠った。北の谷では、雪が来る前に割り方を決めた。ロヴァニスでは、麦の値が季節で動いた。

ここには、それがない。

三年前の同じ時刻と、今日の同じ時刻が、同じだった。同じであることが、この土地のいちばん怖いところだった。

村の中を歩いた。

夜になると、村じゅうが咳をする。順番が決まっている。左の家の男が最初に始めて、それが向かいへ移り、少し間があってから遠くの端の家で老人が長く咳き込む。

わたしは、その順番を聞いた。

違っていた。

最初に始まるところが、違った。左の家からではなかった。もっと近いところから始まって、順番が短かった。

咳をする家が、減っていた。

減っているのに、村じゅうが静かにはならなかった。

残っている家の咳が、長くなっていた。三年前、いちばん長く咳き込むのは端の家の老人だけだった。いまは、どの家も同じくらい長かった。

人が減って、一人あたりの咳が伸びる。

そういう減り方をする村だった。

櫓のほうへ歩いた。

灰は夜も篩う。日が落ちても、明かりを置いて回す。三年前は、そうだった。

明かりは、一つしかなかった。

その下に、人が立っていた。

背が高かった。三年前より高かった。肩の幅も違った。それでも、篩の枠に手をかける形は同じだった。目が詰まると、いつのまにか横へ来て、黙って直して、また黙って自分の持ち場へ戻る。

トゥーだった。

わたしは、しばらく離れたところに立っていた。

彼が顔を上げた。

こちらを見て、それから手を止めた。

しばらく、何も言わなかった。わたしも言わなかった。

「戻ったのか」

声が変わっていた。低くなっていた。

「うん」

「そうか」

彼は、また篩に手を戻した。

訊かれなかった。

どこへ行っていたのかも、何をしていたのかも、なぜ戻ってきたのかも。

三年前、この人はわたしのことを何も訊かなかった。訊かない村の子だった。三年経って、まだ訊かなかった。

訊かれないことに、わたしは慣れていた。慣れていたはずだった。

慣れているのに、そのとき少しだけ、訊いてほしいと思った。

わたしは、そのまま近づいて、櫓の下に立った。目の詰まっているところが見えた。手を伸ばして、指で押し出した。

三年やっていない仕事だった。指が覚えていた。

櫓の下は、三年前と同じ高さだった。

わたしの背が伸びていたので、屈まないと下の段に手が届かなかった。三年前は、背伸びをしていた。

同じ場所が、同じ場所でなくなっていた。変わったのは場所ではなく、こちらだった。

トゥーは、何も言わないでわたしの立ち位置を少しずらした。ずらした先のほうが、やりやすかった。

しばらく、二人で直した。

「北は」とトゥーが言った。

「寒かった」

「そうか」

それだけだった。

三年前、この人は言った。北は寒い、と。それから、灰は寒いところのほうが軽い、と言った。どういう意味かと訊いたら、知らない、自分が来たときにそう言われた、と答えた。

わたしは、北で灰を見なかった。灰海の北の縁を歩いたが、あそこの灰が軽いかどうかは分からなかった。

分からなかったことを、言うべきかどうか迷った。

言わなかった。

わたしは、訊きたいことを訊いた。

「メレは」

トゥーの手が、止まった。

止まって、それから動いた。

「いる」

「元気」

彼は、答えなかった。

答えないのが答えだった。この村では、それを覚えた。覚えたところが、ここだった。

三年間、いろいろな土地で、その答え方に何度も当たった。

エルネスも、ヘルヴィも、グリムも、ヘズも、ドラも、みんな同じことをした。答えられないことを訊かれると、黙る。黙ったまま、次の話へ行く。

最初にそれを見せたのが、この村だった。

覚えたやり方を、いま覚えた場所で使われていた。

「どこ」

「小屋だ」

彼は、袋を積む小屋のほうを顎で示した。人が寝る場所ではなかった。

「なんでそこに」

「咳が、家の中だと響く」とトゥーは言った。「本人が、そっちがいいと言った」

わたしは、そちらを見た。

明かりは、ついていなかった。

「行っていい」

「行ってこい」

わたしは、櫓を離れた。

離れてから、一度だけ振り返った。

トゥーは、篩を回していた。わたしが直したところを、もう一度直していた。詰まってもいないところを直すのが、この人の癖だった。

三年前も、そうだった。

わたしは、小屋のほうへ歩いた。

歩きながら、櫓の音を聞いていた。音は、三年前より小さかった。回している篩の数が減っていた。

減っていない音を、この村でわたしは一つも聞かなかった。

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