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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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三つ

船が出るのは、翌朝だった。

麦は積み終わっていた。思っていたより少なかった。石を九つ売った銭で買えたのが、それだけだった。

「これで足りるんですか」

「足りん」とベルグが言った。「足りたことがない」

「じゃあ、なんで」

「足りんなりに、去年よりましだ」

「去年より、ましなんですか」

「石が当たったからな」とベルグは言った。「石が当たらん年は、これの半分だ」

「半分でも、越せるんですか」

「越せん年もある」

彼は、袋の線を数え直していた。

「越せん年に何が起きるかを、あんたはもう見とるだろう」

わたしは、北五峡の谷を思い出していた。掘ってあるところの入り口に、去年の落ち葉が積もっていた。

彼は、袋の数を線で数え直していた。

わたしは、船縁に座って、内海を見ていた。

三つ、揃っていた。

北の谷の柱が十九本。取ってきた量が、減っていた。刻んで我慢していたのに、減っていた。

島の戦功録が四十年。持ち帰った量が、半分になっていた。刻まずに奪っていたのに、減っていた。

トルヴェクの坑が二百三十六。止まったのが百九十五で、止まった坑は二百年のあいだ一度も鳴り出していない。

三つとも、やり方が違った。

木の実と魚を、取りすぎないように刻んで取る土地。麦を、返さないで奪う島。石を、掘って売る山。

三つとも、同じ形で減っていた。

やり方を変えても、減り方が変わらない。

変わらないというのは、やり方のせいではないということだった。

やり方のせいなら、やり方を変えれば止まる。

北の谷は、取りすぎないように刻んでいた。刻んでいて減った。島は、刻まずに奪っていた。奪っていて減った。トルヴェクは、掘り方を全部変えた。深く掘り、横へ伸ばし、水を抜いた。それでも止まった坑は鳴らなかった。

やれることを、みんなやっていた。

やれることをやって、同じだけ減っていた。

わたしは、そこまでは並べられた。

並べられたが、その先が分からなかった。なぜ減るのか。どこへ行ったのか。戻らないのはなぜか。

分からないまま、三つは揃った。

二つでは足りない、三つ揃えば偶然ではなくなる、と誰かが言った。その人は、三度出て、二度目で死んだ。

偶然ではなくなった。

偶然でないなら、何かがある。

その何かを、わたしはまだ知らなかった。

シグリが、船尾へ来た。

彼女は、袖を下ろしたままだった。街を出るまでは下ろしておくのだろうと思った。

「石を、売った」と彼女は言った。

「はい」

「麦を、買った」

「はい」

「次も、要る」

わたしは、彼女を見た。

「次も、石を取るんですか」

「取る」

「取れなかったら」

「麦が減る」

彼女は、内海のほうを見ていた。

「あんた、あそこで何を見た」

わたしは、しばらく黙っていた。

言うかどうかを、考えていた。

言えば、この人はまた同じことをする。四十年の数を渡したとき、島は取れるだけ取ることに決めた。渡したのはわたしだった。

言わなければ、何も変わらない。何も変わらないというのは、このまま毎年石を取りに来るということだった。取りに来て、そのうち捕まる。

どちらでも、変わらない。

どちらでも変わらないなら、言うかどうかは、わたしの側の話だった。

「石は、あと五十年でなくなります」とわたしは言った。

シグリは、こちらを見なかった。

「五十年」

「たぶん、もっと早いです」

「そうか」

彼女は、それだけ言った。

驚かなかった。前にもそうだった。血の繋がった者が谷にいると言ったときも、驚かなかった。

驚かないのは、この人が鈍いからではなかった。

驚くというのは、それが自分に関わると思うことだった。関わらないと思っているものには、驚けない。

血の話は、土地の話だった。この人には土地がない。

五十年の話は、生きている者の話だった。この人は、五十年生きるつもりがない。

「そうか、で終わりですか」

シグリは、そこで初めてこちらを向いた。

「五十年」と彼女はもう一度言った。「わしは、三十五で石になる」

わたしは、何も言えなかった。

「あと十年だ」と彼女は言った。「五十年の話は、わしの話ではない」

わたしは、その言い方を、あとで何度も思い出した。

島の盟約会で、三年あとのことを言う者に票がないのと、同じだった。三年あとを心配するのは、三年あとも生きている者だ。前に座っている連中は、三年あとに生きているつもりがない。

セリーナは、今日死ぬ人と五十年後に死ぬ人を同じ秤に載せられないと言った。

シグリは、載せる相手が自分ではない、と言った。

どちらも、同じ形をしていた。

彼女は船首のほうへ戻っていった。

わたしは、腕の内側に手を当てた。

彫った線が三つ。あと一つ。

三つの数が、頭の中に並んでいた。並んでいるだけで、何も言わなかった。

数は、並べただけでは何も言わない。

意味を出すには、比べる相手が要る。三つ揃った以上、比べる相手はもう外にはなかった。

外にないなら、内側だった。

なぜ減るのかを知っている者が、どこかにいるはずだった。

いるとすれば、いちばん長く、いちばん多く数えてきた者だった。

わたしは、そこで初めて、あの穹堂のことを思い出した。

百二十という数を、六百年ずっと守ってきた者たちがいた。豊作の年も凶作の年も、戦のあった年もなかった年も、百二十。

理由を、誰も言わなかった。

理由を訊かれなかったからだと、わたしはずっと思っていた。

訊かれなかったのではないかもしれなかった。

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