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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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埋蔵

貼ってあるものは、思っていたより地味だった。

奥の廊下の壁に、紙が並べて貼ってある。一年に一枚。古いものから順に、右へ伸びていた。端のほうは色が変わって、字が薄くなっていた。

いちばん古いものは、読めなかった。

読めないというのは、消えたのではなく、薄くなって判じにくいということだった。目を近づけて、光の当たり方を変えると、いくらかは拾えた。

拾えるうちに読んでおかないと、そのうち読めなくなる。

読めなくなったものは、誰かが写しておかないと消える。写す者がいるのかどうかを、わたしは知らなかった。

わたしは、いちばん新しいものから読んだ。

年間取引高。

わたしが六日ぶんから計算した数と、そう遠くなかった。少し多かった。取引所を通らないものがあるのだろうと思った。

通らないものというのは、たとえば、わたしたちが売った九つの箱だった。

あれは取引所を通っていない。カズヴェク家の代理人が直接買った。買ったものは、磨いてから取引所へ出るのだろう。出るときには、トルヴェクの精導石として出る。

エオリンで掘られて、島に奪われて、トルヴェクで磨かれたものが、トルヴェクのものとして数えられる。

数は、そこで一度、名前を変えていた。

その下に、もう一行あった。

確認埋蔵量。

わたしは、その言葉を初めて見た。読める字だったが、意味が分からなかった。

「これは、なんですか」

セリーナが、後ろに立っていた。ついてきていた。

「あとどれだけ残っているか」

「残ってるって、どこにですか」

「地面の中に」

わたしは、その数を見た。

大きかった。取引高より、ずっと大きかった。

わたしは、割った。

割るのに、少し手間取った。桁が多いと、頭の中で割れない。

指を使った。指で位を数えて、上から順に落としていく。父が帳付けをしているときに、そういう手つきをしていた。見ていたのを、体が覚えていた。

見ていただけのものが、いくつか体に残っていた。

確認埋蔵量を、年間取引高で割る。出たのは、年数だった。

その年数を、わたしは口の中で言った。

「二百年くらいですね」

セリーナが、少し黙った。

「よく割ったわね」

「それで合ってますか」

「合ってる」と彼女は言った。「取引所も同じ計算をする。だから、みんな安心してるの」

「安心」

「二百年あれば、いま生きてる人は誰も困らない」と彼女は言った。「困らないなら、値は安定する。安定していれば、貸せる」

わたしは、その順番に引っかかった。

安心するから、値が安定する。安定するから、貸せる。

安心のほうが先だった。安心が先で、事実があとに来ていた。

北の谷では、逆だった。あるものを数えて、割って、割った数を守った。数が先で、暮らしがあとだった。

わたしは、その言葉を追った。

「貸すって、なにをですか」

「お金」

彼女は、廊下の窓のほうを向いた。

「この国は、お金を貸す国よ。アルディエルにも、ヴェルガルドにも貸してる。貸すときに、何か担保がいるでしょう」

「たんぽ」

「返せなかったときに、代わりに取れるもの」

「土地とかですか」

「土地は取れない」と彼女は言った。「取っても守れないもの。だから、石で取る」

「石は守れるんですか」

「石は動く」と彼女は言った。「動くものは運べる。運べるものは売れる。売れるものは担保になる」

「じゃあ、動かないものは」

「担保にならない」

わたしは、北の谷の記録小屋のことを考えていた。

あれは動かなかった。動かないから、目録に載って、番号を振られた。

動かないものは、担保にならない代わりに、取り上げられる。

わたしは、壁の紙を見ていた。

「石って、地面の中の石ですか」

「そう」

「まだ掘ってないものを、担保にできるんですか」

セリーナは、わたしのほうを向いた。

「できる」と彼女は言った。「確認埋蔵量があるから」

わたしは、その繋がりを、頭の中でゆっくり並べた。

地面の中に、あとどれだけあるか。その数があるから、まだ掘っていないものを、担保にできる。担保にできるから、貸せる。貸せるから、この国は成り立っている。

「その数は、誰が数えたんですか」

セリーナは、少し驚いた顔をした。

「取引所が出してる」

「取引所の人が、坑へ行って数えるんですか」

「行かない」と彼女は言った。「掘っている国が申告するの。それを取引所がまとめる」

「申告した数が違っていたら」

「違っていない前提で動いてる」

「確かめないんですか」

「確かめる方法がない」と彼女は言った。「坑の中を見に行っても、その坑からあとどれだけ出るかは分からない。掘ってみないと分からないものを、掘る前に数えてるの」

彼女は、紙のほうを見ていた。

「だから、掘っている人の言い値を使う」

「掘っている国というのは」

「エオリンとトルヴェク。あとは細かいのがいくつか」

わたしは、その二つの名を聞いた。

「トルヴェクは、なんて申告してるんですか」

「坑の数と、坑ごとの見込み量」

「坑の数」

「そう」

「坑の数が減ったら、埋蔵量も減りますね」

「減る」

「増えたら」

「増える」と彼女は言った。「でも、増えたことはない。もう何十年も」

「減ってもいないんですか」

「少しずつ減ってる」と彼女は言った。「少しずつだから、誰も騒がない」

わたしは、壁の紙をもう一度見た。

そして、腕の内側に手を当てた。

彫った線の三つ目に、その数があった。

「トルヴェクの坑の数は、いくつだって書いてありますか」

セリーナは、紙のほうへ体を寄せた。細かい字を目で追って、指で押さえた。

「稼働坑、四十一」

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