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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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三つ目

山を下りて三日目に、追ってくる者がいた。

気づいたのは、シグリだった。彼女は歩きながら一度も後ろを見なかったのに、休んだところで短く言った。

「三人」

ベルグが、道の先を見た。

「まだ先だ。ここは開けとる」

「開けてると、どうなるんですか」

「向こうから見える」と彼は言った。「見えるところでは何もせん。林に入ってからだ」

道の先に、林があった。

避けて通れなかった。避ければ大回りになり、大回りすれば追いつかれる。

漕ぎ手の二人は、荷を持っていた。銭だった。石を売った銭を、四つに分けて持っていた。分けて持つのは、一人が取られても全部は取られないようにするためだった。

「あんたは、走れ」とベルグがわたしに言った。

「え」

「林に入ったら、走れ。振り向くな」

「みなさんは」

「わしらは、走らん」

シグリが、上着の袖に手をかけた。

まくらなかった。まくりかけて、止めた。

止めたのを、わたしは見ていた。まくれば刻みが出る。刻みが出れば、この道で誰かに見られる。見られれば、あの街まで話が戻る。

彼女は、袖を下ろした。

わたしは、そのとき決めた。

林に入って、しばらく歩いたところで、後ろで音がした。

わたしは走らなかった。

走る代わりに、道を外れて、木の陰へ入った。入って、しゃがんで、腕の内側に手を当てた。

打たれない場所を作れ、とヘルヴィは言った。そんな場所はないから、作れ、と。

木の陰は、場所だった。

わたしは開けた。

一つ。

体が重くなった。あの、上がる前に落ちる感じだった。指が言うことをきかなくなり、息が浅くなった。

二つ。

道のほうで、鉄の音がした。

三つ。

上がった。

そこから先のことを、わたしは順を追って書けない。

書けないというのは、覚えていないからではなかった。覚えている。世界が遅くなっているあいだのことは、全部覚えている。ただ、順番に並べると、自分がやったことになる。

三人のうち、二人は倒した。倒しただけだった。殺さないというのは、上がっているときのほうが難しい。速さの順番が入れ替わっているので、加減が効かない。

三人目は、シグリが片づけた。

袖はまくっていなかった。刻みを使わないで片づけた。

わたしが立っていられたのは、そのあと数えるほどの間だった。

切れた。

倒れたところを、ベルグが受けた。受けて、担いだ。

「言うたはずだ」と彼が言った。「走れと」

わたしは、口が動かなかった。

二日、動けなかった。

担がれて、道を進んだ。日が変わったことは、明るさで分かった。飲まされたものは飲み込めた。それ以外は、何もできなかった。

二日のあいだ、わたしは頭の中で数えていた。

北の谷の柱、十九本。島の四十年。それと、新しく入った数。

坑が二百三十六。止まったのが百九十五。鳴っているのが四十一。まともに出るのが十一。

止まった坑は、二百年のあいだ、一度も鳴り出していない。

水が三つ落ちるうちに来ていたものが、いまは七つ落ちても来ない坑がある。

わたしは、それを何度も通した。

通しながら、考えていた。

老人は、書くなと言った。書いたものは取られる、なくす、燃える、濡れる。置いた場所から動かない。動かないものは、いつか誰かに見つかる。

グリムも、同じことを言った。頭の中にあるものは、潰しに来るのにあんたを見つけないといかん、と。

二人とも、正しかった。

正しいが、二人とも、頭のほうが先に死ぬということを言わなかった。

ドラは、記録を見せた者がいなくなったと言った。道の広いところで落ちた、と。

わたしは、いま道の上で担がれていた。

担がれているあいだ、わたしにできることは何もなかった。

頭の中のものは、担いでいる人には渡せない。渡すには三日かかる。三日もらえるとは限らなかった。

三日目の朝に、指が動いた。

その日の夕方、わたしは荷から自分のものを出した。

母が握らせた針だった。ずっと持っていた。ヘルヴィが最初に使って、名を入れたときのものだった。あれから、一度も使っていない。

わたしは、火にかざした。

ベルグが見ていた。

「なにをしとる」

「刻みます」

「あんた、彫り手じゃないだろう」

「彫り手じゃありません」

「彫れるのか」

「型は彫れません」とわたしは言った。「術になるやつは、彫り方を知りません」

ベルグは、わたしの手元を見ていた。

「じゃあ、なにを彫る」

わたしは、答えた。

「数です」

彼は、しばらく黙っていた。

「うちの島でも、そういうのはある」と彼は言った。「何もせん刻みだ。出た年に、出たことを残すために刻む」

「知ってます」

「あれは、体が減る」

「知ってます」

「何もせんのに、減る」

「知ってます」

わたしは、左の腕をまくった。隠すやつを彫ってある腕だった。その下、肘に近いところに、まだ空いている皮膚があった。

針を当てた。

自分でやると、ヘルヴィのときとはまるで違った。

痛みは同じだった。違うのは、手が止まることだった。皮膚が裂ける瞬間に、手のほうが勝手に引く。引かないようにするには、引く前に押し込むしかなかった。

わたしは、短い線を入れた。

二百三十六。百九十五。四十一。十一。

四つの数を、線の組み合わせで入れた。北の谷の柱と同じやり方だった。列にして、頭に印を置く。誰が見ても読めないが、わたしには読める。

彫り終わるまでに、日が落ちた。

血は、思っていたより出なかった。線の周りが、そのそばから白く盛り上がりはじめていた。

三つ目だった。

あと一つ。

わたしは、盛り上がっていく線を見ていた。

ヘルヴィは言った。二つのうち一つは残せ。三つ目まで刻んだ者は、たいてい四つ目も刻む。刻めるものがあると、使う理由のほうが後から出てくる。

そのとおりになった。

ただし、順番が違った。理由のほうが先に来た。

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