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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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止まった坑

ドラは、次の日の夜も同じ場所にいた。

わたしは、また眠れないふりをして出ていった。銭は昼のうちに受け取っていた。ベルグは、明日の朝に山を下りると言っていた。

夜は、その一晩しかなかった。

わたしは、訊く順番を決めてきていた。

いちばん訊きたいことを、先に訊く。あとで訊こうとすると、その前に相手が帰る。老人から四十年を受け取るあいだに、それを覚えた。

いちばん訊きたいのは、止まった坑がまた鳴るかどうかだった。

「昨日の続きを、訊いてもいいですか」

彼女は、水時計を膝に置いていた。

「訊け」

「止まった坑は、どうなりますか」

「止まったら、掘らん」

「掘らないと、どうなりますか」

「そのままだ」

「そのままにしておいたら、また鳴りますか」

ドラの手が、止まった。

水の落ちる音が、そのあいだも続いていた。

「鳴らん」

「一度も、ですか」

「一度もだ」

わたしは、その言葉を、頭の中の空いている場所へ入れた。

空いている場所というのは、三つ目の棚だった。

二つは埋まっていた。北の谷の柱と、島の四十年。三つ目が入るところを、わたしは半年のあいだ空けたまま持ち歩いていた。

入れてみて、大きさが合った。

合いすぎているのが、少し怖かった。

「どのくらい前から、そうですか」

「わしの知っとるかぎりでは、全部だ」

「五十年、一つも」

「一つもだ」

「掘り方を変えても」

「変えた」と彼女は言った。「深く掘った。横へ伸ばした。水を抜いた。全部やった。止まった坑は、何をしても鳴らん」

「じゃあ、鳴りは、掘り方の問題じゃないんですね」

「違う」

「中にあるものが、なくなってるんですね」

ドラは、答えなかった。

「ドラさんの知ってる範囲は、どのくらいですか」

「五十年ばかりだな」

「その前は」

「前の鳴り聞きから聞いた」と彼女は言った。「そのまた前からも聞いておる。この街の鳴り聞きは、代々受け継ぐ」

わたしは、老人の顔を思い出していた。

「書いてないんですか」

「書いておる」と彼女は言った。「うちは、書く」

「じゃあ、どこまで遡れますか」

「二百年だ」

わたしは、しばらく息を止めた。

二百年というのは、わたしがそれまでに触ったどの記録より長かった。

北の谷の柱は十九年で、それも半分は聖都へ運ばれた。島の戦功録は四十年で、そのうち三年ぶんは作りものだった。

「それは、どこにありますか」

「鳴り聞きの家にある」

「見せてもらえますか」

「見せんと言ったろう」

「二百年ぶんの記録が、あるんですか」

「ある」

「そのあいだに、止まった坑が、また鳴り出したことは」

ドラは、水時計を持ち直した。

「一度もない」

彼女は、街の下のほうを指した。

「あんた、道から来るときに、塞がった坑を見たろう」

「見ました」

「いくつあった」

「道から見えるところだけで、十九です」

彼女は、そこで少し笑った。笑ったが、目は笑っていなかった。

「数えたか」

「数えました」

「この街には、坑が二百三十六ある」と彼女は言った。「そのうち、いま鳴っておるのが四十一だ」

わたしは、その数を受け取った。

受け取ったというのは、そういう感じだった。

老人から数を受け取っていたときと、同じだった。数は、渡されると入る。入ってしまえば、置く場所を探すしかない。

置く場所を探しているうちに、勝手に並ぶ。並んだものは、消せない。

「あとの百九十五は」

「止まった」

「二百年で、百九十五ですか」

「そうだ」

「じゃあ、いま鳴っている四十一も」

「そのうち止まる」

わたしは、頭の中で並べた。

二百年で百九十五。年に一つに足りない。それだけを見れば、まだ先の話に見える。

けれど、止まる速さは一定ではないはずだった。北の谷の柱も、島の四十年も、まっすぐには落ちていない。落ちるところと、少し戻るところがあって、戻りきらないまま次が落ちる。

「最近は、どうですか」

ドラは、水時計を見ていた。

「わしがこの仕事に入ってから、十四止まった」

「五十年で、十四ですか」

「そうだ」

わたしは、二つの数を並べた。

二百年で百九十五。単純に割れば、一年に一つに近い。

けれど、五十年で十四なら、四年に一つを少し超えるくらいだった。

昔のほうが、速く止まっていた。

そう見えるだけかもしれなかった。昔は坑の数そのものが多かった。多ければ、止まる数も多い。残りが減れば、止まる数も減る。

落ちているように見えて、実は、残りが少ないだけかもしれなかった。

二百年で百九十五なら、五十年あたり四十九になる。実際には、この五十年で十四しか止まっていない。

止まる速さは、落ちていた。

「増えてないんですね」

「増えとらん」

「じゃあ、まだ先ですか」

ドラは、そこで初めて水時計から目を上げた。

「あんた、いま何を数えた」

「止まった坑の数です」

「それは、止まった坑の数だ」と彼女は言った。「鳴っておる坑から、どれだけ出るかは、数えとらんだろう」

わたしは、彼女を見た。

「四十一のうち、まともに出るのは十一だ」と彼女は言った。「残りの三十は、鳴っておるだけで、掘っても出る量が知れておる。だから、坑主は残りの三十を止めん。止めれば、鳴っておる坑が十一しかないことになる」

わたしは、その言葉を二度、頭の中で繰り返した。

止めない理由が、掘れるからではなかった。数を見せるためだった。

止まった坑は、数から外れる。外れれば、鳴っている坑の数が減る。減った数を、外の誰かが見る。

外の誰かというのが誰なのかを、わたしはまだ知らなかった。

ただ、ロヴァニスの帳付けが、買う量の話をほとんどしないで、坑がいくつ鳴っているかを訊きたがった、という話は、聞いたばかりだった。

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