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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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痩せる

鳴り聞き、という職があると、その晩に教わった。

坑の中で、岩盤の鳴りを聞く。鳴りが変わったら、そこで止める。止めなければ落ちる。落ちれば、その坑にいる者は全部死ぬ。

「昔は、鳥を入れとった」とドラは言った。「鳥が死んだら出る。いまは、鳴りだ」

「どう違うんですか」

「鳥は、死んでから分かる」と彼女は言った。「鳴りは、変わってから分かる」

「変わってからでも、間に合うんですか」

「間に合う」と彼女は言った。「岩は、いきなり落ちん。落ちる前に、必ず鳴りが変わる。変わってから落ちるまでに、人が出るだけの間はある」

「必ずですか」

「必ずだ」

彼女は、そこで言い直した。

「必ずということにしてある」

わたしは、その言い直しを覚えた。

彼女は、水時計を指した。

「これで数える」

「数えるって、なにをですか」

「鳴りの強さは、耳では測れん」と彼女は言った。「強いか弱いかは分かる。だが、去年より弱いかどうかは分からん。人の耳は、そんなに細かくない」

「じゃあ、何で聞くんですか」

「腹だ」

彼女は、自分の腹を叩いた。

「耳は、音の高さと大きさを拾う。腹は、来るまでの間を拾う。人の腹は、間に対しては、思っとるより細かい」

「そんなことができるんですか」

「できる者を、鳴り聞きにする」と彼女は言った。「できん者は、いくら習ってもできん。生まれつきだ」

わたしは、灰縁の村の穹堂と、銀の盆のことを考えていた。

生まれつきで分けるやり方は、南にもあった。

「じゃあ、どうやって」

「止めて、数える」

彼女は、坑の口の一つを指した。

「掘る手を止める。全部止める。音を出さんようにして、鳴りだけにする。それから、この水を落とす」

「水を」

「鳴りが弱いと、腹に来るまでに間がある」と彼女は言った。「強いと、すぐ来る。止まってから来るまでを、水の落ちた量で測る。それを毎年やる」

「掘る手を全部止めるって、坑ぜんぶをですか」

「ぜんぶだ」

「その日は、掘れませんね」

「掘れん」と彼女は言った。「だから、坑主は嫌がる。年に一度だけ、半日だけ止める。それでも文句を言う」

「文句を言われても、やるんですね」

「やらんかったら、人が死ぬ」

彼女は、水時計を持ち直した。

「文句を言う者と、死ぬ者が違うのが、この街の厄介なところだ」

わたしは、その方法を頭の中で組み立てた。

「弱くなると、量が増えるんですか」

「増える」

「その量は、書いてありますか」

ドラは、そこで初めて、こちらの顔をまっすぐ見た。

「なぜ、それを訊く」

わたしは、答えなかった。

答えないでいると、彼女は水時計を膝から下ろした。下ろして、両手を膝の上で組んだ。

「書いてある」と彼女は言った。「書かんと、去年と比べられん」

「見せてもらえますか」

「見せん」

「どうしてですか」

「見せた者が、いなくなったからだ」

わたしは、その言葉を聞いた。

「いなくなったって」

「三年前だ」とドラは言った。「同じことを訊いた者がおった。ロヴァニスから来た男だった。石を買いに来て、鳴りの話を聞きたがった。わしは見せた」

「その人は」

「山を下りる途中で落ちた」

彼女は、坑の口の明かりのほうを見ていた。

「落ちる場所じゃなかった。道が広いところだ」

「その人は、何をしに来たんですか」

「石を買いに来たと言っておった」とドラは言った。「ロヴァニスの帳付けだ。買うのに、鳴りの話を訊きたがった」

「なんで、買うのに鳴りを訊くんですか」

「わしにも分からんかった」と彼女は言った。「いまも分からん。ただ、あの男は、坑がいくつ鳴っておるかを知りたがった。買う量の話は、ほとんどせんかった」

わたしは、その話を頭の中に置いた。

わたしは、何も言えなかった。

しばらく、水の落ちる音だけがしていた。

「あんた、なんで訊いた」と彼女が言った。

「数を数えてるからです」

「数えて、どうする」

「分かりません」

「分からんのに数えるのか」

「はい」

彼女は、少し笑った。

「わしもだ」

「なんの数だ」

わたしは、そこで言うかどうかを考えた。

考えて、言った。

「北の谷で、取った量の記録を読みました。十九年ぶんです。減ってました」

ドラは、動かなかった。

「島で、四十年ぶんの記録を受け取りました。持ち帰った量です。それも減ってました」

「島」

「奪う島です」

彼女は、その言葉に何も返さなかった。

返さなかったのは、驚かなかったからではないと思う。

この街には、いろいろな土地から人が来る。石を買いに来る者、掘りに来る者、盗みに来る者。誰がどこから来たかをいちいち騒いでいたら、仕事にならない。

訊かない土地は、灰縁の村だけではなかった。

「二つが同じ形をしてました」とわたしは言った。「二つでは足りないと言われました。三つ揃えば、偶然ではなくなると」

ドラは、水時計を見た。

見て、しばらくそのままでいた。

「痩せとる」と彼女は言った。

「え」

「鳴りだ」と彼女は言った。「わしがこの仕事に入ったころは、水が三つ落ちるうちに来た。いまは、七つ落ちても来ん坑がある」

彼女は、指を三本立てて、それから七本にした。

「同じ坑でだ」

わたしは、その二つの数を並べた。

三つと、七つ。

倍以上になっていた。倍以上になるのに何年かかったかを訊かなければ、意味が出ない。

「何年でですか」

「わしが入ってからだ」

「何年ですか」

ドラは、水時計から目を上げなかった。

「五十年だ」

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