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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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石の道

出たのは、五人だった。

シグリと、船の修繕を仕切っていたベルグという男と、漕ぎ手が二人と、わたし。船は一隻で、灰狼盟のものではなかった。もっと小さい、荷を運ぶための船だった。

長船で行くわけにいかない、とベルグが言った。

「浅い船で港へ入ると、どこの船かがすぐに分かる」

「浅いのが目印なんですか」

「浅くて、細くて、屋根がない」と彼は言った。「三つ揃った船は、うちのしかない」

「じゃあ、屋根をつければいいんじゃないですか」

「つけたら重い」とベルグは言った。「重ければ浅くならん。浅くならんかったら、川を上がれん」

彼は、荷を積みながら続けた。

「どこも同じだ。得意なやり方は、隠せん。隠したら、得意でなくなる」

九つの箱は、船底に並べて、上に麻を掛けた。掛けたうえで、その上に塩の袋を積んだ。塩を積んだ船に見えるようにした。

出る朝、綱をなう場所へ寄った。

小さい男の子は、そこにいた。いつもの場所で、いつものように手を動かしていた。

わたしは、腰に巻いた綱を見せた。まだ巻いていた。ずっと巻いていた。

その子は、こちらを見て、それからまた手を動かした。

行ってくる、という言い方を、わたしはこの島の言葉で知らなかった。覚えたのは数と、盟の呼び方と、遠征の言い方だけだった。読み上げるのに要らない言葉は、覚える機会がなかった。

だから、何も言わないで出た。

船が出てから、岸のほうを見た。

綱をなう場所は、岸から見えない。段の裏にあるからだった。見えないと分かっていて、見た。

あの子は、この島で票を持てない。三度出ないと盟の者になれず、船に乗せてもらえないと三度が始まらない。乗せてもらえないのは体が小さいからで、体が小さいのは食えていないからだった。食えていないのは、票がないからだった。

輪になっていた。

海は、行きよりも静かだった。春だったからだった。

南へ三日走って、陸に沿ってさらに三日。着いたのは、港ではなかった。港からいくらか離れた入り江で、そこに小屋が一つあった。

小屋には人がいた。ベルグが何か話し、銭を渡した。船を預けるための銭だった。

「毎年、ここに預けるんですか」

「毎年ではない」と彼は言った。「石を取った年だけだ」

「何年に一度ですか」

「わしが乗ってから、三度目だ」

わたしは、その数を覚えた。覚える癖が、もう体になっていた。

「三度目というのは、多いんですか」

「多くはない」とベルグは言った。「石を積んだ船は、そう通らん。通る日も決まっておらん。当たるかどうかだ」

「今年は当たったんですね」

「当たった」

彼は、船を預ける小屋のほうを見ていた。

「当たった年は、麦の年より稼ぐ。だが、当たらん年のほうが多い。だから、麦をやめられん」

入り江から、荷を担いで歩いた。

九つの箱は、二人で一つずつ担いだ。漕ぎ手の二人と、ベルグと、シグリ。四人で八つ。残りの一つを、わたしとシグリで交代に持った。持ってみて、重さが分かった。石は重い。小さいのに、重かった。

道に出て、一日歩いたところで、シグリが上着を替えた。

袖の長いものだった。この土地の商人が着るような、地味な色のものだった。彼女はそれを着て、袖を手首まで下ろした。

腕の線が、全部隠れた。

わたしは、その様子を見ていた。

シグリは、こちらを見なかった。着替えて、袖を確かめて、それだけで歩きだした。

「あの」

ベルグが振り向いた。

「あれ、平気なんですか」

「平気ではない」と彼は言った。「うちでは、刻みを隠すのは恥だ」

「じゃあ、なんで」

「隠さんかったら、街へ入れん」

彼は前を向いた。

「入れんかったら、売れん。売れんかったら、島へ持って帰るだけだ」

わたしは、腕の内側に手を当てた。

わたしのは、はじめから隠す場所に彫ってある。だから、隠しても何も変わらない。

隠すために彫った者と、隠す気がないのに隠している者が、同じ道を歩いていた。

わたしは、シグリの背中を見ていた。

北の峡で、ヘルヴィはわたしの腕の内側を選んだ。隠すためだった。隠す刻みを入れるのはこの国では恥で、恥をかくのはわたしではなく彼女のほうだと言った。

シグリは、腕の外側に彫っている。隠す気がなかった彫り方だった。

それを、いま隠していた。

道は、まっすぐ西へ伸びていた。両側に畑があった。

わたしは、その畑を見ていた。刈ったあとではなく、生えかけていた。春だからだった。麦が生えかけている畑を、わたしは久しぶりに見た。

生えかけているものを見るのは、二年半ぶりだった。

そのあいだ、わたしが見ていたのは、刈ったあとか、焼いたあとか、雪の下かのどれかだった。

畑には人がいた。

腰をかがめて、何かをしていた。遠くて何をしているかは分からなかったが、動き方は覚えがあった。うちの街の外でも、春には同じ格好の人が並んでいた。

わたしは、その人たちを見ながら歩いた。

去年の冬、わたしはこういう畑のある村の納屋から、麦を持ち出す船に乗っていた。乗っていただけだと言うこともできる。岸で待っていただけだと言うこともできる。

言えるが、船には積まれた。

畑の向こうに、山があった。

低い山ではなかった。峡の両側の高いところとも、北の谷の斜面とも違った。頂きのあたりが白かった。春なのに白いというのは、あそこには年じゅう雪があるということだった。

「あれですか」

「あれだ」とベルグが言った。「トルヴェクだ」

「あそこで、石を磨くんですか」

「磨く」

「磨くと、どう変わるんですか」

「十倍になる」とベルグは言った。「同じ石で、十倍働く」

「なんで十倍になるんですか」

「知らん」と彼は言った。「知っとるのは、あそこの一つの家だけだ。知ろうとした者は殺される。年に何十人も殺されとるそうだ」

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