三年ぶん
盟約会は、その年、一月で終わった。
去年は二月かけて決まらなかった。今年は半分の日数で決まった。
決まったことを、わたしは通訳を通して聞いた。訳したのは、船の修繕を仕切っている男だった。老人が死んでから、こちらの言葉を話せる者が何人か、代わりに呼ばれるようになっていた。
「三年で、取れるだけ取る」と彼は言った。
わたしは、その言葉を聞いた。
「南のどこかと組む、というのは」
「消えた」
「なんで消えたんですか」
「組んでも、三年しかもたんからだ」と男は言った。「条約が切れれば、組んだ相手も殴られる。殴られる相手と組む値打ちがない」
「じゃあ、三年のあとは」
「そこまでは決めておらん」
「三年のあとのことを、誰も言わなかったんですか」
「言った者はおる」と男は言った。「言ったが、通らん」
「なんでですか」
「三年あとの話をする者に、票がないからだ」と彼は言った。「三年あとのことを心配するのは、三年あとも生きとる者だ。前に座っとる連中は、三年あとに生きとるつもりがない」
わたしは、その言葉を聞いた。
「三十五で石になるからですか」
「そうだ」
わたしは、平らなところのほうを見ていた。
「あの、訊いていいですか」
「訊け」
「わたしが言ったことは、どう受け取られたんですか」
男は、しばらくこちらを見ていた。
「あんたは、減っとると言った」
「言いました」
「四十年で半分になった、と」
「はい」
「それで、みんなが考えたのは、こうだ」と彼は言った。「あと四十年で、また半分になる。半分の半分になれば、盟は保たん。だから、保たんようになる前に、取れるだけ取る」
わたしは、何も言えなかった。
「あんたが言わんかったら、二月かかっておった」と男は言った。「言ったから、一月で決まった」
わたしは、その男の顔を見た。
責めている顔ではなかった。褒めてもいなかった。起きたことを言っているだけの顔だった。
この島では、起きたことは起きたこととして扱われる。誰のせいかという話に、あまりならない。割に合うか合わないかだけがある。
だから、わたしのせいだとは誰も言わなかった。
言われないほうが、こたえた。
その晩、わたしは寝床から出て、岸へ行った。
暗かった。船が並んで繋いであった。順番が決まっていて、票の多い盟の船が、いちばん出やすい場所に繋いである。
わたしは、その並びを見ていた。
減っているのは、本当だった。四十年の数は、老人が四十年かけて集めたものだった。わたしはそれを並べ直しただけで、一つも作っていない。それらしい数を入れたのは、あの人だった。それも、どこに入れたかを言い残していた。
正しかった。
正しかったものを、正しく言った。
そして、この島は、取れるだけ取ることに決めた。
わたしは、北の谷のことを考えていた。
あの谷では、割るときに全員が自分の口で数を言った。言った数が柱に刻まれた。刻まれた数を超えたら、次からは配られない。配られなければ冬は越せない。
同じ数を見て、あそこは減らすほうへ行った。ここは、増やすほうへ行った。
数は、どちらへも行ける。
どちらへ行くかを決めるのは、数ではなかった。
北の谷には、来年があった。来年もそこに住んでいるつもりだから、減らす。
この島には、三年しかなかった。三年しかないと思っている者は、三年で取り切る。
先が長いと思っている者だけが、我慢をする。
わたしが渡したのは、先が短いという知らせだった。
グリムは、どのくらい減ったかを知って腹がふくれるかと訊いた。ふくれません、とわたしは答えた。なら要らん、と彼は言った。要らんが、持っていくのは止めん、とも言った。
止めなくてよかったのかどうかを、わたしはそのとき初めて考えた。
後ろで音がした。
シグリだった。
彼女は、わたしの隣に立った。しばらく何も言わなかった。
それから、こちらの言葉で言った。
「石を、売る」
わたしは、彼女のほうを向いた。
「導石ですか」
「そうだ」
彼女の言葉は、たどたどしかった。老人ほど流暢ではなかった。単語を並べる話し方だった。
「あれは、そのままでは売れん」と彼女は言った。「磨く。磨いて、売る」
「磨くところがあるんですか」
「南だ。トルヴェク」
わたしは、その名を知らなかった。
「行く者が要る」と彼女は言った。「数を、読める者」
わたしは、しばらく黙っていた。
「わたしですか」
「ほかにおらん」
「わたしは、記録者です」
「知っとる」
「島を出たら、盟約会で読み上げられません」
シグリは、そこで初めてこちらを見た。
暗くて、目の中は見えなかった。
「戻ればいい」と彼女は言った。
わたしは、そのとき、この人が何を言っているのかを考えた。
戻ればいい、というのは、戻ってくると思っているということだった。逃げると思っていないということだった。
思われているのが、どういうことなのかを、わたしはうまく整理できなかった。
逃げると思われていないのは、信用されているということかもしれなかった。
そうではないかもしれなかった。
この島の者は、逃げる先のことを考えない。土地の勘定がないからだった。逃げても、どこかの土地の下のほうに置かれるだけで、そこには票がない。
出た者はおる、とシグリは言った。よその土地の者になった、とも言った。
つまり、逃げることは、この人にとって、負けの一種だった。
「いつ出ますか」
「春だ」
彼女は、それだけ言って、岸を歩いていった。
わたしは、船の並びをもう少し見ていた。
腕の内側に手を当てた。二つ。あと二つ。
頭の中には、北の谷の柱が十九本と、この島の四十年が入っていた。
二つが揃っている。
三つ揃えば、偶然ではなくなる、と誰かが言った。その人は、三度出て、二度目で死んだ。




