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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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読み上げる

夏まで、島は静かだった。

わたしは盟の者になった。なったといっても、変わったことは多くなかった。囲いを出て、寝る場所が変わった。塩の当番が回ってきた。そのくらいだった。

背の高い女も、盟の者になった。小さい男の子は、ならなかった。三度目の遠征に、その子は出ていない。船の底で伏せる仕事にも、そのときは選ばれなかった。

選ばれなかったのは、体が小さかったからだった。

小さいまま、その子は綱をない続けていた。

上手くなっていた。

はじめのころ、その子のなった綱は太さが揃わなかった。半年で揃うようになった。一年経つころには、島の誰よりも揃っていた。

揃った綱は、船で使われる。使われるところを、その子は見ていない。船に乗らないからだった。

上手いのに、乗せない。乗せないから、票が入らない。票が入らないから、いつまでも綱をなう。

わたしは、何度もその子のところへ行った。行っても、話すことがなかった。言葉が通じないままだったし、通じたところで言うことがなかった。

一度だけ、その子が綱を差し出した。

なった綱だった。細くて、揃っていた。上手かった。わたしは受け取って、しばらく持っていた。持っていることしかできなかった。

返そうとすると、その子が首を横に振った。

やる、という意味だと分かった。

わたしは受け取った。受け取って、どうしていいか分からなかったので、腰に巻いた。巻いてから、その子を見た。

その子は、また手を動かしはじめていた。

夏になって、盟約会が始まった。

わたしは、平らなところの、いちばん前に座った。

座るまでに、いくつか声が上がった。

上がったのは、後ろのほうからだった。前のほうからは上がらなかった。

前に座っている者にとって、記録者が誰かは大きな問題ではなかった。読み上げられる内容が変わらないなら、読み上げる者は誰でもいい。

後ろに座っている者にとっては、違った。捕虜が前に座るというのは、後ろに座っている自分より前に、捕虜がいるということだった。上がったが、長くは続かなかった。記録者は票を持たない。票を持たない者のことは、票のある者は決めない。老人の言ったとおりだった。

始まりは、わたしの声だった。

前の年の全部を、わたしは言った。

盟の名は言わなかった。座る順で言った。前から何番目の盟が、何度出て、何を持ち帰って、誰が帰らなかったか。

言葉は、この島の言葉で言った。

半年かけて覚えた。数と、盟の呼び方と、遠征の言い方だけでいい。文を作る必要はなかった。読み上げるというのは、そういう仕事だった。

文を作らないというのは、意見を言わないということでもあった。

数と、盟の呼び方と、遠征の言い方。それだけあれば足りる。足りるように作ってある。読み上げる者が余計なことを言えないよう、言葉のほうが最初から短くしてあった。

その仕組みを、わたしは半年かけて覚えながら、ずっと考えていた。

半日かかった。

言い終わったとき、平らなところは静かだった。

わたしは、座らなかった。

そのまま、続けた。

「一つ、足します」

言葉が足りないので、そこからは老人のやり方ができなかった。わたしは、覚えた言葉を組み合わせて、短く言った。

「四十年ぶんの、持ち帰った量です」

そして、いちばん古い年から順に言った。

四十の数を、一つずつ。

言うのに、また長くかかった。途中で、前のほうに座っている者が何人か立ち上がった。立ち上がったが、遮らなかった。遮る言い方が決まっていなかったからだと思う。読み上げている者を遮った例が、この島になかった。

言い終わって、わたしは最後に一つ足した。

「減っています」

その言葉は、覚えていた。

四十年で、いちばん古い年の半分になった、という言い方までは、わたしの言葉ではできなかった。だから、最初の数ともう一度言って、いちばん新しい数を言った。

それで足りた。

数を並べれば、誰でも分かる。数が分かるというのは、そういうことだった。

言葉が要らないのが、数の強いところだった。

言葉が要らないというのは、言葉のできない者にも使えるということで、同時に、言葉で言い足せないということでもあった。

わたしは、減っている、としか言えなかった。

なぜ減っているのかは、言えなかった。言う言葉を持っていなかったし、持っていたとしても、答えを知らなかった。

平らなところは、しばらく静かだった。

それから、声が上がった。

一つではなかった。あちこちで上がった。上がった声のうち、いくつかの音を、わたしは知っていた。

守り、という音があった。

厚い、という音もあった。

わたしは、待っていた。

老人が言っていた。守りが厚くなったからだ、と言われる。そういう年もある。落ちた年に、なぜ落ちたかと訊けば、みんなそう答える。

だから、わたしは次の言葉を用意していた。

前のほうに座っていた男が立って、こちらへ何か言った。わたしには分からなかった。分からなかったが、言っていることは分かった。

守りが厚くなっただけだ、と言っていた。

わたしは、四十年の中から、守りの薄かった年を三つ言った。老人から受け取った並びの中に、それは入っていた。南の国が兵を出さなかった年。冬が厳しくて、南の見張りが屋根の下に入っていた年。

その三つの年の量を言った。

それから、その前の同じような年の量を言った。

同じ条件の年どうしを並べても、後のほうが少なかった。

平らなところが、また静かになった。

わたしは、そこで座った。

座ってから、自分の手を見た。

震えていた。腕の内側の、白いところが目に入った。

そのあと、何が話されたのかは、わたしには分からなかった。

言葉が分からなかったからではない。分かる言葉が、いくつも出てきた。取る、という音が出た。三年、という音も出た。

その二つが、何度も一緒に出てきた。


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