百二十
教会の買い付けが村に来る日は決まっていた。灰の値を決め、袋を数え、代金を置いて帰る。それだけの用向きなのに、来るのは商人ではなく司祭で、荷馬車のほかに武装した男がついてきた。誰の土地でもない村へ、誰の許しも要らないはずの取引をしに来るのに、なぜ護衛が要るのかと最初は思った。次に見たとき、その男たちが数えているのが袋ではなく人であることに気がついた。
数え方には決まりがあるらしかった。井戸端に立った男が村の家を順に指して、そのたびに口の中で何か言う。彼は戸の開いている家の前で少し長く止まり、閉まっている家の前でも同じだけ止まった。見えている者を数えているのではなかった。
その日、わたしは櫓の裏で袋の口を縫っていた。子供は表に出るなと言われていたので、言われたとおりにしていた。
司祭は若くなかった。灰の値を渋り、渋ったあとで少しだけ上げて、それを紙に書きつけた。書きながら、世間話のような調子で村の男に話しかけていた。声のよく通る人だった。だから、櫓の裏まで全部聞こえた。
「灰の出が落ちているな」と司祭は言った。「去年の同じ月より袋が軽い」
「掘る場所が遠くなりました」
「縁は動かんだろう」
「縁は動きます」と村の男は言った。「毎年、少しずつ内へ寄ります。掘ったところは崩れて、崩れたところからはもう出ません」
司祭は書く手を止めなかった。
「痩せるものだな、何でも」
それから彼は紙を裏返して、別のことを書きはじめた。
「東で盗人が増えている」と司祭は言った。「行き場のない者が街道へ出るのだ。今年は特に多い」
村の男は返事をしなかった。
「儀のあとに逃げる子供もいる」と司祭は続けた。「哀れなことだ。あれは連れて行かれるのではなく、選ばれるのだということが、まだ分かる年ではない」
袋の口を縫う手が止まった。
「今年の認可は百二十だ」と司祭は言った。「例年どおりだよ。百二十というのは決して少ない数ではない。十二の門の第七に定められた数だ。節制の門は、いつの世も同じ数を守ってこられた」
そのあと彼は代金を置き、いくつか祝福の言葉を述べて帰っていった。
彼らが去ったあと、村の男たちは袋を数え直した。司祭が数えていった数と合っているかを、自分たちでもう一度数える。合わなかったことは一度もないのに、毎回そうする。数えられた側は、数え返さずにいられないものらしかった。
わたしはその夜、寝床で数を数えた。
わたしの街の穹堂で連れて行かれたのは、わたしのほかにもいた。市が稀にしか立たないような、城壁もない小さな街でそれだけいた。父が反物を売りに行った街の名を、わたしは指で数えきれない。
百二十。
その数を口の中で転がしていると、穹堂の列が見えた。石段に並んだ子供の背丈がどれも似ていたこと。前のほうで上がった声。白だと言った女の顔。あの列にいた子のうち、盆が光ったのが何人だったのかを、わたしは見ていない。自分の番のことしか見ていなかった。
けれど、あの街に穹堂は一つしかなかった。一つの穹堂に、あれだけの子が並んだ。
それから、別のことに気がついた。
司祭は、定められた数だと言った。定められているということは、その年に何人生まれたかとは関わりがないということだった。多く出た年も、少なく出た年も百二十。豊作の年も凶作の年も、戦のあった年もなかった年も、百二十。
盆に手を入れて水が光った子の数と、百二十とのあいだにある差は、毎年どこかへ行っている。行き先の名前だけを、わたしは知っていた。あの馬車の中で、誰も答えなかった名前だ。
眠れないまま、隣で寝ているトゥーの息の音を聞いていた。彼はよく眠る子だった。この村で生まれた子は夜中に起きない。トゥーはよそから来た子なのに、よく眠った。眠り方まで身につけたのかもしれなかった。
翌朝、篩の櫓の下でメレを捕まえて、わたしは訊いた。訊いてはいけない決まりのことは、その朝だけ忘れていた。
「白と出た子は、家に帰されるよね」
メレは籠を下ろす手を止めなかった。
「帰される」
「じゃあ、白と出たあとで、あとから出た子は」
彼女の手が止まった。
「あとから、というのは」
「発現は十からだって、司祭様が言ってた。じゃあ、十のときに白でも、そのあとで出る子がいるはずでしょう。そういう子はどうなるの」
村の朝の音がそのあいだも続いていた。誰かが櫓の上で篩を揺すり、遠くで牛が鳴き、いつもの順番で誰かが咳をした。
メレは籠を地面に置き、わたしのほうへ体を向けた。それから腰を落として、わたしと同じ高さで目を合わせた。この人がそんなことをするのを、わたしは見たことがなかった。
「あんた、それを誰かに訊いたか」
「訊いてない」
「訊くな。誰にも訊くな。二度と」
「どうして」
メレは、灰で白くなった手でわたしの手を取った。指の先が石のようになった、あの手だった。
「わたしは白と出た」と彼女は言った。「十のとき、あの盆に手を入れて、何も光らなかった。母親が泣いて喜んだのを覚えている」
風のない村の空気は、動かないままそこにあった。
「十四で出た」
わたしは何か言おうとした。言葉が出る前に、メレが手を上げた。あの、言うなという手つきだった。
「その顔をするんじゃない」と彼女は言った。「憐れむな。憐れむ相手を間違えると、あんたが死ぬ」
彼女は立ち上がって、籠を持ち上げた。
「わたしは運がよかったほうだ。運が悪かった者の話は、この村の誰も知らない。知らないというのは、そういうことだよ」




