↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/96

受ける

盟約会が終わるまで、老人は何も言わなかった。

二月かかった。そのあいだ、わたしは荷の脇に座って、分からない言葉を聞いていた。

座る場所は、日によって変えた。同じところに毎日座っていると、そこに座っている者として覚えられる。覚えられると、いないときに気づかれる。聞いているうちに、いくつかの音は覚えた。盟の名と、行き先の名と、それから何度も出てくる短い言葉が二つあった。

一つは、取る、という意味だと分かった。

もう一つは、三年、だった。

三年、という音は、二月のあいだにだんだん増えていった。

はじめの十日ほどは、ほとんど出てこなかった。半ばを過ぎたころから増えて、終わりのころには、誰が立っても一度は出るようになった。

何を話しているのかは分からない。ただ、話が同じところへ集まっていくのは、音の数だけで分かった。

終わった日の夕方、老人は平らなところの端まで杖をついてきて、わたしの隣に座った。座るのに時間がかかった。脚を投げ出すまでに、二度息を継いだ。

「決まったんですか」

「まだだ」

「二月やって、決まらないんですか」

「決まらんかった年は、次の年に持ち越す」と彼は言った。「持ち越すのは珍しい。今年は珍しい年だった」

彼は杖を膝の上に置いた。

「話が別だ。あんたに言うことがある」

「はい」

「受けるか、受けんかを、いま決めろ」

わたしは、彼の顔を見た。

「受けたら、どうなるんですか」

「わしが死ぬまでに、全部渡す」と彼は言った。「四十年ぶんだ。渡したら、あんたが読み上げる」

「読み上げるって、誰が決めるんですか」

「わしが決める」

「盟約会は」

「口を出さん」と老人は言った。「記録者は票を持たん。票を持たん者のことは、票のある者は決めん。決める値打ちがないと思っておる」

「値打ちがないんですか」

「席が一つ減っても、誰も困らん」と老人は言った。「困らんものは、誰も欲しがらん。欲しがらんから、取り合いにならん」

「じゃあ、誰でもなれるんですか」

「なれん」と彼は言った。「誰も欲しがらんのと、誰でもできるのは、別だ」

わたしは、それを頭の中で並べ直した。

票を持たない者だから、誰も口を出さない。誰も口を出さないから、その席は誰にも取り上げられない。取り上げられない席から、その年にあったこと全部が出てくる。

「なんで、わたしなんですか」

「ほかにおらん」

「島の人でいいじゃないですか」

「島の者は、出る」と彼は言った。「出れば票が入る。票が入る者は、票のないところへ座りたがらん。それに、出続ける者は、たいてい先に死ぬ」

「じゃあ、出られない人に」

「出られん者は、体のどこかが動かん」と老人は言った。「わしみたいにな。動かん体で四十年やるのは、思っておるより難しい。あんたは動く」

わたしは、自分の腕の内側に手を当てた。

「わたしは、捕虜です」

「そうだ」

「捕虜が読み上げるのは、いいんですか」

「よくない」と老人は言った。「だから、三度目を出ろ。出て帰れば、盟の者になる。盟の者なら、誰も文句を言わん」

彼は、平らなところのほうを見ていた。人がほとんどいなくなっていた。

「一つ、条件がある」

「なんですか」

「書くな」

わたしは、彼のほうを向いた。

「あんたは書ける」と彼は言った。「書けば楽だ。四十年ぶんを覚えるより、書くほうが早い。書けば、落ちん」

「じゃあ、なんで」

「書いたものは、取られる」

彼は杖の先で地面を叩いた。

「取られる、なくす、燃える、濡れる。どれか一つが起きたら、それで終わりだ。書いたものは、置いた場所から動かん。動かんものは、いつか誰かに見つかる」

「なくさない場所に置いたら、どうですか」

「そんな場所はない」と老人は言った。「なくさん場所に置いたものは、なくさん場所ごと取られる。厚い壁を作れば、厚い壁ごと目録に載る」

わたしは、彼が何を知っているのかと思った。この人は北の谷を見たことがない。

わたしは、記録小屋のことを考えていた。

厚い戸に閂をかけて、壊されないように建てて、それでも半分持っていかれた。あの小屋は動けなかった。動けないから、目録に載って、番号を振られて、古いところだけ運び出された。

グリムは言った。あんたが覚えて出ていけば、外に残る。この土地にあるあいだは、いつでも潰せる。あんたの頭の中にあるものは、潰しに来るのにあんたを見つけないといかん。

「同じことを言った人が、北にいました」

「そうか」

「その人も、そう言いました」

老人は、そのことについて何も言わなかった。

「同じことを、別のところの人が言うのは、なんでですか」

「同じ目に遭ったからだろう」と彼は言った。「同じ目に遭った者は、同じことを考える。考えついたことが同じでも、教え合ったわけではない」

彼は杖を持ち直した。

「うちの島も、北の谷も、南の坊主どもも、みんな数を数えとる。誰も教え合っておらん。それでも、みんな数えとるだろう」

「受けます」とわたしは言った。

「そうか」

彼は、うなずきもしなかった。ただ、杖を持ち直して、立ち上がろうとした。

立ち上がるのに、また時間がかかった。

「あの」

「なんだ」

「四十年ぶん渡すのに、どのくらいかかりますか」

「三日だ」

「三日で渡せるんですか」

「渡せる」と彼は言った。「受け取れるかどうかは、別の話だ」

「受け取れなかった人は、いるんですか」

「おった」

「どうなったんですか」

「そこで切れた」と老人は言った。「切れた先のことは、誰も知らん。知らんから、なかったことになる」

彼は、平らなところのほうへ杖をついていった。

「四十年ぶんが切れたことが、この島には何度かある。何度あったかは、わしも知らん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。