↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/96

二票

盟約会は、夏に始まった。

島のいちばん平らなところに、人が集まった。屋根はない。天幕もない。この島の者は建てない。船が神殿だと言う者もいると、老人が言った。言う者もいる、というだけで、決まった言い方ではないらしかった。

集まったのは、思っていたより多かった。

四百を超える盟がある。全部の盟から代表が来るわけではないが、それでも平らなところは埋まった。

座る場所が決まっていた。前のほうに票の多い者が座り、後ろへ行くほど少なくなる。いちばん後ろは立っていた。立っている者は喋れない。

わたしは、外にいた。

外というのは、座る場所の外側だった。捕虜は入れない。入れないが、追い出されもしない。荷の脇に座って、聞いていた。

老人は、中にいた。

彼は票を持っていない。持っていないのに、いちばん前にいた。記録者だからだった。

始まりは、彼の声だった。

前の年の全部を、彼は言った。どの盟が何度出て、何を持ち帰って、誰が帰らなかったか。長かった。半日かかった。半日のあいだ、誰も口を挟まなかった。

聞いていて、わたしは自分の名が出ないことに、途中で気がついた。

出るはずがなかった。捕虜は数に入らない。

北五峡の名も出なかった。

出たのは、二度目の遠征に出た盟の名と、出て帰った者の数と、持ち帰った量だった。どこへ行ったかは言われたが、そこに誰が住んでいたかは言われなかった。

言う必要がないからだった。戦功録は、こちらが何をしたかの記録で、向こうに何が起きたかの記録ではない。

記録というのは、そういうふうにできていた。

言い終わると、彼は座った。

そのあとが、話し合いだった。

言葉が分からないので、何を話しているのかは分からなかった。ただ、声の調子と、立ち上がる者の位置で、いくつかのことは分かった。

前のほうの者が立つと、静かになった。後ろのほうの者が立つと、途中で誰かが遮った。遮られた者は座った。

同じ言葉が、何度も出てきた。

わたしは、その音を覚えた。

夕方に、老人が出てきた。

「なにを話してたんですか」

「南の条約だ」

「三年後に切れるやつですか」

「そうだ」

彼は荷に寄りかかって、脚を投げ出した。

「切れたあと、どうするかを話しておった」

「どういう意見が出たんですか」

「二つだ」と老人は言った。「一つは、切れる前に南のどこかと組んでおけ、というやつだ。組めば、殴られる側から外れる」

「もう一つは」

「切れるまでに、取れるだけ取っておけ」

あと三年しかないなら、三年ぶん取る、という言い方だった。

わたしは、その言葉を聞いた。

「三年で、どのくらい取れるんですか」

「取れる量は決まっておる」と彼は言った。「南の畑は毎年同じだけできる。三年ぶんは三年ぶんだ」

「じゃあ、意味がないんじゃないですか」

「意味はある」と老人は言った。「三年ぶんを三年で取るのと、三年ぶんを一年で取るのは違う。一年で取れば、あとの二年、向こうは立ち直っておらん」

わたしは、黙った。

「どっちが多かったんですか」

「まだ決まっておらん」と彼は言った。「二月かかる」

日が落ちて、平らなところの人が減りはじめた。

老人は動かなかった。動けないからでもあった。

わたしは、訊いた。ずっと訊こうと思っていたことだった。

「三度出て帰ってきたら、盟に入れるんですよね」

「入れる」

「入ったら、票を持てるんですよね」

老人は、こちらを見なかった。

「持てん」

わたしは、彼のほうを向いた。

「持てないんですか」

「盟の者になる。それだけだ」と彼は言った。「票は、出て帰った回数で入る。捕虜のあいだの三度は数に入らん。入ってから出て、帰ってきて、そこで初めて二つ入る」

「あの人も、そうだったんですね」

毛皮を貸してくれた男のことだった。刻印が一つしかない男。三度死にかけて、それが一度も刻まれていない腕。

「そうだ」

わたしは、しばらく何も言えなかった。

「三度のあとで、また出るんですか」

「出る」

「何度」

「喋れるようになるまでだ」と老人は言った。「前のほうに座るには、票が要る。票を積むには、出続ける。積んでおるあいだに、刻印が増える。刻印が増えれば、体が減る」

「減りきったら」

「喋れるようになったころには、たいてい死んでおる」

彼は、平らなところのほうを見ていた。人がまばらになって、前のほうに座っていた者たちだけが残っていた。

「だから、あそこには年寄りがおらん」

わたしは、自分の腕の内側に手を当てた。二つ。あと二つ。

出続ければ、二つでは足りない。三つ目を刻む日が来る。四つ目も来る。四つ刻めば、そこで止まる。止まったあとも、出続けなければ票は積めない。

積み終わる前に、体が終わる。

そういう仕組みになっていた。

「じゃあ、票を持つのは、無理ですね」

「無理だな」

わたしは、平らなところの、いちばん前のあたりを見ていた。老人が半日かけて喋った場所だった。

「あの、訊いていいですか」

「訊け」

「記録者には、票があるんですか」

「ない」

「じゃあ、なんで前にいるんですか」

老人は、そこで初めてこちらを向いた。

「喋るんじゃない」と彼は言った。「読み上げるんだ」

わたしは、彼の顔を見た。

「読み上げる者は、票が要らん」と彼は言った。「要らんが、読み上げたものが、その年にあったこと全部になる」

風が、平らなところを渡っていった。

「わしは四十年やった」と老人は言った。「落ちたところには、それらしい数を入れた。わしが入れた数は、わしが入れたと分かっておる。わしが死ねば、それも分からんようになる」

彼は杖を持ち直した。

「あんた、読めるんだったな」

「読めます」

「書けるか」

「少しなら」

老人は、平らなところのほうへ顎をしゃくった。

「次を決めておかんと、三日喋りっぱなしで死ぬことになる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。