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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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柱

グリムは、痩せていた。

去年より、明らかに痩せていた。頭のかたちがそのまま見えていたのは去年と同じで、その下の首が細くなっていた。杖の握り方が、去年は掴んでいたのに、今年は寄りかかっていた。

彼は一人ではなかった。後ろに、四人か五人いた。全部、年寄りだった。

去年、この谷には九人の子供がいた。五人はここで生まれた子で、四人はよそから来た子だった。

その九人が、一人もいなかった。

盟の者が動いた。動いたが、武器は抜かなかった。走れない者を相手に武器を抜くのは、この島の者のやり方ではなかった。割に合わないからだった。

グリムは、掘り返された袋のところまで歩いてきた。

見た。

それから、わたしを見た。

わたしは、何か言おうとした。

「戻ってきたのか」と彼が言った。

去年と同じ声だった。訛りも同じだった。

「はい」

「そっちで戻ってくるとは思わんかった」

盟の者が、わたしとグリムを交互に見ていた。話が通じているのが分かったからだった。誰かが何か言った。わたしには分からなかった。

「あんたが教えたのか」とグリムが言った。

「はい」

「どうしてだ」

わたしは、記録小屋のほうを見た。

「木を伐ろうとしてました」

「木を」

「幹を叩いて、音を聞いてました。中に何か入れてあるかどうかを見るんです。そのあとで斧を持ってきました」

「それで」

「木を伐りはじめたら、そのうち小屋も壊します」とわたしは言った。「探すものが見つかるまでは、壊し続けるからです。だから、先に見つけさせました」

グリムは、掘り返された穴を見ていた。

「早いな」と彼は言った。

「え」

「見つけるのが早い、と言っとるんだ」と彼は言った。「毎年、あいつらは半日かけて探す。探して、見つからんこともある。見つからんかった年は、うちは冬を越せた」

わたしは、何も言えなかった。

「今年は、四半刻もかからんかったな」

グリムは、しばらく黙っていた。

「小屋を残したのか」

「はい」

「あそこには、もう半分しかない」

「知ってます。読みました」

「読んだか」

「聖都へ持っていったって、書いてありました」

グリムは、掘り返された穴のほうを見た。土が盛り上がって、袋の口が全部開いていた。

「あれが、この谷の冬だ」と彼は言った。

「はい」

「あんたが教えた」

「はい」

彼は、それについて、しばらく何も言わなかった。

後ろにいた年寄りの一人が、何か言った。この土地の言葉だった。グリムは答えなかった。

「木の実は、去年より落ちが悪かった」とグリムは言った。「魚も少なかった。だから、分け方を落とした。落として、まだ足りんかった。若い者は南へ出た。籍を作った者から順に出ていった。残っとるのは、出られん者だけだ」

「あの九人は」

「五人は出た」とグリムは言った。「残りの四人は、来たときと同じように、いつのまにかおらんようになった」

「トゥーは」

言ってから、それが違う土地の子の名だと気づいた。灰縁の村にいた子だった。この谷には、あの名の子はいない。

グリムは、その名を知らなかった。知らないまま、こちらの顔を見ていた。

「名前を訊かん土地では、おらんようになった者の話ができん」と彼は言った。「話ができんから、探しにも行けん」

わたしは、木の下に人がいなかった理由を、そこで知った。

「あの袋で、何人が越すはずだったんですか」

「訊くな」

「訊きます」

グリムは、初めてこちらを睨んだ。

「訊いてどうする」

「数えるからです」

彼は杖を持ち直した。

「あんたは、この谷の冬を持っていって、柱を残した」と彼は言った。

「はい」

「柱は食えん」

わたしは、その言葉を聞いた。

聞いて、それが自分の言葉で返ってきたのだと分かった。城は食えない、と老人は言った。だから城を落とさないで、外の村を焼く。この谷の者は、その理屈で毎年焼かれている。

「食えません」とわたしは言った。

「分かっとるなら、なぜだ」

「柱は、あと何年で足りなくなるかを教えてくれます」

「教えてもらって、どうする」

「分かりません」

グリムは、わたしを見ていた。

「分からんのか」

「分かりません」とわたしは言った。「でも、なくなったら、分からないまま減っていくだけになります」

「減っていくのは、もう分かっとる」とグリムは言った。「柱がなくても分かる。腹が減れば分かるからな」

「どのくらい減ったかは、分かりません」

「どのくらい減ったかを知って、腹がふくれるか」

「ふくれません」

「なら、要らん」

わたしは、返す言葉を探した。

探しているあいだに、彼が続けた。

「要らんが、あんたが持っていくのは止めん」

「え」

「持っていくのはただだ」と彼は言った。「ただのものを止める理由がない」

彼は、そこで初めて目を逸らした。

盟の者が袋を担ぎ上げはじめていた。斜面を下りて、船まで運ぶ。運びきるまでに、日が暮れる。

グリムは、その様子を見ていた。

「持っていけ」と彼は言った。

わたしは、彼を見た。

「あんたに言っとるんじゃない」と彼は言った。「あいつらに言っとる。訳せんだろうがな」

彼は杖をついて、木のほうへ戻りかけた。

戻りかけて、止まった。

「あんた、覚えとるか」

「なにをですか」

「柱だ」

わたしは、答えるまでに間を置かなかった。

「奥から手前へ、十九本。全部覚えてます」

グリムは、背を向けたまま、しばらく動かなかった。

「そうか」

それだけだった。

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