柱
グリムは、痩せていた。
去年より、明らかに痩せていた。頭のかたちがそのまま見えていたのは去年と同じで、その下の首が細くなっていた。杖の握り方が、去年は掴んでいたのに、今年は寄りかかっていた。
彼は一人ではなかった。後ろに、四人か五人いた。全部、年寄りだった。
去年、この谷には九人の子供がいた。五人はここで生まれた子で、四人はよそから来た子だった。
その九人が、一人もいなかった。
盟の者が動いた。動いたが、武器は抜かなかった。走れない者を相手に武器を抜くのは、この島の者のやり方ではなかった。割に合わないからだった。
グリムは、掘り返された袋のところまで歩いてきた。
見た。
それから、わたしを見た。
わたしは、何か言おうとした。
「戻ってきたのか」と彼が言った。
去年と同じ声だった。訛りも同じだった。
「はい」
「そっちで戻ってくるとは思わんかった」
盟の者が、わたしとグリムを交互に見ていた。話が通じているのが分かったからだった。誰かが何か言った。わたしには分からなかった。
「あんたが教えたのか」とグリムが言った。
「はい」
「どうしてだ」
わたしは、記録小屋のほうを見た。
「木を伐ろうとしてました」
「木を」
「幹を叩いて、音を聞いてました。中に何か入れてあるかどうかを見るんです。そのあとで斧を持ってきました」
「それで」
「木を伐りはじめたら、そのうち小屋も壊します」とわたしは言った。「探すものが見つかるまでは、壊し続けるからです。だから、先に見つけさせました」
グリムは、掘り返された穴を見ていた。
「早いな」と彼は言った。
「え」
「見つけるのが早い、と言っとるんだ」と彼は言った。「毎年、あいつらは半日かけて探す。探して、見つからんこともある。見つからんかった年は、うちは冬を越せた」
わたしは、何も言えなかった。
「今年は、四半刻もかからんかったな」
グリムは、しばらく黙っていた。
「小屋を残したのか」
「はい」
「あそこには、もう半分しかない」
「知ってます。読みました」
「読んだか」
「聖都へ持っていったって、書いてありました」
グリムは、掘り返された穴のほうを見た。土が盛り上がって、袋の口が全部開いていた。
「あれが、この谷の冬だ」と彼は言った。
「はい」
「あんたが教えた」
「はい」
彼は、それについて、しばらく何も言わなかった。
後ろにいた年寄りの一人が、何か言った。この土地の言葉だった。グリムは答えなかった。
「木の実は、去年より落ちが悪かった」とグリムは言った。「魚も少なかった。だから、分け方を落とした。落として、まだ足りんかった。若い者は南へ出た。籍を作った者から順に出ていった。残っとるのは、出られん者だけだ」
「あの九人は」
「五人は出た」とグリムは言った。「残りの四人は、来たときと同じように、いつのまにかおらんようになった」
「トゥーは」
言ってから、それが違う土地の子の名だと気づいた。灰縁の村にいた子だった。この谷には、あの名の子はいない。
グリムは、その名を知らなかった。知らないまま、こちらの顔を見ていた。
「名前を訊かん土地では、おらんようになった者の話ができん」と彼は言った。「話ができんから、探しにも行けん」
わたしは、木の下に人がいなかった理由を、そこで知った。
「あの袋で、何人が越すはずだったんですか」
「訊くな」
「訊きます」
グリムは、初めてこちらを睨んだ。
「訊いてどうする」
「数えるからです」
彼は杖を持ち直した。
「あんたは、この谷の冬を持っていって、柱を残した」と彼は言った。
「はい」
「柱は食えん」
わたしは、その言葉を聞いた。
聞いて、それが自分の言葉で返ってきたのだと分かった。城は食えない、と老人は言った。だから城を落とさないで、外の村を焼く。この谷の者は、その理屈で毎年焼かれている。
「食えません」とわたしは言った。
「分かっとるなら、なぜだ」
「柱は、あと何年で足りなくなるかを教えてくれます」
「教えてもらって、どうする」
「分かりません」
グリムは、わたしを見ていた。
「分からんのか」
「分かりません」とわたしは言った。「でも、なくなったら、分からないまま減っていくだけになります」
「減っていくのは、もう分かっとる」とグリムは言った。「柱がなくても分かる。腹が減れば分かるからな」
「どのくらい減ったかは、分かりません」
「どのくらい減ったかを知って、腹がふくれるか」
「ふくれません」
「なら、要らん」
わたしは、返す言葉を探した。
探しているあいだに、彼が続けた。
「要らんが、あんたが持っていくのは止めん」
「え」
「持っていくのはただだ」と彼は言った。「ただのものを止める理由がない」
彼は、そこで初めて目を逸らした。
盟の者が袋を担ぎ上げはじめていた。斜面を下りて、船まで運ぶ。運びきるまでに、日が暮れる。
グリムは、その様子を見ていた。
「持っていけ」と彼は言った。
わたしは、彼を見た。
「あんたに言っとるんじゃない」と彼は言った。「あいつらに言っとる。訳せんだろうがな」
彼は杖をついて、木のほうへ戻りかけた。
戻りかけて、止まった。
「あんた、覚えとるか」
「なにをですか」
「柱だ」
わたしは、答えるまでに間を置かなかった。
「奥から手前へ、十九本。全部覚えてます」
グリムは、背を向けたまま、しばらく動かなかった。
「そうか」
それだけだった。




