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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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教える

戸には閂がかかっていなかった。

閂は内側にある。内側にあるものは、中に人がいなければかけられない。誰もかけないまま、この戸は一年閉まっていた。

わたしは開けた。

中は、去年と同じ匂いがした。木の匂いだけだった。

匂いだけが同じだった。

去年、わたしはこの中で一晩かけて柱を読んだ。明かりを持ち込めないので、外の雪明かりを戸から入れて、あとは指で読んだ。刻みの底に指を入れて、端まで撫でて、途切れたところで数を一つ足す。

そのときの指の感覚を、わたしはまだ覚えていた。

そして、半分になっていた。

柱は、手前のほうだけ残っていた。奥の、木の色が黒くなっていたもの。刻みの底が指でなめらかになっていたもの。あれが全部なかった。

抜いた跡が、床に残っていた。柱を抜いたら屋根が落ちるはずなのに、落ちていない。落ちないように、抜いたところへ新しい柱が入れてあった。

刻みのない、白い柱だった。

新しい木だった。切ったばかりの色をしていた。

この谷の者が入れたのではないと、そのとき思った。この谷の者なら、伐ったところに種を埋める。埋めてから使う。急いで柱を入れ替える余裕は、去年のこの谷になかったはずだった。

入れたのは、持っていった側だった。持っていくときに屋根が落ちないよう、先に代わりを立ててから抜いた。

丁寧な仕事だった。運び出した者は、この建物を壊すつもりがなかった。壊さないで、中身だけ持っていった。祭具として登録して、古いところだけを聖都へ移した。

残っているのは、手前の柱だけだった。

減り方の、最後のところだけが残っていた。増えた年も、落ちた年も、戻りきらなかった年も、そこには入っていない。手前の柱だけを見れば、この谷はずっとこのくらいの量を取っていたように見える。

増えも減りもしていないように見える。

減っているのを知っているのは、奥の柱を見た者だけだった。奥の柱は聖都にある。聖都でそれを見る者は、それが何かを知らない。祭具として棚に置かれる。

棚に置かれた柱を読む者は、たぶんいない。読めば、この谷が何年でどれだけ減ったかが分かる。分かる者が、それを読まない場所へ運ばれた。

わざとやったのではなかった。古いほうが祭具らしく見えたからだった。

わざとでないほうが、たちが悪かった。

わたしは、残った柱に手を当てた。

外で声がした。

盟の者が、掘ってあるところの入り口の板を外していた。中を覗いて、それから何か言った。

わたしは戸口へ出た。

彼らは、次に木のほうへ行った。太い木の幹を叩いて、音を聞いていた。それから斧を持ってきた。

わたしは走った。

走って、斧を持っている男の前に立った。

男は、こちらを見た。わたしを押しのけようとして、押しのける手を止めた。捕虜を殴らないという決まりがあるわけではない。ただ、面倒だからだった。

わたしは、木を指して、首を横に振った。

それから、自分の腹を叩いて、地面を指した。

食い物は下にある、という意味に見えるかどうか、自信はなかった。

男は、しばらくわたしを見ていた。それから、後ろの誰かに何か言った。誰かが短く返した。返された言葉に、笑いが混じっていた。

笑われても構わなかった。斧が下りていないことのほうが大事だった。

わたしは、掘ってあるところの、少し離れた斜面を指した。

男は分からないという顔をした。

わたしは、その斜面のほうへ歩いて、途中で振り返った。ついてこいという意味の身振りを、この島で何度も見ていた。同じことをした。

男は、ついてきた。

斜面の、木の根が張り出しているところに、平たい石が置いてあった。去年の秋に、わたしはそこを覚えていた。冬に入る前の集まりのあと、若い者が何人かでそこを掘っていた。

冬の蓄えは、掘ってあるところとは別に置く。掘ってあるところは人が寝る場所で、人が寝る場所に全部を置くと、火が出たときに全部なくなる。

だから分けて埋める。

去年の秋、集まりのあとに若い者が数人でここを掘っていた。わたしは離れたところから見ていただけで、手伝わなかった。手伝わせてもらえなかった。あのときのわたしは、勘定に入っていなかった。

勘定に入っていない者が、その場所を覚えていた。

入れてもらえなかったから、見ていた。見ていたから、覚えた。

わたしは石をどけた。

土は柔らかかった。柔らかいというのは、一度掘って埋め戻したところだということだった。掘り返す道具は要らなかった。手で払うと、麻の袋の口が出てきた。

男が、後ろで何か言った。

ほかの者が集まってきた。

袋は、いくつも埋まっていた。乾した木の実と、燻した肉と、それから穀物が少し。この谷で穀物というのは、南から買ったものだった。買える量は多くない。

盟の者が、それを掘り出しはじめた。

斧は、そのまま木のところに置かれていた。誰も木を伐らなかった。伐る必要がなくなったからだった。

わたしは、記録小屋のほうを見ていた。

戸が開いたままになっていた。中は暗くて、手前の柱の列が、光の入るところにだけ見えていた。

袋が全部掘り出されるまで、わたしはそこに立っていた。

数えていた。

袋の数と、大きさと、担ぐ者が何人で何度往復したか。老人のやり方だった。人と回数なら、数より少ない。少ないものを覚えて、あとから掛ける。

数えながら、それをどこへ書くつもりなのかは考えていなかった。

書く場所がないのに、数えていた。手が勝手に動くのと同じだった。

それから、後ろで音がした。

木のあいだから、人が出てきた。

杖をついていた。

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