春の島
島の土は、薄かった。
薄いというのは、掘ると石が出るということだった。畑と呼ばれているところで、わたしは何度か手伝わされた。鋤を入れると、腕の長さの半分も行かないうちに何かに当たる。当たったところを避けて、また入れる。避けながら耕すので、畝がまっすぐにならない。
島の者は、それを当たり前のこととして耕していた。まっすぐでない畝をまっすぐにしようとする者はいなかった。
わたしの生まれた土地では、畝はまっすぐだった。父が売りに行く途中の畑を、荷車の上から見たことがある。地平の際まで、線が揃っていた。
揃っているのは、石が出ないからだった。それだけの違いだった。
その畑が、島じゅうを合わせても、人の五分の一しか食わせられないのだと老人が言った。
「残りは」
「奪う。買う。傭う」
同じ答えを、わたしは船の上でも聞いていた。船の上で聞いたときは、それが説明に聞こえた。畑に立って聞くと、説明ではなかった。目の前の石だらけの土が、そう言っていた。
冬が明けてから、わたしたちは岸の囲いを出された。
出されて、それぞれに別の仕事がついた。背の高い女は塩に回された。魚を開いて、塩を振って、並べる。手が荒れる仕事で、彼女の手は十日で割れた。割れても代わりはいなかった。
代わりがいないというのは、休めないということだった。彼女は割れた手のまま塩を扱った。塩が傷に入るとどうなるかは、見ていれば分かった。
夜、囲いの中で、彼女は自分の手を毛皮の下に入れていた。見せないためだった。見せて、動かせないと思われたら、次の遠征で先に下ろされる。
一度も喋らない人だった。喋らないまま、そういうことを全部計算していた。
小さい男の子は、綱をなう場所へやられた。座ってできる仕事だからだった。
わたしは、船の修繕へ回された。
理由は、指が細いからだった。板と板のあいだへ詰め物を押し込む作業に、細い指が要る。灰縁の村で篩の目を直していたのと、ほとんど同じ理由だった。どこへ行っても、わたしは同じ理由で使われた。
船の底を見て、初めて分かったことがあった。
浅いのは、そう作ってあるからではなかった。作れる木がないからだった。
島には、長い木がなかった。船の骨に使える太くて長い材が採れない。だから短い材を継いで、継いだところを薄くして、全体を低く浅くする。そうしないと重くて保たない。
「木は、どこから来るんですか」
「北からだ」
「買うんですか」
「買う」と、修繕を仕切っている男が言った。この男もこちらの言葉を話した。買い付けに出る者は言葉を覚えるらしかった。「北の峡から買う。買った木で船を作って、その船で北の峡を襲う」
彼はそれを、面白い話をするように言った。
「向こうは売るんですか」
「売る。銭になるからな」
「襲われるのに」
「襲われる峡と、売る峡が違う」と男は言った。「南三峡は売る。北五峡は襲われる。同じ国の中でだ」
「南三峡の人は、それでいいんですか」
「よくはないだろうな」と男は言った。「だが、売らんかったら、うちが南三峡を襲う」
「売れば、襲われないんですか」
「売る相手は襲わん」と彼は言った。「襲えば、次の年に売ってもらえん。木がなければ船が作れん。船がなければ、どこへも行けん」
わたしは、その理屈を並べ直した。
売る峡は守られる。売るものがない峡は守られない。北五峡には売るものがなかった。だから襲われる。
わたしは、その話をしばらく考えていた。
夏になると盟約会がある、と老人が言った。
全島の代表が集まって、二月かけて話す。話す資格は、票を持っている者にしかない。票は前の年の戦功で決まる。遠征を率いて分け前を持ち帰れば五つ、出て帰れば二つ、出なければ零。
「出なかった者は、何もできないんですか」
「喋れん」
「聞いてるだけですか」
「聞いておってもいいが、たいてい来ん」と老人は言った。「来ても座るところがない」
「決めるのは、出た人だけなんですね」
「そうだ」
「出られない人は」
「おらん」と老人は言った。「出られん者は、出られんまま年を取る。年を取った者は、票のあるうちに何も決めなかった者だ」
「じゃあ、決めてるのは若い人ばかりですか」
「そうだ」
「若い人は、去年のことを覚えてますか」
老人は、そこで少し黙った。
「わしが覚えとる」と彼は言った。
わたしは、北五峡の分け方の集まりを思い出していた。あそこでは全員が自分の口で数を言った。言った数が柱に刻まれた。声の大きい者の数が通るのではなく、去年その数で足りたかどうかを覚えている者の言うことが通った。
覚えている者が強い土地と、出た者が強い土地。
「盟約会では、何を話すんですか」
「その年の分け前と、次の年にどこを襲うかだ」と老人は言った。「それと、南の話」
「南の」
「条約がある」と彼は言った。「南の十の国が、五十年前に結んだやつだ。互いに攻めんという約束でな。あと三年で切れる」
「切れたら、どうなるんですか」
「向こうが互いに殴り合う」
「じゃあ、いいことなんじゃないですか」
老人は、そこで笑わなかった。
「うちは、その約束に入っておらん」と彼は言った。「入っておらんから、うちだけは五十年ずっと殴ってよかった。切れれば、みんなが殴ってよくなる」
彼は自分の動かない脚を叩いた。
「みんなが殴れる世の中で、いちばん小さい島がどうなるかは、盟約会でみんなが考えとる」
「三年しかないんですね」
「三年だ」
「三年で、なにか変えられるんですか」
「変えるという言い方をする者はおらん」と老人は言った。「あるのは、三年で何をするかという話だけだ」




