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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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二日

船縁に手をかけたところで、上がった状態が切れた。

切れるのは、思っていたよりも急だった。世界の速さが戻って、戻ったときに、こちらの体だけが置いていかれた。手の力が抜けて、船縁から滑った。

腕を掴まれた。

引き上げられて、荷の上へ転がされた。転がされたところで、指一本動かなかった。

引き上げたのは、あの毛皮を貸した男だった。刻印が一つしかない男。

彼はわたしを荷の上へ置くと、まくれていた袖を下ろした。

それだけのことだった。それだけのことに、なぜか長く助けられた。

顔だけは動いた。

わたしは、船の中を見た。

四人で下りて、戻ったのは二人だった。背の高い女が、男の子を背負ったまま船尾にいた。二人とも濡れていて、震えていた。

ランは、いなかった。

葦の中で手を離したときのことを、わたしは何度も思い返した。

離したのは彼女のほうだった。二人で伏せていれば揺れが大きくなる。大きくなれば見つかる。だから離して、別のほうへ走った。

走れば見つかる。見つかれば追われる。追われているあいだ、こちらは見つからない。

そういう計算を咄嗟にしたのか、それとも何も考えないで走ったのかは、分からない。

分からないほうへ、わたしはずっと考えないようにしていた。

盟の者も減っていた。減った数を、わたしは数えなかった。数えたくなかった。数えなくても、漕ぐ場所に空きがあることは見れば分かった。

船が出た。

川を下るのは、上がるより速かった。それでも、葦を抜けるまでのあいだ、岸から何度か矢が来た。船の縁に刺さったものが、そのまま揺れていた。

シグリが船尾へ来た。

彼女はわたしの前にしゃがんで、右腕の袖をまくった。線を見た。

線の周りが、変わっていた。

盛り上がっていた白いところが、前より広がっていた。腕の内側の、彫ったところから指三本ぶんほど外側まで、色が抜けていた。触られても、触られたことが分からなかった。

一度使っただけで、これだけ広がった。

ヘルヴィの指は、第一関節から先だった。あの人は何度使ったのだろうと思った。訊いたことがなかった。刻む家の人間は、自分が何人ぶん決めたかを言わない。自分が何度使ったかも、たぶん言わない。

メレの指も、同じ白さだった。あの人は一度も使っていないと言っていた。使わなくても、そうなる。

使えば、速くなるというだけのことだった。

シグリは、その広がりを親指で撫でた。

それから、何か言った。

老人が来て、訳した。

「使ったな、と言っている」

わたしは答えられなかった。口が動かなかった。

「返事は要らん」と老人は言った。「見れば分かる」

シグリはもう一つ言った。今度は長かった。

老人は、少し迷ってから訳した。

「使う刻印を持っておるのか、と訊いておる」

わたしは、まだ動けなかった。

「うちの者の刻印は、たいてい何もせん」と老人は言った。「数えるために刻む。使えるものを刻む者もおるが、一つか二つだ。残りは記録だ」

彼はわたしの腕を見ていた。

「あんたのは、二つとも使えるものだな」

わたしは、目だけを動かした。

シグリは立ち上がって、船の中を見回した。空いている漕ぎ場を見ていた。

それから、こちらを見ないで何か言った。

老人が訳すのを、少し待った。

「一度目は済んだ、と言っている」

二日のあいだ、わたしは荷の上にいた。

動けないというのは、痛いのとは違った。痛みはなかった。体があるという感じがしなかった。息はしていた。目も動いた。飲まされたものは飲み込めた。それ以外は何もできなかった。

背の高い女が、ときどきわたしの向きを変えてくれた。同じ向きで寝ていると、下になったところが冷えるからだった。彼女は一言も喋らなかった。喋らないまま、二日それをやった。

その二日のあいだ、わたしは頭の中で数えていた。

北の谷の柱を、奥から手前へ。十九本。一本ずつ、列の長さを。

数えていないと、別のことを考えてしまう。ランのことと、あの年寄りの女が訊いたことと、それから、葦の中で膝の下にいた人の顔を。

あんたらは、冬をどうやって越すんだい。

わたしは、その質問に答えられなかった。

答えは知っていた。この島は自分の土地で人の五分の一しか食えない。だから奪う。奪ったものを売って、売った銭で買う。買っても足りないから、また奪う。

それを言えば、答えになる。

ならなかった。

あの人が訊いていたのは、そういうことではなかったからだ。

あの人は、こちらを人だと思って訊いていた。

麦を持っていく者にも冬があると思っていた。持っていくのは、持っていかないと冬を越せないからだろうと思っていた。だから訊いた。

その通りだった。通りなのに、答えると、こちらの冬のために向こうの冬を取ったことになる。

取った。実際に取った。わたしは岸で待っていただけだが、待っていた船に積まれた。

三日目の朝に、指が動いた。

動いたのは右手の小指からだった。動かそうとしたのではなく、勝手に動いた。動いたことに気づくのに、しばらくかかった。

わたしは、自分の腕の内側に、動くようになった指を当てた。

二つ。あと二つ。

そのうち一つは残せと、ヘルヴィは言った。

残したまま死んだら無駄になる、とわたしは訊いた。無駄になる、とあの人は言った。それでも残せと言った。無駄にして死ぬ者と、使い切って死ぬ者がいて、後のほうが早い、と。

一度使って、二日動けなくなった。動けないあいだ、船の上にいた。船が沈まなかったから、生きている。

次に使うときも、同じだけ運がいいとは限らなかった。

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