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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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三つ数える

二つ目の村は、その日の午後だった。

一日に二つやるのは珍しいと、老人が言った。一つ目が早く済んだからだった。早く済んだのは、守りがいなかったからだ。

「守りがおらんかったということは」と老人は言った。「守りが別のところにおるということだ」

「どこですか」

「知らん」

船は川をもう少し上がった。塔が近くなった。

二つ目の村は、一つ目より大きかった。家の数が多く、道が広く、道の脇に石が敷いてあった。石を敷くのは、荷車がよく通る村だった。

荷車がよく通るということは、麦以外のものも動いているということだった。街に近い村は、そういう作りになる。

そして、街に近い村には守りが来る。

来るまでの時間が、一つ目の村より短い。

わたしたちは、また先に下りた。

水は浅かった。今度は膝までしかなかった。岸へ上がって伏せて、音を聞いた。

鉄が鳴った。

はっきり鳴った。一度ではなかった。畑の向こう、家並みの陰から、規則正しい音が来ていた。歩いている音だった。歩調が揃っている。揃っているのは、訓練された者が歩いているということだった。

灰縁の村へ来ていた買い付けの護衛が、あの歩き方をしていた。

歩調が揃うのは、揃えるように習った者だけだった。村の男が急いで出てきたのなら、揃わない。揃っているというのは、待っていたということだった。

待っていたということは、知っていたということだった。

わたしは後ろを振り返った。

船はもう、ずいぶん近くまで寄せていた。人が下りはじめていた。合図を待たないで下りていた。一つ目が早く済んだので、二つ目も同じだと思っていた。

わたしは立ち上がって、両手を振った。

戻れ、という合図は教わっていなかった。手を上げるのは進めという合図だった。だから両手を振った。振っている姿は、遠くからは何にでも見えた。

鉄の音が速くなった。

ランがわたしの腕を掴んで、引き倒した。

伏せた耳のすぐ横を、何かが通った。風の音がして、少し後ろの地面で音がした。矢だった。

そこからは、順番が分からない。

盟の者が岸へ上がってきて、上がってきたところで矢を受けた者がいた。倒れた者を誰かが引きずり、引きずっている者がまた射られた。シグリの声が聞こえた。何を言っているのかは分からなかったが、退けと言っているのは分かった。

わたしたちは、後ろにいた。後ろというのは、岸から遠いほうだった。

つまり、船から遠いほうだった。

引き返すには、上がってくる者と、下がっていく者のあいだを通らなければならなかった。

上がってくる者は、こちらを見ていなかった。前しか見ていない。ぶつかれば倒される。倒されたら、その上を通っていく。

盟の者に悪気はなかった。彼らは走っていただけだった。走っている者の足元にいるほうが悪い、という土地だった。

背の高い女が、男の子を背負ったまま走った。ランがわたしを引いた。

葦の中へ入ったところで、前が塞がった。

馬だった。

畑を回り込んできた騎馬が、葦の際に並んでいた。船へ戻る道を切っていた。四騎か五騎。降りている者もいた。

ランがわたしの手を離して、別のほうへ走った。追われた。彼女は捕まった。

わたしは、葦の中で伏せた。

葦は背が高かった。伏せていれば見えない。ただ、動けば揺れる。揺れれば分かる。

わたしは動かなかった。

動かないでいるあいだ、腕の内側が熱くなっていた。押していないのに、開こうとしていた。ずっと押さえていた。

近くで馬の足音がした。止まった。

降りた者の足音が、葦の中へ入ってきた。

一人だった。

わたしは、そのとき考えた。ヘルヴィの言ったことを考えた。開けて、三つ数えて、それから使う。三つのあいだは体が鈍い。だから打たれない場所で開けろ。そんな場所はないから、作れ。

葦の中は、見えない。

見えないというのは、こちらからも見えないということだった。相手がどこにいるかを、音でしか測れない。三つ数えるあいだに、相手がどこまで来るかは分からない。

足音が近づいた。

わたしは開けた。

一つ。

腕が重くなった。ヘルヴィの言ったとおりだった。上がる前に落ちる。指が言うことをきかない。息が浅くなった。

二つ。

一つと二つのあいだが、思っていたより長かった。数えているあいだ、わたしは灰縁の村の櫓の裏で袋の口を縫っていたときのことを考えていた。司祭の声を聞きながら、数を数えていた。数えるのは得意だった。得意なことがこんなふうに役に立つとは、思っていなかった。

足音が止まった。すぐ近くだった。葦が押し分けられる音がした。

三つ。

上がった。

上がるというのは、そういう感じではなかった。体が軽くなるのでも、力が湧くのでもなかった。世界のほうが遅くなった。葦の揺れが遅くなり、押し分けられる音がゆっくり伸びて、伸びたまま近づいてきた。

わたしは立ち上がった。

立ち上がるつもりだった動作が、跳ねるものになった。

葦を抜けた先に、人がいた。

わたしは、その人にぶつかっていった。ぶつかるつもりはなかった。速さの加減が分からなかった。

相手は倒れた。倒れながら、剣を抜こうとして、抜けなかった。わたしが上に乗っていた。乗っている自分の重さが、自分のものではないみたいに重かった。

重いのではなかった。相手が軽かった。世界のほうが遅いので、押さえつけている手が、相手の抵抗より先に動いた。抵抗されてから押さえるのではなく、抵抗される前に押さえられた。

これが、上がるということだった。強くなるのではない。速さの順番が入れ替わる。

腕が動いた。動いてから、自分が何をしようとしているのかが分かった。

止めた。

止めるほうが、動かすよりも難しかった。

わたしは、下にいる人の顔を見た。

黒い髪を短く刈っていた。左の眉に、古い傷があった。

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