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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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先に下りる者

冬の遠征は、夏よりも人が集まらないのだと老人が言った。

集まらないのに出るのは、冬のほうが取れるからだった。麦は秋に納屋へ入る。入ったものを、春までに食べる。だから冬のあいだは、村の中に一年ぶんの麦が置いてある。

「夏に行けば、畑に立っておるだけだ」と老人は言った。「刈って、運んで、乾かして、それから船へ積む。そんな暇はない」

「冬は寒くないんですか」

「寒い」

彼はそれきり、その話をしなかった。

出るまでのあいだ、わたしたち四人は岸の小屋に入れられた。

小屋というより、屋根のある囲いだった。逃げないようにという囲いではなかった。逃げても、この土地の言葉を知らず、どこにいるかも分からない者が、行ける場所はない。囲ってあるのは、凍らせないためだった。

荷を凍らせないのと、同じ理由だった。この島では、人と荷の扱いに差がなかった。差がないというのは、粗末にされないということでもあった。荷は殴らないし、荷は凍らせない。

殴らないのに、扱いは荷だった。そのほうが分かりやすかった。南では、名簿に載せて祝福すると言われながら塔へ入れられる。ここでは、荷だと言われて荷にされる。

どちらがましなのかを、わたしはうまく決められなかった。

年上の女が二人と、小さい男の子と、わたし。

女たちのうち、背の高いほうは口をきかなかった。低いほうは、二日目からわたしに話しかけるようになった。何を言っているのかは分からなかったが、話しかけていることは分かった。わたしが分からないという顔をすると、彼女は同じことをもっとゆっくり言った。ゆっくり言っても分からなかった。

三日目に、彼女は自分の胸を指した。

「ラン」

「アステ」

彼女は笑った。この土地の言葉で名を交換できたことが、そのとき二人ともうれしかった。

ランは、自分の指を三本立てて、それから海のほうを指した。

三度、という意味だと分かった。彼女も同じことを聞かされていた。言葉が通じないのに、同じ数を数えていた。

わたしも三本立てた。ランはうなずいて、それから、その三本のうち一本を折った。折って、首を横に振った。

何を言おうとしているのかは、分からなかった。

男の子は名を言わなかった。訊いても、こちらを見るだけだった。ランがその子の頭を撫でて、何か言った。撫でられているあいだ、その子は動かなかった。

老人が来たのは、四日目だった。

彼は杖をついて囲いへ入ってきて、麦を煮たものを配った。配ってから、腰を下ろした。

「教えておく」と彼は言った。「あんたにだけだ。ほかの三人には言えん。言葉が通じん」

「なにを」

「先に下りるときの、下り方だ」

彼は地面に杖の先で線を引いた。

「船は岸に着けん。着ければ、逃げるときに動かせなくなる。だから浅いところで止めて、そこから水に入って歩く」

「深さは」

「胸までだ。あんたなら、首まで来る」

彼は線をもう一本引いた。

「岸へ上がったら、走るな」

「走らないんですか」

「走る者は目につく。目についた者から射られる。上がったら、まず伏せろ。伏せて、音を聞け」

「なにを聞くんですか」

「鉄の音だ」と老人は言った。「守りがおれば、鉄が動く。鎧でも、槍でも、鎖でも、鉄は必ず鳴る。鳴らんかったら、そこには誰もおらん」

「鳴ってるのに、聞こえなかったら」

「聞こえるまで伏せておれ」

「船が待たなかったら」

「待たん」と老人は言った。「合図が来んかったら、船は寄せる。寄せてから鉄が鳴ったら、そこで初めて退く。そのときは、あんたらは岸におる」

わたしはうなずいた。

「鳴ったら」

「戻れ」

「戻っていいんですか」

「戻れと言っておる」と彼は言った。「先に下りる者の仕事は、確かめることだ。確かめて戻るまでが仕事だ。そこから先は、盟の者がやる」

「でも、戻る途中で射られませんか」

老人は答えなかった。

わたしは、そこで初めて分かった。この人は、戻れる方法を教えているのではなかった。戻ろうとしろと言っているだけだった。

「あの三人にも、教えてあげてください」

「言葉が通じん」

「わたしが伝えます」

老人はこちらを見た。

「どうやってだ」

わたしは地面の線を指した。杖で引いた線と、同じものを指で引いた。

「これを、もう一度描いてください。同じように」

彼は少し黙って、それから杖の先で描き直した。

わたしはランを呼んだ。男の子も呼んだ。背の高いほうの女は動かなかったが、こちらを見てはいた。

わたしは地面の線を指して、水の深さを手で示した。自分の首のところに手を当てた。それから、伏せる真似をした。耳に手を当てた。

ランが何か言った。

わたしは、鉄の音を出す方法を探して、囲いの隅にあった鎖の切れ端を拾って、地面へ落とした。

音がした。

ランの顔が変わった。分かったという顔だった。

彼女は背の高い女のほうを向いて、その音を指して、何か言った。背の高い女が初めて動いた。

老人は、それを黙って見ていた。

「あんた、言葉がなくても伝わるものだと思っておるのか」

「思ってません」とわたしは言った。「でも、伝わるところまでは伝わります」

老人は、しばらく黙っていた。

「あんた、南で何をしておった」

「篩を回してました」

「その前だ」

わたしは答えなかった。

「まあいい」と彼は言った。「訊いたわしが悪い」

彼は杖をついて立ち上がり、囲いの戸のところで足を止めた。

「一つだけ言っておく。あの子は連れていくな」

小さい男の子のことだった。

「連れていくなって、置いていけるんですか」

「置いていけん」と老人は言った。「だから言っておるんだ。連れていくなと言われても連れていくしかない、ということを、先に知っておけ」

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