三度
川を上がりきったところで、船は停まった。
そこから先は浅すぎて進めなかった。漕ぎ手が下り、荷が下ろされ、わたしたちも下ろされた。
岸に立たされて、初めて自分がどこにいるのかを考えた。
北ではなかった。峡から出て、海沿いに南へ走って、それから川を上がった。上がった距離を、わたしは船の上で数えていた。日の出と日の入りの数と、漕ぎ手の交代の回数を数えた。数えても、地図を持っていないので、どこかは分からなかった。
分かったのは、南へ来たということだけだった。
南へ来たというのは、暖かくなったということだった。雪は途中から降らなくなり、岸の草が枯れているだけになった。
その暖かさに、わたしは覚えがあった。生まれた土地の冬に近かった。
老人が、杖をついて岸を歩いてきた。
「あんたら四人は、ここで決まる」
「決まるって、何が」
「盟に入るか、売られるかだ」
わたしは、右へ分けられたときのことを思い出した。左へ分けられた者は、その場に座らされて、それきりだった。
「入れるんですか」
「入れる」と老人は言った。「うちの盟は、土地に紐づいておらん。船と、乗ってる者と、その家族が一つの盟だ。よそから来た者でも、条件を満たせば入る」
「条件」
「三度だ」
彼は指を三本立てた。
「三度、遠征に出て、三度とも生きて帰ってくること。帰ってきたら、盟の者になる。票も持てる」
「出るというのは、漕ぐんですか」
「漕ぐのは盟の者だ」と老人は言った。「あんたらは先に下りる」
「先に」
「船から最初に下りて、岸を確かめる。守りがおるかどうかを見る」
わたしには、その意味が分かった。
守りがいた場合、最初に下りた者がどうなるかは、確かめるまでもなかった。
「本当に」
「本当だ」と彼は言った。「シグリが連れ帰った捕虜で、そうなった者がおる。あれはいま、漕ぎ手の頭をやっとる」
わたしは漕ぎ手のほうを見た。誰がそうなのかは分からなかった。腕を出している者は、みんな同じに見えた。
「三度で、何人生き残るんですか」
老人は答えなかった。
答えないというのが答えだった。灰縁の村で、それを覚えていた。
「入らなかったら、売られるんですね」
「売られる」
「どこに」
「南だ」と彼は言った。「南は買う。人を買って、名簿に載せる。載せたものは働かせる。うちは売って麦を買う」
わたしは、その道筋を頭の中で並べた。
北の峡が焼かれて、人が船に乗せられて、南へ運ばれて、名簿に載る。載った人が働いて、その働きが麦になって、麦が北へ戻ってくる。
戻ってくる麦を、この島の者が奪いに行く。
輪になっていた。
輪の中で、どこかから少しずつ減っていた。
減っているのは、麦ではなかった。麦は毎年また生える。人も生まれる。焼いた村はまた建つ。
減っているのは、もっと下のほうにあった。
北の谷の柱が細くなっていくのと、灰海の縁が毎年内へ寄るのと、この島が毎年もっと奪わないと足りなくなるのが、同じ一つのことなら――
そこまで考えて、その先へは行けなかった。行くための言葉を、わたしはまだ持っていなかった。
「あの」
「なんだ」
「三度出るというのは、三度、どこかの村を焼くということですか」
老人はこちらを見た。
「そうだ」
わたしは自分の腕の内側に手を当てた。二つ刻んである。上げるやつは、まだ使っていない。開けて、三つ数えて、それから使う。二日動けなくなる。
いま使えば、この岸から走れる。走って、二日動けなくなる。二日のあいだに見つかれば終わりだった。
使わなければ、選ばされる。
わたしは、雪の斜面に埋めてきた板のことを考えていた。折れた木の根方から、左へ大股で何歩。あれはまだそこにある。取りに行く者がいなければ、春に雪が解けて、濡れて、読めなくなる。
そして柱のことを考えた。
北の谷の柱の列を、わたしはまだ全部覚えていた。歩数に合わせて送っていく数え方で、頭の中に並んでいる。あれを持っている者は、ほかにいない。グリムが死ねば、いなくなる。
覚えている者が死ぬまでは残る、とグリムは言った。
わたしは老人のほうを向いた。
「訊いてもいいですか」
「訊け」
「三度出て帰ってきた人は、票を持つんですよね」
「持つ」
「票を持つと、盟約会で喋れるんですよね」
「喋れる」
老人が、少し姿勢を変えた。
「あんた、いくつだ」
わたしは答えた。
彼は長いこと黙っていた。
それから、船首のほうを見た。シグリがそこにいた。座って、川上のほうを見ていた。
「あれも、初めて出たのは十七だ」と老人は言った。「あんたはまだ、出す年ではない」
「出せないんですか」
「出せる」と彼は言った。「出せるが、たいてい一度目で死ぬ」
わたしは、腕の内側から手を離した。
「一度目に死んだら、二つ残ります」
「なんの話だ」
「刻印です」
老人は分からないという顔をした。
わたしは、それ以上説明しなかった。説明しても、この人には伝わらない。この島では、刻印は使うために刻むものではないからだ。数えられるように刻むものだ。
減るから数えられる、とシグリは言った。
わたしは、減らないもののほうを持っていた。頭の中の数だけは、使っても減らなかった。
「もう一つ、訊いてもいいですか」
「訊け」
「盟約会には、票を持ってれば誰でも入れるんですか」
「持っておれば入れる」
「そこで喋ったことは、記録されますか」
「戦功録に載る」
「載ったものは、誰かが覚えますか」
老人は、そこで長いこと黙った。
「わしが覚える」と彼は言った。
わたしは、自分の腕の内側に手を当てた。二つ残っている。頭の中には、柱の列がまだ全部あった。
「決めました」
老人が振り向いた。
「出ます」




