数えられるように
四日目の朝、シグリが船尾へ来た。
わたしのところへまっすぐ来た。老人が何か言い、彼女が短く返した。それから彼女は、わたしの前にしゃがんだ。
近くで見ると、思っていたより若かった。
二十を少し過ぎたくらいに見えた。それでいて、この船で誰よりも上だった。年上の男たちが、彼女が通ると場所を空けた。
年で決まらない土地だった。年で決まらないというのは、決めるものが別にあるということで、それが何かは腕を見れば分かった。
腕の白いところが、日の下でよく見えた。白いのは色が抜けているのではなかった。表面が変わっていた。爪で弾いたら音が鳴りそうな、そういう変わり方をしていた。
彼女は、わたしの腕をとった。
袖をまくって、内側の線を見た。指で撫でた。
それから、老人に何か言った。
「隠すやつだな、と言っている」と老人が訳した。
わたしは黙っていた。
「もう一つあるだろう、とも言っている」
「なんで分かるんですか」
老人が伝えると、シグリはわたしの右腕のほうを顎で示した。まくってもいないのに、そちらだと分かっていた。
「片方だけ袖を気にしておる、と言っておる」と老人は言った。「あんた、さっきから右の袖ばかり直しておるだろう」
わたしは手を止めた。彫ったばかりのほうを、無意識に庇っていた。
「見る者は、そこを見る」と老人は言った。「あれは、そればかり見て九年生きておる」
老人がそれを伝えると、シグリは自分の左腕を上げた。
指で、一つずつ線を叩いた。
叩きながら、何か言った。
「一つ目は、初めての遠征だ」と老人が訳した。「二つ目は、その次。三つ目は、船を任された年。四つ目は、四十人を連れて帰った年。五つ目は、負けた年。六つ目は、その次に勝った年」
「じゃあ、去年は」
老人が伝えると、シグリは何も言わなかった。
「去年は出た。帰った。持ち帰りもした」と老人が言った。「だが刻んでおらん」
「なんでですか」
「七つ目だからだ」
わたしはシグリを見た。彼女はこちらを見ていなかった。
「刻印って、そういうものなんですか」
「うちではそうだ」
「でも、術じゃないんですか」
老人が伝えると、シグリは笑った。声を出して笑った。
彼女は五つ目を指した。指して、何か言った。
「これは何もしない、と言っている」と老人は言った。
「何も」
「負けた年に刻んだものだ。負けた年に持ち帰るものはない。持ち帰るものがないから、数えられるものもない。それでも、その年に出たことは残さねばならん」
「残さないと、どうなるんですか」
「出なかったことになる」
「でも、出たのに」
「出たかどうかは、腕を見て決める」と老人は言った。「盟約会で票を数えるときに腕を見る。書いたものは信用されん。書いたものは書き換えられるからな」
わたしは、その理屈を追った。
書き換えられないものだけを信用する。だから体に刻む。体に刻めば、書き換えられない代わりに、消せもしない。
消せないものを増やすと、体が減る。
減るのを承知で刻む。刻まないと、出たことにならない。
「だから刻んだんですか」
「刻んだ」
わたしは、その線を見ていた。ほかの線と同じ形をしていた。同じように白く、同じように盛り上がっていた。
「何もしない刻印なのに、体は減るんですか」
老人が伝えた。
シグリは、笑わなかった。
彼女は自分の首の付け根の線に触れた。触れると、そこの皮膚は動かなかった。指が沈まないで、表面を滑った。触れて、こちらの言葉ではない言葉で、少し長く喋った。
老人は、しばらく訳さなかった。
「なんて言ったんですか」
「減る、と言った」と彼は言った。「減るから数えられる、とも言った」
「意味が分かりません」
「減らんものは、数える値打ちがない、と」
わたしは、記録小屋の柱のことを言いたくなった。
あれは減らない。彫った刻みは残る。残っているから、何年前にどれだけ取ったかが分かる。減らないから数えられる。
この人の言っていることと、逆だった。
逆なのに、どちらも数えていた。
シグリは立ち上がった。立ち上がって、船の中を見回した。漕いでいる者たちのほうを見ていた。
彼女はまた何か言った。今度は長かった。
老人は、それを短く訳した。
「三十五で石になる。四十を過ぎた戦士はいない。だから、盟約会に出るのはみんな若い。若い者が決める」
「年寄りは」
「おらん」
老人は自分の脚を叩いた。動かないほうの脚だった。
「わしみたいなのが残る。戦えなかった者だけが年を取る」
彼はそれを、恨みのない言い方で言った。
「シグリは、それを恥だとは思っておらん」と彼は言った。「あれは、老いた者を憐れんでもおらん。年を取れた者は取れた者、取れなかった者は取れなかった者だ。それだけだと思っておる」
シグリは、まだ漕ぎ手のほうを見ていた。
わたしは、自分の腕の内側に手を当てた。
二つ。あと二つ。
数えるたびに、減るものを数えていた。減るから数えていた。
シグリの言ったことが、そのとき、わたしには少しだけ分かった。分かったことが嫌だった。
シグリがまた何か言った。老人は少し迷ってから訳した。
「あんたの腕は何を数えとるのか、と訊いておる」
わたしは答えられなかった。
答えは持っていた。四つのうち二つ使った、という答えだ。けれど、それを言えばこの人は残りが二つだと知る。残りを知られた者がどう扱われるかは、この船の上を見ていれば分かった。
「まだ数えていません」とわたしは言った。
老人は伝えた。
シグリは、それを聞いて、初めてわたしの顔をまっすぐ見た。
「嘘だな、と言っている」




