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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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二つ目

彼女は包みを床へ下ろし、戸を閉めた。閂を落とした。

厚い戸に閂があるのを、わたしはそのとき初めて知った。記録を置く小屋に閂をかける理由は、盗まれないためではなかった。壊されないためだった。

壊しに来る者がいると想定して建ててある。いつからそうなのかを、わたしは訊かなかった。訊いている場合ではなかったし、答えは分かる気がした。

この峡は、初めて焼かれるのではない。

「座れ」

台はもうなかった。板を外すのに邪魔だったのか、脇へ寄せて倒してあった。わたしは床に座った。

ヘルヴィは布を広げて、鉄を並べた。前に見たときより少なかった。持ち出す用意をしていたときに、いくらか包みへ入れてしまったらしかった。

「腕を出せ」

「同じところですか」

「反対だ」

わたしは右の袖をまくった。

彼女はわたしの腕を取って、内側を親指で押した。前と同じところを探していた。探し当てて、そこへ印をつけた。

「湯はない」

「いいです」

「よくはない。皮が硬いまま彫ると、あとで盛る」

彼女は自分の水袋の水を手のひらへ出して、わたしの腕を濡らした。それだけだった。

外で音がした。

近かった。峡の底ではなかった。斜面の、この建物より少し下のあたりだった。

ヘルヴィは手を止めなかった。

「何を刻むんですか」

「決めた」

「教えてください」

彼女は鉄を持ち上げて、火にかざそうとして、火がないことに気づいた。炉に火が入っていなかった。板を外すのに手を取られて、焚いていなかった。

彼女は鉄を口の中へ入れた。しばらくそのままでいて、それから出した。

「それで大丈夫なんですか」

「よくない」と彼女は言った。「火で焼くのは、鉄を清めるためじゃない。熱いほうが早く入るからだ。冷たいのを入れると、時間がかかる」

「じゃあ」

「痛い時間が長くなるというだけだ」

「教える」と彼女は言った。「今度のは、隠すやつじゃない」

「じゃあ」

「上げるやつだ」

わたしは彼女を見た。

「腕が上がって、脚が速くなって、鉄をまともに受けても折れなくなる」と彼女は言った。「彫らんと言ったやつだ」

「二日、動けなくなるんですよね」

「なる」

彼女は鉄の先をわたしの腕へ当てた。

「だから覚えとけ。これは逃げるためのものじゃない。逃げるだけなら、走ればいい。子供の脚でも、雪の斜面ならたいてい逃げられる」

「じゃあ、何のためですか」

「一度だけ、勝つためだ」

鉄が入った。

前より痛かった。皮が硬いまま彫ると盛る、と彼女が言ったのは本当だった。線が引かれる先から、その両側が持ち上がってくるのが分かった。

「一つ目は使ったか」

「使いました」

「どこで」

「街道です。盆がありました」

「そうか」

彼女は線を継いだ。

「よく使った」

外の音が、また近くなった。今度は、何かを叩く音が混じっていた。木を叩く音だった。

ヘルヴィは顔を上げなかった。

「使うときのことを言う。一度しか言わん」

「はい」

「上げるやつは、上がる前に落ちる」

「落ちる」

「開けてから、上がるまでに、ほんのわずか間がある」と彼女は言った。「その間、体は逆に鈍い。開けた瞬間に飛びかかろうとして、そこを打たれて死んだ者を、わたしは見てる」

「じゃあ、どうすれば」

「開けて、数えろ」

「いくつ」

「三つだ」と彼女は言った。「三つ数えるあいだ、動くな。動かないで待って、それから使え」

「三つのあいだに打たれたら」

「打たれる」とヘルヴィは言った。「だから、打たれない場所で開けろ」

「打たれない場所って、どこですか」

「そんな場所はない」と彼女は言った。「ないから、作れ。物陰でも、相手が背を向けたときでもいい。三つ数えるあいだだけ、自分が誰にも触られない場所を作る。それができんなら、使うな」

「使わなかったら」

「使わないで済むなら、それが一番だ」

彼女は線を継いだ。

「わたしが彫った者で、いちばん長く生きたのは、四つ刻んで一度も使わなかった男だ」

線が組み上がった。

彼女は鉄を布へ置いて、わたしの腕を持ち上げ、明かりのないところで目を近づけた。指で撫でて、確かめた。

「終わりだ」

わたしは腕を下ろした。

「二つ使った。あと二つだ」

「はい」

「二つのうち、一つは残せ」と彼女は言った。「三つ目まで刻んだ者は、たいてい四つ目も刻む。刻めるものがあると、使う理由のほうが後から出てくる」

「残したまま死んだら、無駄になりませんか」

「無駄になる」

「それでも残すんですか」

「残せと言ってる」とヘルヴィは言った。「無駄にして死ぬ者と、使い切って死ぬ者がいて、後のほうが早い」

外で、戸が叩かれた。

厚い戸だった。叩かれてもすぐには壊れなかった。

ヘルヴィは立ち上がり、床の包みを背負った。それから、外して床へ置いたままの三枚を拾って、わたしのほうへ押しつけた。

「持て」

「これは」

「生きてる者の板だ」

「持って行って、どうするんですか」

「持ってろ」

「返しに来ればいいんですか」

「来なくていい」とヘルヴィは言った。「その三人が死んだら、あんたが焼け」

「どうやって、死んだと分かるんですか」

「分からんだろうな」

彼女は壁のほうへ行って、いちばん奥の柱に手をかけた。板ではなく、柱だった。

「あんたの板は、そこの列にある」と彼女は言った。「取っていくか」

わたしは自分の板を見た。

線が二組、彫ってあった。

「置いていきます」

ヘルヴィは、そのとき初めてこちらを見た。

「なぜだ」

「持って出たら、わたしが死んだときに誰も知りません」

彼女は何も言わなかった。

それから、壁に手をついたまま、こちらを見ないで言った。

「知ったところで、どうということもないと言ったろう」

「言いました」

「あれは嘘だ」

戸が、また叩かれた。

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