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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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二つ目

三日目の朝に、司祭は記録小屋へ行った。

わたしはそのとき、水を汲みに出ていて、戻る途中で見た。司祭と書記が一人、槍を持った男が三人。彼らは小屋の戸を開け、中へ入り、しばらくして出てきた。

司祭は出てきたところで振り返り、小屋の壁を見上げていた。

その日の午後、彼は木の下でこう言った。

「あの小屋の中のものは、記録だと聞きました」

グリムは黙っていた。

「何を記録したものかも聞きました。誰が何を取ったか。よくできた仕組みだと思います。人が飢えないための、実際的な工夫です」

彼は本気で感心しているようだった。

「ただ、それを柱に刻んで、建物にして、代々守っている。それは工夫ではありません」

「なんだ」

「祭具です」

木の下が静かになった。

「わたしが決めたことではない」と司祭は言った。「目録がそうなっている。柱に刻まれた記号を恒久の建物に納めて祀るものは、祭具として扱う。そう書いてあるのです。書いてある以上、わたしはそう扱うほかない」

「祀ってない」

「では、なぜ建てたのですか」

グリムが言葉に詰まった。

「潰れないようにです」とわたしが言った。

全員がこちらを見た。

「雪が乗ると潰れるから、ここの人は建物を建てません」とわたしは言った。「でも、記録は濡れると読めなくなります。だから、あの小屋だけ建ててあるんです。祀ってるんじゃなくて、屋根が要るからです」

司祭は、しばらくわたしを見ていた。

「南の子か」

「はい」

「上手に喋る」と彼は言った。「どこの」

わたしは答えなかった。

「まあいい」と司祭は言った。彼はもうこちらを見ていなかった。「あなたの言うことは筋が通っている。だが、筋が通っているかどうかで決まるものではないのです。目録に照らして、そう扱う。それだけのことなので」

彼は書記のほうを向いた。

「明日、片づけます」

その晩、掘ってあるところで、人が集まった。

言葉は分からなかったが、何を話しているかは分かった。壁を剥がして持ち出すという案が出て、剥がせば読めなくなると誰かが言った。柱に刻んであるのは、柱ごとでないと意味をなさない。写せばいいという者がいて、写せる者がいないと誰かが言った。

わたしは言った。

「わたしが読めます」

グリムが顔を上げた。

「読んで、どうする」

「覚えます」

「覚えられるのか」

「柱の数は、数えました」とわたしは言った。「一つの柱に、列がいくつあるかも数えました。全部は無理です。でも、古い柱から順に、列の長さだけなら覚えられます」

「それだけ覚えて、何になる」

「減り方が分かります」

彼は何も言わなかった。

「それが一番大事なことだと思います」とわたしは言った。「誰が何を取ったかは、その年の人にしか要りません。でも、どれだけ減ってきたかは、これから先の人に要ります」

その夜、わたしは記録小屋にいた。

明かりは一つ。持ち込むと火事になるので、外の雪明かりを戸から入れて、あとは指で読んだ。

一番奥の柱から始めた。列の長さを数え、数を口の中で言い、次へ移る。数えた数を忘れないために、灰縁の村で覚えたやり方を使った。数を数えて、数えた数をもう一度数える。数えられた側は、数え返さずにいられない。

明け方近くに、腕の内側が痛みはじめた。

痛みではなかった。あの熱だった。押していないのに、勝手に開こうとしていた。

わたしは押さえた。ヘルヴィが言ったとおり、押さえた。押さえたまま数を数え続けた。

戸のところに、グリムが立っていた。

いつからいたのかは分からない。彼は入ってこなかった。

「済んだか」

「まだです」

「済まなくていい」と彼は言った。「明日、あんたは南へ下りろ」

「え」

「あの坊主は、あんたを見た」と彼は言った。「上手に喋る南の子を見て、どこの、と訊いた。訊いて、答えがなかった。あれは訊いたことを忘れん」

わたしは柱から手を離した。

「小屋は」

「潰される」

「じゃあ」

「潰される」とグリムはもう一度言った。「あんたが数え終わっても、潰される。数え終わらなくても、潰される。同じだ」

「同じじゃない」

「同じだ」

彼は杖を持ち直した。

「ただ、あんたが覚えて出ていけば、外に残る」

わたしは、その言葉の意味が分かるまでに少しかかった。

「外に」

「この土地にあるあいだは、いつでも潰せる」と彼は言った。「あんたの頭の中にあるものは、潰しに来るのに、あんたを見つけないといかん」

彼は戸の外へ出た。出てから、こちらを見ないで言った。

「あの坊主は、朝に来る」

わたしは残りの柱を数えた。

数え終わったのは、外が白みはじめてからだった。

小屋を出ると、谷の下のほうで、天幕のあたりに人が動いていた。まだ小さかった。上がってくるのに、少し時間がある。

わたしは自分の腕の内側に手を当てた。

一つ目は、隠すためのものだった。使えば白と出る。使ってから一刻は、次が使えない。

いま使えば、上がってくる者たちの前で盆に手を入れても、白と出る。出るが、それだけだった。上手に喋る南の子が、どこの子か答えられないまま白と出たところで、司祭は訊いたことを忘れない。

わたしは、そこで初めて、残りの数のことを本当に考えた。

三つ。

グリムは谷の下り口に立っていた。荷を一つ持っていた。わたしのぶんだった。

「南へ下りろと言いましたよね」

「言った」

「南に、刻む家があります」

彼は黙った。

「ヘルヴィのところです」とわたしは言った。「一つ刻んでもらいました。あと三つ刻めます」

「三つ刻んだら、どうなる」

「十年もちません」

グリムは荷を地面に置いた。

「なら、刻むな」

「刻まないと、覚えたものを持って出られません」

「持って出るのは、頭だ。刻みは要らん」

「要ります」とわたしは言った。「あの人は、わたしを見た。見た人が探しはじめたら、走らないといけません。走れる体が要ります」

風が谷を上がってきた。太い木の葉が、まとめて鳴った。

グリムはわたしの顔をずいぶん長く見ていた。

「あんたは、いくつだ」

わたしは答えた。

彼は何も言わなかった。

それから杖を持ち替えて、下り口の斜面を指した。

「行け」

わたしは荷を取った。

歩きだしてから、一度だけ振り返った。太い木の下に、彼は立っていた。その向こうに記録小屋の屋根が見えて、そのもっと向こうに、上がってくる人の列が見えた。

わたしは、彼らが小屋に着く前に、谷を出た。

腕の内側は、まだ熱かった。使っていないのに熱かった。

二つ目を刻むことに、そのときにはもう決めていた。

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