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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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23/96

粉

雪が消えたあと、南から人が上がってきた。

塩でも鉄でもなかった。

先に来たのは知らせだった。谷を上がってきた男が、木の下で息を切らしながら何か言い、それを聞いた者たちが順に立ち上がって、掘ってあるところへ入っていった者を起こしに行った。

グリムは動かなかった。皮を扱う手を止めて、しばらく谷の下を見ていた。

「来た」

「なにがですか」

「南三峡でやっていたことを、こっちでもやるそうだ」

「なにをやってたんですか」

「籍を作る」

「せき」

「名簿だ」とグリムは言った。「南では、人はみんな名簿に載ってるんだろう」

「載ってます」

「ここには、ない」

彼は皮を畳んだ。

「柱には刻んでる。だが、あれは人の名簿じゃない。取った量の記録だ。人が何人いるかは、割るときに数えるだけで、書き残しはせん」

「じゃあ、この土地に何人いるか、どこにも書いてないんですか」

「書いてない」

「誰も知らないんですか」

「毎年、割るときに数える」と彼は言った。「数えて、割って、忘れる」

その日のうちに、彼らは着いた。

司祭が一人と、書記が二人と、槍を持った男が十人ほど。それから、荷車が一台。荷車には、天幕を張るための棒と、布と、木の箱が積んであった。

木の下に、彼らは天幕を立てた。

建物を建てない土地で、彼らは真っ先に建てた。それが最初の一手だということが、見ていて分かった。

天幕の中には卓が入り、卓の上に箱が置かれた。箱の中身は見えなかったが、書記が両手で運んでいた。重いものだった。

わたしはそれを見て、灰縁の村へ来ていた買い付けを思い出していた。あのときも、灰を買いに来るのに司祭が来て、護衛が人を数えていた。数える者は、いつも先に足場を作る。

司祭は若くなかった。灰縁の村へ来ていたあの司祭より、いくらか若い程度だった。彼はこちらの言葉を話し、話し方は丁寧だった。

「この土地の者は、輪環教の籍を持たない」と彼は言った。「持たないので、什一税も納めない。そのこと自体を、わたしは咎めに来たのではない」

木の下に、人が集まっていた。誰も座らなかった。

「王が改宗を望んでおられる」と司祭は続けた。「北の峡が籍を持たないままでは、国が二つあるのと同じだからだ。それだけの話だ」

グリムが前へ出た。

「籍とは、なんだ」

「名簿に載ることです」

「載ると、どうなる」

「祝福を受けられます」と司祭は言った。「そして、税を納めていただく」

「納めなければ」

「納めない者の名は、名簿から外れます」

「外れると」

司祭は少し黙った。

「外れた者は、この国の者ではないことになります」

「この国の者だったことがない」とグリムは言った。

「それは違います」と司祭は言った。怒ってはいなかった。「王の土地にお住まいです。ずっと前からそうです。ただ、書かれていなかっただけで」

「書かれていなければ、そうではない」

「いいえ」と司祭は言った。「書かれていなくても、そうなのです。書くのは、そのことを確かめる作業にすぎません」

グリムは黙った。

わたしには、そのやりとりの意味が分かった。この人たちは、書くことで作っているのではないと言っている。もともとあったものを、書き写しているだけだと言っている。

そう言われると、断る言葉がなくなる。

グリムは杖をついたまま、動かなかった。

その日、天幕の前に卓が出された。

書記が名簿を広げ、名を訊いて書きつけていく。並ぶ者はいなかった。しばらく誰も動かなかったが、日が傾くころに、一人が並んだ。それから、また一人。

わたしは太い木の陰から見ていた。

並んだのは、若い者だった。若い者は、南三峡へ働きに出る。出るには籍が要る。要るというのは、そういうふうに作られたということだった。

並んだ若い者が名を訊かれて、答えて、書記がそれを書いた。書いたあとで、書記は顔を上げてもう一つ訊いた。

父の名だった。

若い者は答えた。答えると、書記はそれも書いた。

これで、その者は誰かの子になった。誰かの子になれば、その誰かも書ける。一人書けば、そこから枝が伸びる。

木の下で見ていた年寄りの何人かが、そこで立ち去った。

その晩、グリムは炉の前で何も言わなかった。

わたしが黙っていられなくなって訊いたのは、夜が更けてからだった。

「南三峡では、どうなったんですか」

彼はしばらく答えなかった。

「みんな載った」

「それだけですか」

「載っただけなら、それだけだ」と彼は言った。「載らなかった者が、いくらかいた」

「どうなったんですか」

グリムは炉の火を見ていた。

「死んだ者は、埋めるものだと思うか」

「え」

「南三峡では、埋めなかった」

わたしは何も言えなかった。

「載らないまま死んだ者は、名簿にない。名簿にない者の骨を土に入れると、その土地が汚れると、あちらの坊主は言うそうだ」

彼は木を足した。足しすぎだった。

「焼いて、粉にして、撒いた」

わたしは、灰海のことを考えていた。

灰縁の村では、掘った灰を袋に詰めて東へ売った。売った先で、それは石と石をつなぐ糊になった。聖都の穹堂の壁にも入っているという話だった。

粉にされたものが、どこかへ運ばれて、何かの一部になる。同じ形をしていた。

火が鳴った。

「どこに」

「畑にだ」

その言葉のあとで、彼は初めてこちらを見た。

「うちの土地には、畑がない」と彼は言った。「だから、どこに撒くつもりなのかは分からん」

わたしは、記録小屋の柱のことを考えていた。

板ではなく、柱に彫ってある。柱は建物の一部だから、外して焼くことができない。焼くとすれば、小屋ごと焼くことになる。

「グリムさん」

「なんだ」

「あの小屋は、どうなりますか」

彼は答えなかった。

答えないということが、この人の答え方だった。灰縁の村で、それをわたしは覚えていた。

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