数える子
その冬は、早く来た。
雪が降りはじめて、地面の下の掘ってあるところに、人が入りはじめた。太い木のあいだの、風よけの壁だけの小屋は空になった。わたしはグリムの入るところへ入れられた。梯子で下りると、土の壁に囲まれた低い部屋があって、真ん中に炉があり、煙が細い穴から抜けていった。
この土地の者も沈んだ。
ヘルヴィの峡ほど深くはなかった。北五峡の者は、沈み月のあいだも交代で起きる。起きている者が火を守り、雪を掻き、記録小屋へ行って刻みを入れる。
わたしは、また起きている側になった。
起きている者は、決まった時刻に地上へ出る。雪の厚みを見て、木の下の風よけが潰れていないかを見て、それから記録小屋の戸が開いていないかを確かめる。開いていれば、誰かが夜に入ったということだった。
冬のあいだ、戸が開いていたことは一度もなかった。
刻みを入れるのは、その日に取った者が自分でやる決まりだった。ただ、下から上がって記録小屋まで歩くのは骨だったので、寝ている者の分を誰かが代わりに入れることがあった。代わりに入れるときは、必ず二人で行く。一人で行かせない。
その決まりの理由を、わたしは訊かなかった。訊かなくても分かった。
一人で行けば、少なく刻める。少なく刻めば、その分だけ余計に取れる。二人で行くというのは、互いを疑うための決まりではなく、疑わずに済ませるための決まりだった。
疑わずに済ませるために手間をかける、というやり方を、わたしはそこで初めて見た。
冬の半ばに、合わなくなった。
魚が減っていた。取った刻みの数から計算すると、まだ残っているはずの量が、実際には残っていなかった。
気づいたのは、燻し場の当番だった。吊るしてある魚の列を数えて、記録小屋の刻みと突き合わせて、合わないと言った。
一度目は数え間違いだろうということになった。二度目も合わなかった。三度目に別の者が数えて、やはり合わなかった。
集まりが開かれた。今度は木の下ではなく、記録小屋の中だった。人が入りきらないので、戸を開けたまま外にも並んだ。
わたしは外にいた。
中で声が高くなっていくのが聞こえた。誰かが誰かを疑い、疑われた者が刻みを指し、指された刻みが正しいことを別の者が言った。しばらくそれが続いた。
グリムが戸口から出てきて、雪の上に立った。
「合わんのだ」と彼は誰にともなく言った。「刻みは合ってる。中身が足りん」
わたしは、そのとき自分が何をしようとしているのかを、あまり考えていなかった。
「刻みを、全部読ませてください」
グリムが振り向いた。
「読めるのか」
「数は読めます」
彼はしばらくわたしを見ていた。それから、中の者に何か言った。何人かがこちらを見て、そのうちの何人かが嫌な顔をした。
グリムはもう一度、同じことを言った。
わたしは中へ入れられた。
柱の刻みを、端から見ていった。列の長さを数え、数えたものを覚え、次の列へ移る。
暗かった。戸を開けても、光が入るのは手前の柱までで、奥は指で読んだ。刻みの底に指を入れ、端から端まで撫でて、途切れたところで数を一つ足す。
灰縁の村で、袋の口を縫いながら数えていたときのやり方だった。手が別のことをしていても、数だけは頭の中で立っている。あのころは、それが何かの役に立つとは思っていなかった。灰縁の村で袋の口を縫っていたころ、司祭の言った数を寝床で数えたやり方と同じだった。
半分ほど数えたところで、気がついた。
「この列だけ、刻みの深さが違います」
グリムが寄ってきた。
「どれだ」
「ここです。ここから下が、少し浅い」
「浅いとどうなる」
「分かりません。ただ、ほかの列は上から下まで同じ深さです。この列だけ、途中から浅くなって、そこから先の刻みの間隔も少し詰まってます」
彼は指で撫でた。撫でて、それから戸口のほうへ声をかけた。
同じ道具で刻めば深さは揃う。刻む道具を替えるか、刻む者が替わるかしなければ、揃わない。
その列は、一人の男のものだった。
彼は否認しなかった。呼ばれてきて、柱を見て、それだけで肩を落とした。詰めて刻んだのは、取った回数を少なく見せるためだった。少なく見せた分を、彼は掘ってあるところの隅に埋めていた。掘り返すと、干した魚が出てきた。
隠していた量は、多くなかった。一人が冬を越すのに足りるほどでもない。数日ぶんだった。
その数日ぶんのために、彼は道具を替え、刻みを詰め、二人で行く決まりを破っていた。
わたしはその場を見ていなかった。外へ出されていたからだ。
戻ってきたグリムは、何も言わなかった。
その男がどうなったのかを、わたしは長いあいだ知らなかった。彼はその冬を越した。越したが、次の年の分け方の集まりに、彼の名は出てこなかった。誰も彼の話をしなかった。追い出されたわけではなかった。ただ、勘定から外れていた。
わたしの扱いが変わったのは、その日からだった。
夜、炉のところでグリムが言った。
「あんた、来年の勘定に入る」
「わたしの分が」
「分が出る」と彼は言った。「代わりに、刻みを読む」
「読むだけでいいんですか」
「読める者がいなかった」
彼は炉に木を足した。
「読めなくても、これまでは足りてた。足りてるあいだは、誰も読まん。足りなくなったから、読む者が要るようになった」
「じゃあ、前は読めなくても平気だったんですね」
「平気だった」と彼は言った。「祖父の代には、余った分を隣の谷へ回してた。回すほうが面倒だから、そのうち回さなくなった」
「余らなくなったからですか」
グリムは炉を見ていた。
「いつからか、思い出せんな」
わたしは自分の指を見ていた。爪の下の白いところは、まだあった。
「グリムさん」
「なんだ」
「足りなくなったのは、今年が初めてですか」
彼は、木を足す手を止めた。
止めて、しばらくそのままでいた。
「いや」と彼は言った。




