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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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数える子

その冬は、早く来た。

雪が降りはじめて、地面の下の掘ってあるところに、人が入りはじめた。太い木のあいだの、風よけの壁だけの小屋は空になった。わたしはグリムの入るところへ入れられた。梯子で下りると、土の壁に囲まれた低い部屋があって、真ん中に炉があり、煙が細い穴から抜けていった。

この土地の者も沈んだ。

ヘルヴィの峡ほど深くはなかった。北五峡の者は、沈み月のあいだも交代で起きる。起きている者が火を守り、雪を掻き、記録小屋へ行って刻みを入れる。

わたしは、また起きている側になった。

起きている者は、決まった時刻に地上へ出る。雪の厚みを見て、木の下の風よけが潰れていないかを見て、それから記録小屋の戸が開いていないかを確かめる。開いていれば、誰かが夜に入ったということだった。

冬のあいだ、戸が開いていたことは一度もなかった。

刻みを入れるのは、その日に取った者が自分でやる決まりだった。ただ、下から上がって記録小屋まで歩くのは骨だったので、寝ている者の分を誰かが代わりに入れることがあった。代わりに入れるときは、必ず二人で行く。一人で行かせない。

その決まりの理由を、わたしは訊かなかった。訊かなくても分かった。

一人で行けば、少なく刻める。少なく刻めば、その分だけ余計に取れる。二人で行くというのは、互いを疑うための決まりではなく、疑わずに済ませるための決まりだった。

疑わずに済ませるために手間をかける、というやり方を、わたしはそこで初めて見た。

冬の半ばに、合わなくなった。

魚が減っていた。取った刻みの数から計算すると、まだ残っているはずの量が、実際には残っていなかった。

気づいたのは、燻し場の当番だった。吊るしてある魚の列を数えて、記録小屋の刻みと突き合わせて、合わないと言った。

一度目は数え間違いだろうということになった。二度目も合わなかった。三度目に別の者が数えて、やはり合わなかった。

集まりが開かれた。今度は木の下ではなく、記録小屋の中だった。人が入りきらないので、戸を開けたまま外にも並んだ。

わたしは外にいた。

中で声が高くなっていくのが聞こえた。誰かが誰かを疑い、疑われた者が刻みを指し、指された刻みが正しいことを別の者が言った。しばらくそれが続いた。

グリムが戸口から出てきて、雪の上に立った。

「合わんのだ」と彼は誰にともなく言った。「刻みは合ってる。中身が足りん」

わたしは、そのとき自分が何をしようとしているのかを、あまり考えていなかった。

「刻みを、全部読ませてください」

グリムが振り向いた。

「読めるのか」

「数は読めます」

彼はしばらくわたしを見ていた。それから、中の者に何か言った。何人かがこちらを見て、そのうちの何人かが嫌な顔をした。

グリムはもう一度、同じことを言った。

わたしは中へ入れられた。

柱の刻みを、端から見ていった。列の長さを数え、数えたものを覚え、次の列へ移る。

暗かった。戸を開けても、光が入るのは手前の柱までで、奥は指で読んだ。刻みの底に指を入れ、端から端まで撫でて、途切れたところで数を一つ足す。

灰縁の村で、袋の口を縫いながら数えていたときのやり方だった。手が別のことをしていても、数だけは頭の中で立っている。あのころは、それが何かの役に立つとは思っていなかった。灰縁の村で袋の口を縫っていたころ、司祭の言った数を寝床で数えたやり方と同じだった。

半分ほど数えたところで、気がついた。

「この列だけ、刻みの深さが違います」

グリムが寄ってきた。

「どれだ」

「ここです。ここから下が、少し浅い」

「浅いとどうなる」

「分かりません。ただ、ほかの列は上から下まで同じ深さです。この列だけ、途中から浅くなって、そこから先の刻みの間隔も少し詰まってます」

彼は指で撫でた。撫でて、それから戸口のほうへ声をかけた。

同じ道具で刻めば深さは揃う。刻む道具を替えるか、刻む者が替わるかしなければ、揃わない。

その列は、一人の男のものだった。

彼は否認しなかった。呼ばれてきて、柱を見て、それだけで肩を落とした。詰めて刻んだのは、取った回数を少なく見せるためだった。少なく見せた分を、彼は掘ってあるところの隅に埋めていた。掘り返すと、干した魚が出てきた。

隠していた量は、多くなかった。一人が冬を越すのに足りるほどでもない。数日ぶんだった。

その数日ぶんのために、彼は道具を替え、刻みを詰め、二人で行く決まりを破っていた。

わたしはその場を見ていなかった。外へ出されていたからだ。

戻ってきたグリムは、何も言わなかった。

その男がどうなったのかを、わたしは長いあいだ知らなかった。彼はその冬を越した。越したが、次の年の分け方の集まりに、彼の名は出てこなかった。誰も彼の話をしなかった。追い出されたわけではなかった。ただ、勘定から外れていた。

わたしの扱いが変わったのは、その日からだった。

夜、炉のところでグリムが言った。

「あんた、来年の勘定に入る」

「わたしの分が」

「分が出る」と彼は言った。「代わりに、刻みを読む」

「読むだけでいいんですか」

「読める者がいなかった」

彼は炉に木を足した。

「読めなくても、これまでは足りてた。足りてるあいだは、誰も読まん。足りなくなったから、読む者が要るようになった」

「じゃあ、前は読めなくても平気だったんですね」

「平気だった」と彼は言った。「祖父の代には、余った分を隣の谷へ回してた。回すほうが面倒だから、そのうち回さなくなった」

「余らなくなったからですか」

グリムは炉を見ていた。

「いつからか、思い出せんな」

わたしは自分の指を見ていた。爪の下の白いところは、まだあった。

「グリムさん」

「なんだ」

「足りなくなったのは、今年が初めてですか」

彼は、木を足す手を止めた。

止めて、しばらくそのままでいた。

「いや」と彼は言った。

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