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『百二十一人目』 ~魔力を持って生まれた子〜  作者: 音


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一つ目

朝は明るかった。沈み月が明けきって、この土地の日が長くなりはじめていた。

刻む家の戸は開けてあった。ヘルヴィは中で炉に火を入れていて、台の上には布が広げられ、その上に細い鉄が並んでいた。前に見たときより数が少なかった。使うものだけを選んで出してあった。彼女は昨夜のうちに選んだらしかった。台の上のものには、火を通した跡がついていた。

「座れ」

木の台の上に座らされた。

彼女はまず、わたしの左の袖をまくり上げた。肘から上の、内側の柔らかいところに指を当てて、しばらく押していた。

「ここだ」

「どうしてそこ」

「見えないところに刻むからだ。この国の者は刻印を隠さない。隠さないのが誇りだからな。あんたは誇る立場じゃない。着物で隠せるところに入れる」

「隠していいの」

「よくはない」とヘルヴィは言った。「この国では、隠す刻みを入れるのは恥だ。彫るほうも恥をかく」

「じゃあ」

「恥をかくのはわたしだ。あんたじゃない」

彼女はそれきり、その話をしなかった。

湯を張った桶が持ってこられて、わたしはそこへ腕を浸けた。皮膚が柔らかくなるまで置くのだと言われた。そのあいだに、台の上の鉄を一本ずつ火にかざしていった。

「何を刻むの」

「決めた」

「なにを」

「言わない」

わたしは彼女を見た。

「刻む家の人間が決める」とヘルヴィは言った。「そう決まってる。彫られる者が選ぶ国もあるが、うちは違う。選ばせると、みんな戦の刻みを選ぶからだ」

「戦の」

「強くなるやつだよ。腕が上がって、脚が速くなって、鉄をまともに受けても折れなくなる。使えば、たいてい勝てる」

彼女は湯から鉄を上げた。

「そのかわり、使ったあと二日動けない」

「二日」

「反動だ。倒れてるあいだに殺された者を、わたしは何人も見た。強くなる刻みで死ぬのは、たいてい勝ったあとだよ」

彼女はわたしの腕を桶から出し、布で拭いた。

「だから、あんたには彫らない」

「じゃあ、なにを」

ヘルヴィは答えなかった。

最初に使ったのは、わたしの持っていた針だった。

彼女はそれを火に通し、腕の内側に、ごく短い線を一本入れた。痛みはあった。想像していたのとは違った。刺す痛みではなく、皮膚が引き裂かれて、その裂け目の底に何か入っていく感じだった。

「動くな」

「動いてない」

「息を止めるな。止めると出る」

なにが出るのかを訊く余裕はなかった。

腕の内側の皮膚は薄い。薄いところは早く裂ける。裂けたところから熱が入って、その熱が骨のほうまで届いた。

痛みが一番きついのは、針が入るときではなかった。抜けるときだった。抜けたあとに、そこへ何かが残る感じがある。残ったものは出ていかない。

線が三本になったところで、彼女は針を替えた。持ち替えるとき、こちらの顔を見た。

「ヴァイダの針で名を入れた」と彼女は言った。「あんたはもう、この家の帳面に載った。載った者は外せない」

「板を作るの」

「作る」

「焼くの」

ヘルヴィの手が、ほんの少し止まった。

「そういうことは、あとで訊け」

彼女の手は止まらなかったが、次の線が少し深く入った。深く入ったところが、あとで一番よく残った。

新しい鉄が入ってきたとき、痛みの質が変わった。

線を引くのではなかった。皮膚の下に何かの形を置いて、置いたものが自分から広がっていくような、そういう入り方をした。腕の内側から肩へ向かって、細い熱が上がった。

わたしは台の縁を握っていた。指の白いところが、明かりの下ではっきり見えた。

「もう少しだ」

「ヘルヴィ」

「喋るな」

「あの人は、なんで見逃したの」

彼女の手は止まらなかった。

「知らんよ」

「ずっと考えてる」

「考えるな。考えても、その男は帳面のほうを選ぶ」

「エルネスもそう言った」

「なら、二人が同じことを言ってる」とヘルヴィは言った。「二人とも、それを自分でやった側だ」

熱が肩まで届いて、そこで止まった。

彼女は鉄を布の上へ置き、わたしの腕を持ち上げて、明かりのほうへ傾けた。

腕の内側に、線が組み上がっていた。短いものと長いもの、角度の違うものが重なって、模様と呼ぶには少なく、印と呼ぶには読めない、あの形になっていた。

血はほとんど出ていなかった。かわりに、線の周りの皮膚が、白く盛り上がりはじめていた。

「これは、なにをするの」

ヘルヴィは布で手を拭いた。拭き終わってから答えた。

「隠す」

「え」

「あんたの中の道を、外から見えなくする」

「ずっと」

「働いているあいだだけだ」と彼女は言った。「刻みは減らない。使ったら冷ます時間が要る。一つ使うと、次に使えるまで一刻かかる。そのあいだは、あんたはただの有脈の子だ」

「一刻」

「その一刻で盆に手を入れられたら、そこで終わりだ」

わたしは自分の腕を見た。

「あの盆に手を入れても、光らない」と彼女は言った。「その刻みが働いているあいだはな。教会が人の中を見る手立ては、あれ一つだ。それを塞いだ」

「じゃあ、白と出る」

「出る」

彼女は台の上を片づけはじめた。片づけながら、背を向けたまま言った。

「一つ使った。あと三つだ。よく考えて使え」

彼女は使った鉄を布で包み、棚のほうへ持っていった。壁の板の列の、空いているところの隣に、新しい板を掛けた。まだ何も彫っていない板だった。

「名前を入れる」と彼女は言った。「言え」

「アステ・ヴァイダドッタ」

彼女は彫りはじめた。木を削る音が、思っていたよりずっと長く続いた。

わたしは腕の内側の、白く盛り上がった線を見ていた。

その日から、わたしの体は減っていくだけになった。

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