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第6稿:冬の贈り物 S

「花が散ってるみたい」

「えっ?」

 暖炉で木のはぜる音と、風が窓を揺らす音。

 それ以外にほとんど音が存在しなかった室内に、幼さの残る少女の声が響いた。


 暖炉の前で本を読んでいた十五歳程の黒髪の少年は、窓際に目を向けた。

 少年の視線の先で、金茶髪の少女が一人窓際に佇んでいる。

「雪」

「ゆき?」

 ポツリと漏らした少女の言葉に、少年はすこし考えそして納得する。

 確かに花に見えなくもない。

 まだ十歳になったばかりのこの少女は、雪を花に見立てていたのだ。


「なるほどね。それにしても珍しいですね。最近は雪が降ることなんてなかったのに。明日はきっと雪が積もりますね」

 少年は立ち上がるとソファに置かれたまま放置されていた毛布を手に少女に歩み寄る。

 瞬きもせずじっと窓の外を見つめる少女の肩に毛布をそっと掛けた。

「風邪をひきますよ?」

「でも、綺麗だから」

 ずっと見ていたいの。


 白く曇った硝子を手で拭って少女は窓の外を指差した。

「街の灯りがとっても綺麗」

「そうなんですか?」

 少年は微笑を浮かべ、少女の指差す外に眼を向けた。


 白い花が散る中で、窓硝子についた雫の所為もあってか、滲んだ街の灯りはいつもより美しく見えた。

 暗闇に散らばる光は宝石のようで。

 白い花と色とりどりの滲んだ灯りとが、二人の目に飛び込んでくる。


「僕が言うのもなんですが……、本当に綺麗ですよね」

 どれほどそうしていたのだろうか。

 思わずその光景に見とれていた少年は、ポツリと呟いた。

「今日はいつもより光が多いの」

「多分、今日がお祭りの日だからでしょうね」

 どうして、と目で訊く少女に少年はふわりと笑って答えた。

「お祭り?」

「えぇ。今日は聖夜祭といって長寿や健康を願ったり、一年間無事に過ごせたことへの感謝を捧げたりする日なんです。 最近では、家族以外の友人など集まって晩餐会も開くようですが……。

 昔は、もみの木に林檎を捧げて、身内でひっそりとお祝いしていたんですよ。今日見えてる光は、その習慣のなごりですね」

 そう付け加えて少年は笑う。

「そうなんだ」

「えぇ。――そういえば、今日ですね」

 うっとりとした様子で光を眺める少女を見て、少しだけ楽しそうに少年は小首を傾げる。

「何が?」

「冬の精がやってくるのがですよ。さ、もう夜も遅いです。今日はおやすみになって下さい」

 名残惜しそうにしている少女の背を、そっと少年は押す。

「……おやすみ」

「はい。おやすみなさいませ」

 毛布を肩に掛けたまま部屋を出て行った少女を、微笑を浮かべたまま少年は見送った。


 シャンシャン……と、どこからかベルの鳴る微かな音が聞こえてきた。


「おはようございます」

 翌朝。

 少年は少女の部屋にはいると、そう声をかけた。

 真っ白な毛布に包まった少女は、僅かに身じろぎして頭を持ち上げる。

「もう朝?」

「えぇ。ほら……、今日は綺麗ですよ?」

 さっとカーテンを開け、少年は外を指差した。

「え?」

 少女は興味を惹かれたようで、素足のまま床に降り立ちぱたぱたと窓に近寄った。

 その瞬間に、少女の青い瞳が見開かれた。

 窓硝子の向こう側。外は、一面真っ白だった。

「本当に雪が積もりましたね。本当に珍しい」

 感心したように言うと、少年は少女に着替えを渡す。

「とりあえず、これに着替えて下さいね。僕は外に出ているので、着替え終えたら呼んでください」

「わかった」

 少女がそう言って服を受け取ると、少年はすぐに部屋の外に出た。


 それから五分ほどして微かな音を立ててドアが開き、着替え終えた少女が遠慮がちに顔を覗かせた。

「終わりましたか?」

 少年がいつものように笑いかけると、少女はこくりと頷く。

 それから少女は少年の手をとり、ベッドの横に置かれた小さなテーブルの前まで引っ張っていく。

「これは、何?」

 サイドボードの上に置かれた小さな白い包みを少年に見えるように手に取って、少女は小首を傾げて問うた。

 それは白い布に包まれていて、赤いリボンが丁寧に結ばれていた。

 少年はすぐにそれが何か理解した。

「贈り物、ですよ。この地方に来るのは初めてでしたよね?」

 問いかけに、少女は真剣な表情でこくりと頷いた。

「えーとですね。このあたりでは聖夜祭の翌日の朝、子供のいる家にそういった贈り物が届けられるんです。 送り主の正体は誰も知らなくて、だから僕たちは冬の精と呼んでいます」

 その包み開けてみて下さい。

 そう言った少年の言葉に従って、少女は赤いリボンに手をかける。

 するすると解けたリボンが床に落ちて、包みは開いた。

 白い布の中には、掌ほどの大きさの柊のリースがあった。

 そのリースには、包みを結んでいたものと同じ色のリボンが結ばれ、小さなベルもついている。

「これは?」

「魔除けのお守りですね。冬の精が届けてくれた贈り物を家の何処かに飾ると、禍を追い払ってくれるそうです。 もっとも、迷信なんですけどね」

「すごいね」

 少女は感心したようにリースを眺め、それを壊れ物でも扱うかのようにそっと持ち上げた。

「ねぇ、これどこに飾ればいいと思う?」

「そうですね。――玄関の扉なんてどうです?」

 少年は僅かに考え込むそぶりを見せ、明るい声でそう告げる。

 少女はぱっと笑みを浮かべると、大きく頷いた。

「うん。玄関に飾る。早く行こうよ」

「そんなに急がなくても逃げたりはしませんよ」

 苦笑混じりに少年は声をかけると、少女の後を追って部屋を出た。


――――

 ストラルにて



初出:2004/12/24

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