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婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華


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9.初めての接触

 そんな風に自信喪失した令嬢もいたけれど、反対にやる気を漲らせている令嬢もいた。


 その令嬢達は、しばらく距離を取って様子を見ていたけれど、意を決したようにアピールを始める。


 パーティー開始から大分時間が過ぎた。そろそろ帰る者も見られる中、最初のころよりは空気が柔らかくなったことで、自分からアピールしても良い空気になったのだ。


 というか、そうしないとエドワード様から動く様子が無かったのが原因でもある。


 一応、婚約者候補を見つけるためのパーティーでもあると思うのだけれど、会場に目を引く令嬢がいなかったのかな。


 けれどエドワード様が、令嬢の見た目だけで選ぶとも思えない。気品や教養も大事にするはずだし、それはパーティーの前に把握していると思う。


 首を傾げていると、物思いに耽るあまりジッとエドワード様を見ていたらしい。


 バチっと音がしそうなほど、目がしっかりあった。


 あまりにもしっかり目が合ったので、視線を逸らすことができない。


 これは後でお説教コースだ。侍女として、いやそもそも人として他人をあまり不躾に見るものではない。


 けれどエドワード様は、何を思ったのか私の方に歩いてくる。


 いや、これはきっと私の後ろにご令嬢がいるに違いない。だってたがか一介の侍女に近づく理由もない。さっき目が合ったのも、私の気のせいだ。


 そう思った私は、エドワード様に道を開けるために、静かに体を横にずらし頭を下げた。


 そのままエドワード様が通り過ぎるのを待っていたけれど、下げた視界の端に磨かれた靴が入る。


 私の前で立ち止まっているのはなぜだ。やっぱり目を合わせてしまったのが良くなかったかな。


 冷や汗が背中を流れる。心拍数が上がっていく。必死に動揺を抑えようとしている私に、柔らかな声が向けられる。


「ぶどうジュースを頂けるだろうか」

「……っ! はい。かしこまりました」


 一瞬遅れて言葉の意味を理解し、慌ててグラスに注がれたぶどうジュースを手渡す。


 一息に飲み干す姿が、とんでもない色気を放っていて、思わず息をのむ。


 周りの令嬢が、小さく悲鳴を上げるのが聞こえた。


 そうだった。私は今飲み物の給仕係だ。パーティーが始まってから、エドワード様が飲み物を口にしたところを見ていない。


 喉が渇くのは当然だ。別に私が何かしたわけではないんだ。


 そう思うと、一気に体から余分な力が抜ける。


 気の抜けたそのままに、口角が自然と上がる。


 エドワード様は少し目を見開く。


 驚いた顔も綺麗だ。というか、すっごく今得をした気がする。何せこんなに近くでエドワード様と接触したのは初めてだ。


 うん、リリーが熱を上げるのも分かる。そう思いつつ、私はエドワード様から空のグラスを受け取り、その場を去ろうとした。


「待ってくれ」

「はい?」


 何故かエドワード様に呼び止められる。


 振り返ると、思ったより近くにエドワード様の顔があって驚く。


 わあ、視覚の暴力だ。片側だけ伸ばした紺色の髪がサラリと揺れる。


 このまま見ているのは良くない気がして、失礼にならないように視線をずらす。

 

 そのまま少し待ってもエドワード様は何も言わない。居心地が悪い。主に令嬢たちの視線が痛くて。

 

「……あの、エドワード様? 何か?」


 猛烈にこの場から立ち去りたくなる。あまりの居心地の悪さに、呼び止めた理由を問う。


 するとエドワード様は、ハッとしたように身じろぎした。


「いや、何でもない。急に呼び止めてすまなかった」

「いえ。またご用命がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」


 そう言うとエドワード様は、背を向けてホールに戻る。


 なんだったんだろう。もしかして、ぶどうジュースのおかわりが欲しかったのだろうか?


 私の手元にはグラスに注がれたぶどうジュースは、まだまだある。おかわりできる状況だったので、言わないのであれば、それは違う気がする。


 不思議に思ったけれど、ヴァイオレットに呼ばれたので、私はそれ以上考えずに仕事に戻った。



 ◇◇◇



「疲れたぁ」

「本当、疲れたね……」


 オリーヴと私は目の前のテーブルに突っ伏す。


 リリーとヴァイオレットはテーブルに突っ伏すことはしなかったけれど、疲労の色を隠しきれていない。


 月が空の真ん中を過ぎた頃、エドワード様の生誕パーティーが終わった。


 お客様を全員見送り、その後は最低限の片づけをする。


 さすがに全部一気に片付けろとは言われなかったのがせめてもの救いだけれど、それでも本当に疲れた。


 旦那様が明日は皆ゆっくり起きて良いと言われ、もうずっと旦那様についていきたいと思った。


 そんな寛大なお心を持つ方がいるのか。たとえ皆仕事をほぼいつも通りにするとはいえど、そう言ってくれるだけでも嬉しいものだ。

 

 それはさておき、疲れたものは疲れた。


 直ぐに休みたいけれど、最早部屋に行くのすら困難だ。


 少し皆で休んでから、励ましあって寝るしかない。


「そういえばジェインさん、パーティー中にエドワード様に話しかけられていませんでしたか?」


 リリーに聞かれて、そんなこともあったなと思い出す。忙しさのあまり、すっかり忘れていた。


「ああ、そうだったね。ぶどうジュースが飲みたかったみたいだよ」

「ええ……。軽い」

「忙しくて忘れてたの。でも確かにあんなに近くでエドワード様を見たのは初めてだったなあ」


 今日以前でエドワード様を近くで見たのは、初日の挨拶くらいか。


 下っ端とはいえ、雇用主の家族に挨拶した時だ。


 まあ私の他にも数人いたので、エドワード様は覚えていないかもしれないけれど。


 大きな家になればなるほど、使用人の数も増える。


 全員を覚えるというのは、中々に骨が折れるだろう。


 特に私のように、初日以外ほとんど関わりがないのであれば、記憶からなくなっても当然のことだと思う。


「周りの人達はエドワード様の色気に当てられていたのに、ジェインはケロッとしていたので驚きました」

「そうそう! 凄かったよ! なんであの中でジェインは普通なのかと思った」


 リリーとオリーヴに言われるが、私としては首を傾げるしかない。


 いまいち、そう言うことでドキドキするということが分からない。


 確かに見惚れたのは事実だけれど、それで舞い上がることはなかったな。


「ええ? 見惚れはしたよ? やっぱりエドワード様ってかっこいいなあとは思ったよ?」

「顔に一切出てませんでしたが?」

「うーん。仕事中だったからかな?」


 私の言葉にリリーは何故か納得していなさそうだった。


 その様子に首を傾げていると、リリーは迷うように視線を外し、けれど思い切ったように聞いてきた。


「その……だって、エドワード様ですよ! こう、もっと舞い上がったりしないんですか⁉︎ 私なんて、絶対数日は舞い上がるのに!」

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