8.お祝いパーティー開催
時折息抜きをして怒られつつ、エドワード様の成人のお祝いまで、あっという間に時間が過ぎていった。
リリーは私達に気持ちを話したおかげで落ち着いたのか、あれから精力的に仕事に励んでいる。
なんというか、若いっていいなぁと思ってしまう。平民だとまだ私も若い分類ではあるけれど、貴族的には“行き遅れ”だ。
思うところが全くないというのは嘘だけれど、リリーには幸せになってほしいとも思う。
その思いは妹のジュリアにも向いている。
私の分まで“普通の幸せ”を掴んでほしい。
慌ただしく過ぎる日々の中で、そんなことを考えていた。
◇◇◇
そしてパーティー当日。
パーティー自体は夜から始まるけれど、侍女の仕事は早朝から始まっている。
今までも十分忙しかったけれど、今を思えば可愛いものだった。
本当にあちらこちらに奔走している。今日だけで凄い運動量の自信があるくらいだ。
これでも間に合うかギリギリのところなので、手を抜くわけには行かない。
オリーヴ達も走っている姿を見るくらいで、話す余裕なんて無かった。
何とか準備が終わって、半刻もしない頃。お客様がちらほらやって来た。
出迎えるのは私の仕事ではないので別の仕事をしているけれど、何となく屋敷が賑やかになってきたのを感じた。
今回、私は飲み物の提供係だ。
お客様が望む飲み物を用意して、提供する。とはいえ、ある程度は決まっているし、すぐに用意できるようになっているのでそこまで大変ではない。
ただすれ違うお客様に挨拶をしていると、やはり令嬢が多いのが目立った。
きっとエドワード様と少しでもお近づきになれるよう、出来る全てで着飾ってきたのだろう。
令嬢達は皆、煌びやかで美しかった。
場違いにも、シャンデリアに照らされて眩しいなんて思ってしまったのは内緒である。
数年前までは私もあちら側だったんだなぁと、なんだかセンチメンタルな気分になりつつ、自分の仕事に集中する。
やがて音楽が奏でられ、パーティーが始まった。
エドワード様にアピールしたい令嬢は山ほどいるけれど、話しかけるには順番がある。
しかもエドワード様から話しかけられないと、順番にすら入れないのだ。貴族のルールというやつである。
エドワード様はまずこの国の皇太子、リチャード・ネイサン皇太子に挨拶している。
その隣には皇太子の婚約者、アデレイド・フォークナー公爵令嬢の姿もある。
3人はいわゆる幼馴染だ。権力的にも関係的にも、エドワード様が一番初めに挨拶するのは当然だ。
とても楽しそうに談笑する3人を横目に見つつ、私は飲み物を欲しがる人たちに提供する。
そういえばファーストダンスはどうするのだろう。
エドワード様もある程度は、ご令嬢に目星をつけているのだろうか。
普通に考えるならば、一番距離の近いご令嬢とファーストダンスを踊るのだろう。それか、近親者か。
けれどエドワード様に、ご姉妹はいらっしゃらない。
噂話を聞く限り、エドワード様はまだご本命を決めていらっしゃらないようだけれど、主役がダンスをしないと他の者たちも踊れない。
少し野次馬根性でドキドキしながら見守っていると、呆れた様子のアデレイド様。
反対に、皇太子殿下は楽しそうだ。というか、あれはからかって楽しんでいる表情だ。
そしてエドワード様は。
困った様子で2人を見比べている。やがて諦めたのか、アデレイド様に手を差し伸べた。
なんと。私だけでなく、周りも空気がざわついた。
それもそのはず、いくら主役とはいえ、皇太子の婚約者とファーストダンスとは。
それも婚約者同士が先に踊っていない。
普通なら修羅場も良いところだけれど、やり取りを見る限り皇太子殿下が提案している。それほどまでに信頼関係が築けているということの裏返しだと思うけれど、あまり見ない光景である。
音楽がダンス用に切り替わる。その音楽に合わせて、お2人は優雅にダンスを始める。
エドワード様のエスコートははた目から見ても、とても優しいものだ。アデレイド様が踊りやすいように、余裕を持ったエスコートをしている。
最初は訝しげに見ていた人たちも、お二人の姿に感銘を受けたらしい。
途中から皆が、エドワード様とアデレイド様のダンスに見入っていた。
優しいけれど、ある意味ではとても模範的なファーストダンス。婚約者同士ではないから当然だけれど、遊びのようなものはなかった。
それでも、終わった時に会場が割れんばかりの拍手に包まれる。
お客様だけでなく、私を含めた侍女たちも手に持ったものを一度置いて、拍手をした。
やがて皇太子殿下のところへ戻り、エドワード様はアデレイド様を皇太子殿下へ渡す。
そして今度は、皇太子殿下とアデレイド様が踊り始めた。
皇太子殿下のダンスはエドワード様と比べると、力強いリードといった感じだ。
さすがは上に立つことが決まっているお方。なんというか、どうすれば主導権を握れるのか分かっている感じだ。
けれど決して独りよがりなエスコートではない、絶妙なバランス。
そして皇太子殿下の、アデレイド様を見る表情と言ったら。
とても甘い。何なら胸焼けしそうなレベルで。なんだろう。謎のダメージを受けた気がする。
仲が良いという噂はあったが、予想以上である。
皇太子殿下のダンスも終わり、その後は各々好きに踊るようだ。
飲み物の給仕も、こうなると出番が格段に減る。皆ダンスと相手探しに必死になるからね。
それでも私はフォーサイス公爵家の侍女。下手な姿は見せられない。
飲み物を欲しがっているお客様を見逃さないように目を凝らしていると、私は違和感に気が付いた。
参加しているご令嬢たちは、エドワード様からどことなく距離を取っているようだった。
先ほどまでは身を乗り出さんばかりに、アピールをしていたというのに。
どうしたのだろうかと、こっそりと令嬢たちに近づく。
さりげなさを装いながら、聞き耳を立てていると気落ちした声が耳に入ってきた。
「あんなファーストダンスを見せられたら……わたくしはいけませんわ」
「その通りですわね……。アデレイド様も完璧な公爵令嬢……。そしてエドワード様も完璧な公子。自分に自信がなくなりますわ」
その言葉を聞いて、私の心に同情が沸き上がる。
確かにお2人のファーストダンスは、お手本のように美しかった。けれど彼女たちも結構な家柄のはず。
そんな彼女たちですら、自信喪失してしまうとは。
彼女たちに同情する気持ちが2割、エドワード様への尊敬の念が8割といった感じである。
と、私自身も一応令嬢ではあるのに、他人事のように考えたのだった。
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