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婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華


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5.家族への報告

 そんなご縁があり、私はフォーサイス公爵家の侍女として雇われることになった。想像以上にトントン拍子で決まって、私が1番驚いている。


 残っている問題は、家族への報告だ。


 こちらはさすがに、一筋縄ではいかないことは分かっていた。今までの家族の行動や言動を考えれば、私が働きに出るなど言語同断であろうことは想像に容易い。


 とはいえ、もう就職は決定事項だ。相手は皇族の血を引く、由緒正しき公爵家。たかが伯爵家が、意見をできるような立場ではない。


 最終着地点は変わらないものの、その場が荒れるであろうことは、覚悟していていても私の気を重くさせた。


 気を重くさせるのは、説明する時の反応だけではない。家族に隠れて行動している罪悪感も、少なからずあった。


 どんなに固い決意をしても、これが最善と信じても罪悪感を感じることはまた別のことだと思う。


 はあ、とため息を吐く。


 両手で頬を叩いて気合いを入れ直し、家族が集まるダイニングに向かった。


 建物自体は広いけれど、多くの者が去った伯爵邸は肌寒さを感じる。


 薄暗い廊下を歩き、ダイニングの扉の前に到着する。


 一度深呼吸をして、軋んだ音を立てる扉を開けた。


「ジェイン、丁度良かったわ。食事の準備が出来たところなの」

「いつもありがとう、お母様」


 お母様――サンドラ・アトウッド――は、ワゴンに乗せた料理をテーブルに移しているところだった。


 何を隠そう、災害が起こった後の食事はお母様が作っている。


 誤解が無いように言っておくが、お母様の生家も生粋の貴族である。ほんの2年ほど前まで料理はおろか、包丁に触れたことすらなかった。


 けれど自分にできることを探し、お母様は今現在、屋敷の家事の大半を取り仕切っている。大分慣れてきたようで、最近メキメキと腕を上げているのもすごい。


 ちなみに私もやろうとしたら全力で止められてしまった。理不尽を感じてしまったのは、内緒である。


「お父様達はまだ来れないの?」

「もうすぐ来るはずよ。あら噂をすれば」


 お母様の言葉と同時に、再び扉が軋んだ音を立てる。入ってきたのは、お父様とお兄様、後ろにジュリアもいた。


「お疲れ様。すぐに食べられるわよ」

「ああ。ありがとう、サンドラ」


 お父様とお母様はチュッと軽くキスをしている。なんだろう、スキンシップが昔と比べると明らかに増えている。


 疲れた顔をしていることが多いけれど、スキンシップしている時は表情が明るくなるので止めることはしない。


 悪いことではないけれどまだ少し慣れないので、私としては恥ずかしい気持ちになるのだ。


「わあ! 美味しそう! お母様、これはなあに?」

「シェパーズパイよ。中にお肉とお野菜を入れたの。この間、領民に教えてもらったから作ってみたのよ」

「凄いわ!」


 ジュリアの誉め言葉に、お母様は嬉しそうに話している。


 うん、さすがに話は食後だ。せっかくのお母様の料理を台無しにしたくない。


 全員が席につき、食前の挨拶をして食べ始める。


 こんがり焼かれたマッシュポテトにスプーンを差し入れると、その間からほこほこと湯気を立てて、とてもいい匂いがした。


 貴族らしさは皆無だけれど、とても美味しい。全員が気に入って、あっという間に食べ終わるくらいに美味しかった。


「サンドラ、また腕を上げたんじゃないかい?」

「ありがとう。最近なんだか楽しいのよ。つい色々やりたくなっちゃって」


 そんな話を聞きつつ、ジェインは手のひらにかいた汗をそっと拭う。


「ジェイン? どうかしたのか?」

「お父様、お母様、お兄様、そしてジュリア。今日は報告があります」

「報告?」


 ジェフサお兄様がいつもと違う私に気が付いたのか、顔を覗き込んでくる。


 そのタイミングで、わたしは震えそうになる声を抑えながら言った。


「私、フォーサイス公爵家の侍女になります」

「……え?」


 私の言葉に、部屋の空気が固まる。


 漏れた声は誰なのか、分からなかった。


「ジ、ジェイン? いきなり何を言い出すんだ?」

「縁あって、フォーサイス公爵家で働く事になったんです。お給金も申し分無く、アトウッド伯爵家にも仕送りできる程度には貰えます。また、衣食住の保証もしてくださるとのことです。時々顔を見せに帰ってくる予定ですが、基本的に住み込みになります」


 お父様の翡翠の瞳が動揺に揺れている。


 私は敢えて情報を最低限にして、事実だけを淡々と話す。


 その私の態度に本気だと悟ったのか、お父様の声が先ほどより大きくなる。


「な、何を急に言い出すんだ。お前はまだ若い。そんな、働きに出ずとも、私が相応しい相手を――」

「お言葉ですがお父様。そう言って約2年が経ちました。もう20歳になります。お父様がどんなに私を評価してくださっても世間一般の目で見れば、私はもう“行き遅れ"です。これ以上、私は“お荷物"でいたくありません」

「っ!」


 私の少し棘のある言葉に、お父様が言葉に詰まる。


「お荷物だなんて……俺たちはそんな風に思っていない。ジェインもジュリアももう少し待てば――」

「家のことも、領地のことも何もしない。ジュリアと違い、学生でもない私は何の役目もありません。これをお荷物と言わず、何と言うのでしょうか?」

「……」


 こんな風に言いたい訳ではない。本当はもっと希望ある言い方をしたかった。


 けれどやはり家族の反応が、好ましいものではないことが少なからずショックを受けた。


 そしてそのことにショックを受けている自分に、一番嫌気が差す。


 分かっていたはずなのに。

 

 家族が私のことを大切に思っているのは、痛いほど伝わっている。


 けれどそれが、お互いに足かせになっていると思うのだ。


 そう考えていたから、私は行動を起こした。暗くなりそうな心を、奮い立たせる。


「申し訳ありません。けれど、私も貴族としての矜持は持ち合わせているつもりです。家族が、そして領民が苦しい思いをしているのに、なにも出来ないなんてこれほど虚しいことはありません。それならば、発育に邪魔する枝は間引きするように、私のことも間引きしていただきたい。……私だって、役目が欲しいのです。この思いは罪ですか?」

「……」

「私はお姉様を応援します」

「ジュリア?」


 重苦しくなった空気に、今まで黙っていたジュリアが声を上げる。

 

 思わずジュリアの方を見ると、その表情は力強い言葉と裏腹に泣きそうなほど歪んでいた。


 そしてジュリアだけでなく。


「わたくしも……応援するわ」


 お母様も小さな声で、ジュリアと同じような表情をして言った。

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