41.後悔
まるで断罪を受けることを待つ人間のように、縮こまってしまう。
何度かエドワード様には、失礼なことをした記憶はあるがどれも鷹揚に許してくれた。
それが今は、許してくれない——そもそも許すという言葉がこの場合適切ではないと思う——空気が伝わってくる。
「そうだよな。来る前から、ジェインはそんな感じだったな……。少しは手ごたえを感じていたんだがな」
「あ、あの……エドワード様……?」
「……すまない。失礼する」
「も、申し訳ありません」
「いや、ジェインは悪くない。すまない」
そういうと、エドワード様は去ってしまう。
その背中には黒い簾がかかっているようだっだ。
「……やってしまった」
その様子は私が彼を傷つけてしまったと語るには、十分すぎる威力で。
今までだって似たようなことがあったのに、許してくれていたのは本当にエドワード様の寛大な心があったからなのだと思い知る。
どうしよう。追いかけても私が相手だと、追い打ちをかけるだけだと思う。
それにエドワード様は、私を責めることはしなかった。そこで責めてくれるなら、甘んじて受けようと思ったのに。
一度言葉を呑みこんで離れるなんて、もう話をしたくなくなったか、感情を任せに怒鳴らないようにしたかのどちらかだ。
様子的に前者な気もして、そうだとすると余計に追いかけることはできない。
そして質が悪いと、自分でも気が付いているのは。
「……なんであんなにショックを受けたのかな」
ということだった。
◇◇◇
さすがにこれは私自身も酷いと思う。思うではない。断定だ。原因がわからないなんて、質が悪いにも程がある。
エドワード様の気持ちを、一番最悪な形で裏切ってしまったということだけは理解しているのだが。
「私ってこんなに人の機微に疎かったんだな……」
他人の気持ちを本当の意味で理解することは、かなり困難を極めるだろう。
だがある程度、大まかになら理解することは可能だろう。
私は全く出来ていなかった訳だけれど。
傷つけたのはわざとではない、悪気がないで済まされることではない。もう少しエドワード様の様子を見て考えて、答えなければならなかった。
いったいここからどうすればいいのか、見当もつかなくて呆然としてしまう。真に呆然とするのは、私ではないのに。
それでも行動しなければ、エドワード様を傷つけたままだ。過去は変えられないけれど、未来なら変えられる。
こういう時、誰かに相談するのも一つの手だ。自分の力だけでは限界があるというか、この場合更に傷つけてしまう可能性がある。
今の時点で傷つけてしまったというのに、自分の考えだけで行動すれば、さらに傷つけてしまうかもしれないのだ。もう失敗する訳にはいかない。
適任者は、エドワード様とも関わりのある人がいいだろう。お兄様はどうだろうか。
この屋敷にきてから、お父様や私の次にエドワード様には接触していると思う。
完全に打ち解けている、友人だというところまで関係ができているかはわからないけれど、聞いてみるのはいいかもしれない。
それに先ほど少し含みのある会話をしていた。となると、悪い関係ではないだろう。
それならば、お兄様が今どこにいるのか探さないと。
先ほどはエントランスにいた。きっと執務室でお父様と、仕事をしているかもしれない。
お父様には話しづらいことなので気まずいけれど、ここは踏ん張らないと。
気持ちを強く持って、執務室へ向かう。
扉をノックすると、執事長が顔を出した。
「ジェインお嬢様、どうされましたか?」
「お忙しいところごめんなさい。お兄様はいらっしゃいますか?」
「どうした、ジェイン」
私の言葉に、お兄様がこちらへやってくる。
「お兄様、少し相談したいことがあるんだ。今日中に時間を貰える?」
「ジェインが俺に相談なんて珍しいね。もちろんいいよ」
お兄様はチラリとお父様を見る。
「後でと言わず、今相談するといい」
「お父様、良いのですか?」
「ああ。急ぎの仕事はないからな」
お父様の優しさに頭を下げる。
「ありがとうございます」
「では父上、少し席を外します」
「ああ」
「じゃあ、行こうか」
お兄様に促され、2人並んで歩き始める。
「場所はどこがいい?」
「一応2人で話がしたいな」
「分かった。じゃあ部屋へ行こう」
お兄様の部屋へ行くことになった。
そういえばお兄様の部屋へ行くのは久しぶりだ。
やはり家具は必要最低限でさっぱりしている。けれど最後に見た時よりは増えているようだ。
部屋へはいると、執事がお茶を準備してくれた。
執事が部屋を出るのを見届けて、お兄様が口を開く。
「それで俺に相談したいことってなんだい?」
「どこから話せばいいのか……エドワード様のことなんだけれど」
「うん」
「先ほど、エドワード様を傷つけてしまって……どうしたらいいかと」
「なるほど、もう少し詳しく話せるか?」
お兄様の優しい声に導かれ、かいつまんで説明をする。
私の心情は入れずに、ただ客観的な事実を意識して話す。主観が入ってしまえば、判断に曇りが出てしまう。
けれど途中からお兄様が頭を抱えてしまい、思わず私の言葉が止まる。
「……続けてくれ。最後まで話は聞く」
「え、っと大丈夫?」
お兄様が頷いたので、再び話始める。
お兄様の反応を見ていると話し続けられなくなりそうで、視線をずらしながら続ける。
話し終えると、しばらく重苦しい空気が部屋を包んだ。
「……ジェイン」
「はい」
「先に一つ聞いておく。その、ジェインはエドワード様をどう思っているんだ?」
この手の質問が最近多い。リリーや奥様、お母様もか。
「とても素敵な方だと思う」
「それは……どういう風に?」
お兄様の質問の意図を考える。素敵の意味って、そんなに多いものだろうか。
「えっと、とても尊敬できるというか、貴族の鏡のようだと思う……かな」
「……なるほど」
お兄様は少し考えて、口を開く。
「答えたくなかったら、無理して答えなくていい。その、ジェインは結婚とかは……」
その言葉に、正直に答えるべきか迷ってしまい、思わず口を閉ざしてしまった。
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