40.食い違い
一度解散することになり、私は自室へと戻った。
部屋に入って早々、大きく息を吐く。急に体が重くなったのを感じる。
なんだかんだ、緊張はしていたらしい。
そのままベッドに倒れたいところだけれど、まだ湯浴みをしていない。
それに明日には帰るから、そろそろ準備をしないと。
荷物は少ないので、そんなに時間はかからないけれど忘れ物はしたくない。
こうして部屋にいれば、エドワード様もジュリアにプレゼントを渡しやすくもなると思うし。
そこはエドワード様に頑張っていただきたいな、と考えていると。扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「エドワードだ」
誰かと思ったら、丁度思い浮かべていたエドワード様だった。
この前は扉を開けずに会話をしたけれど、今日はためらいなく扉を開ける。
あっさり開いた扉に、エドワード様は少し目を見開いていた。
「エドワード様、どうされましたか?」
「……あまりにあっさり扉を開けてくれたからく、驚いただけだ」
確かにこの前は顔を合わせたくなくて、扉を開けようとするのにすら時間がかかっていたっけ。
2人ともその時のことを同時に考えていたということでもあり、思わずくすりと笑ってしまう。
「その時は礼を欠いてしまい、失礼しました。それにしても丁度私も思い出していたんです。奇遇ですね」
「ふ、そうだな」
「それで、私になにか御用でしょうか?」
私がそう言うと、エドワード様の表情が変わる。
「ああ。その、だな」
何故か緊張しているらしい。顔が少し強張っているし、視線が合わない。
エドワード様も緊張することはあるんだな。いや、人間なのだから緊張することはもちろんあるだろう。いつも堂々と振る舞っているのでわからないだけかもしれない。
ああ。でもここにいる間、似たような態度は何度か見ているか。私に対してその表情を見せてくれているというのは、それほどまでに私を信頼してくれていると自惚れてもいいのかな。
貴族は基本的に、相手に仮面を被るものだから。
エドワード様はジュリアにプレゼントを渡したいけれど、緊張しているということなのかな。
貴族である限り、プレゼントするということにはある程度慣れているとは思う。それほどまでに本気だということだろうか。
こう見ると本当、年相応って感じで微笑ましい。さすがに表情に出さないけれど。
「……ジェイン、この後時間を貰えないだろうか?」
「はい。分かりました」
これは本格的に、私に相談するということだろうか。
エドワード様ほどの方なら、微笑むだけで相手を陥落できそうだと思う。
ジュリアが単純とかそういうことではなく、それほどエドワード様が魅力的ということだ。
けれどどうしても成功させたいのであれば、緊張するのも誰かに相談するのも当然のことだと思う。
アトウッド伯爵領にいる状態だと、相談できるのは私くらいだろう。お父様とお母様は、どう頑張っても家のことがチラついてしまう。お兄様とはまだ知り合ったばかりで、距離感を図っているような状態だと考えれば消去法で私だ。
とはいえ、ここはまだエドワード様から話を聞かないことには進めない。
先ほどは少し強引だったかもしれないし、エドワード様から話してもらえるようにしないと。
「良ければどうぞ、お入りください」
「えっ」
「……と言いたいところですが、申し訳ありません。私の部屋はおもてなしをできるようなお部屋ではないので、応接間でお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
分かりやすく固まったエドワード様。
続けて言葉を重ねれば、エドワード様はホッとしたように肩の力を抜いた。
なんだか本当に感情豊かだな。確かに女性の部屋に入るとということは、いろいろ考えてしまうかもしれない。
この提案は失敗だったな。と内心反省する。
「失礼した。そうだな、それでもいいが……良かったらもう一度出かけないか? ランプシェードは一度置いてきたし」
「私は構いませんが……、プレゼントを後にしてもよろしいのですか?」
先に渡したいのではないだろうか。そう思って尋ねると、エドワード様は少し怪訝そうな声音になった。
けれどすぐにその様は消えた。
「? ああ、外出が遅くなれば、外も暗くなるだろう」
今渡すにしても、私がいたらお邪魔虫になると思う。
それよりエドワード様の言う通り、日没までには帰ったほうがいいかもしれないと思う。というか、なんでわたしとお出かけ?
私とお出かけしたら、それこそプレゼントを渡すタイミングがなくなるのでは?
なんだろう。会話はできているのに、かみ合っていない気がする。
「エドワード様、何度も質問して申し訳ないのですが、なぜ私とお出かけを? 私とおでかけしたら、それこそプレゼントするタイミングがなくなりませんか?」
「……? なんでって……まて、ジェイン」
「はい?」
エドワード様は途中で言葉を切って、表情をゆがめる。
それはまるで、今から言うことを信じられない、信じたくないというようなもので。
「今日の買い物は、誰にあげるために買ったものだと思っているんだ?」
「えっと……」
「正直に答えてくれ」
そのあまりに必死な様子を見て、これを答えると、良くない方向に行くことを本能的に察知した。
どうよくない方向に行くのかはわからないけれど、第六感ともいえる場所が警報を鳴らしている状態で答えたくない。
けれどほかでもないエドワード様に言われてしまえば、答えないなんて選択肢はない。
急に口内に溜まった唾液を呑みこんで、恐る恐る答える。
「ジュリアにあげると思っていたのですが……違ったのでしょうか?」
「っ!」
私の答えは、直感通り良くないものだった。
エドワード様がなにも言わなくても、その反応だけで察してしまう。
もしかして、他に気になっている方がいるのだろうか。
そう考えた私は、思わず聞いてしまう。
「べ、別の方でしたか……? 例えば成人のお祝いのパーティーにいたご令嬢とか……」
「……」
「す、すいません……」
さらなる地雷を踏んでしまったことに気が付くのに、そう時間はかからなかった。
もっと早く気が付きたかったけれど、時すでに遅しである。
怒ると言うより、ショックを受けた悲壮感漂うエドワード様に、ただただ謝罪することしかできなかった。
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